3-8
本日の投稿は1話となります。
「弱っている割にはとても元気ですね」
「衰弱状態だからねぇ。逃亡生活の果てにサバイバーになって省エネルギーなんてスキルをゲット出来てなければ死んじゃってたかな、てへっ」
「美人系なのにテヘはずるいです! あと残念です、なんだか!」
魔獣ひしめく危険な幻惑の森の奥、私が出会った美少女はとっても残念な妖精さんでした。
樹妖精マンドレイクさんたちのお姉さま、アルラウネの薔薇姫エフェメラルさんは衰弱しておりました。
私はハイフェアリーになる直前に習得していた妖精魔法(羽)の妖精粉を使い彼女を癒しております。
この魔法は背に生えた羽から鱗粉を飛ばし、それを浴びた者を癒す、HPを回復させる効果があります。
ただし使うとHPを若干消費するという自己犠牲回復魔法なのです。
妖精さんらしい魔法なのですが、HP回復効率は水魔法のリザレクションや光魔法のヒーリングよりも低いので使う事はなかったのです。
あと自分には効果がないからボッチハンターである私には無用でしたしね!
「ああ、やっぱり主様の果実は美味しいわぁ。サイコー!」
MPやSP回復と衰弱状態の原因である空腹を解消してもらうべく、唯一持っていた桃(仮)の瓶詰めを渡しておきました、フォークと一緒にね。
原始的生活を送っていそうな妖精さんたちですが、何故かこのような道具類を上手に使え、しかもエフェメラルさんは上品に使いこなしています。
言動は軽いのに、所作はどこぞのお嬢様って感じです。
何せ擬態を解いた後の姿は赤味を帯びた金髪で縦ロール装備、瞳の色は深い緑で肌は限りなく白に近く、衣服は薔薇の花弁を模した深紅のドレスときたらアニメでしか見た事がないお嬢様ですもの。
マンドレイクさんたちがお姉さまと呼び慕うのは納得の外見です。
しゃべると納得できませんが。
「それで何故このような場所で野外生活をされていたのですか?」
「赤毛くんの所為だよ、赤毛くんの」
それでは質疑応答タイムと参りましょう。
この森唯一の樹妖精の上位種エフェメラルさんは普段からふらりと中層部へとお出掛けになっては深層部に帰る、という生活を送っていたそうです。
そもそも樹妖精たちの活動というのがこの森の植生の維持にありまして、森中をくまなく移動する生活だそうです。
ただ、エフェメラルさんだけは深層部で棲家を持っており、そちらに帰るようにしていたとの事。
そして2月ほど前、ちょうど私がこのファンタジア世界に転生した時期にとある魔獣から今まで以上に執拗に狙われるようになったそうです。
その魔獣というのが赤毛という名が付く猿系魔獣で、ハヤテさんがゲスゴリラと呼ぶ中層部猿系魔獣のボスさんだったのです。
元々このゴリラさんはエフェメラルさんに言い寄っていたそうです、女好きらしいですから美少女を手に入れたかったのでしょうね、うん。
エフェメラルさんはいつもならゴリラさんを軽くあしらっていたそうなのですが、その日は森への侵入者を対処していた時だったので相手にしなかったそうなのです。
「それで拗ねちゃってねぇ。次の日から執拗に狙うようになっちゃったのよ」
「かまってちゃんですきゅぃー!?」
そこからしばらく追い駆けっこ、妖精魔法で植えた巨大薔薇を囮に撒いていたそうなのですが、妖精の花園が復活を知る事となり、樹妖精さんたちと話し合いの結果、皆で移住する事となったそうです。
「それであまり来れなくなるから侵入者対策をお願いしにいったのよー、彼一応中層部でも屈指の実力者だし頭も良いから」
「はぁ、それであれですか。中々会えないならもう強引にでも俺の物にしてやるー、的な行動に出だしたと」
「そうなのようねぇ。自称高貴な紳士を気取ってたから私に触れるような事はしなかったのだけどれど、無理やり連れ去ろうとしてきたのよね。本気の実力行使に出られたら相性の関係で私も負けちゃうし」
「えっと、その頃から森の魔獣たちって争いを激しくしてませんか?」
「んー、そういえばそうねぇ。あ、でも厳密にはそのちょっと前ね。赤毛くんが拗ねちゃった後くらい?」
うん、何となく、いや確実に森の異変の原因がゴリラさんで、その切っ掛けがエフェメラルさんだと気付いてしまいました。
「それでお家に戻れなくなっちゃってね、中層部を彷徨う事になったの。そうしたらサバイバーに転職出来るようになったのよ」
うん、サバイバーの転職条件は結構です、似たようなニートに就いてましたから。
おや?
こうやってのんきに会話してましたら危険感知に反応がありますね、誰か近寄ってきているみたいです。
「赤毛くんもね、嫌いじゃないのよ? ただ、こう、彼の趣味って特殊だから伴侶になる気は起きないのよ。疲れちゃいそうだし」
「特殊な趣味、ですか?」
「そうそう。だって彼の趣味って」
「それ以上口にしてはいけませんよ、私の薔薇よ」
その誰かさんが突然スピードを上げて急接近してきたかと思うと片膝立ちになり、私たちの会話に割り込んできました。
片膝立ちでも私よりも高い顔の位置、屈強さを体現した隆起した筋肉、身を包むのは炎のように赤く燃え上がる体毛。
どう見てもゴリラな魔獣、ゴリラさんでした。
「あ、ゴリ」
「誰がゴリラだ、ゴラァアアアアアア!」
かぶせるぐらいゴリラ呼ばわりは相当嫌なようで、性格が豹変しちゃいましたよ、このゴリラさん。
赤毛の猿系魔獣ゴリラさんは急に立ち上がって咆哮し、胸を激しく叩く行為、ドラミングを披露してくれました。
まごう事なきゴリラです、ありがとうございました。
「はっ!? ふむ、あなたが復活した羽妖精ですか、中々にチャーミングな女性だ」
「あ、これはどうもありがとうございます。私はハイフェアリーのサクラです。赤眼様の庇護の元、この森の調査を行っておりました」
「ほう、サクラさんとおっしゃる。良い名ですね。エフェメラルさんの次に素晴らしい」
「こういう子なのよ、彼って」
「はぁ」
こう、二次元に登場する王侯貴族の紳士ぽい仕草と口調で私を軽く褒めてくれました。
ちょっとはうれしかったですが、相手はゴリラさんですからトキメキは一切ありません。
「おっとこれは失礼。自己紹介がまだでしたね」
そのゴリラさん、姿勢を正して右手を胸に添え、左手は後ろに回して一礼する優雅な所作を見せ、ゴリラさんなので似合わないからキザっぽい態度を披露してくれました。
そして名を名乗ろうとしてくれたのですが、何やら急接近してくる者が。
「私はこの幻惑の森の貴族、赤き衣を纏いし魔獣、スカーレ」
「おい、サクラ。何を遊んでやがる。早く戻って来ねえから探しにきちま、げっ!? エフェメラルがいやがる!? あと序にゲスゴリ」
「誰がゴリラだ、ゴラアアアアアア!」
「あ、ワンちゃんやっほー」
音もなくやって来たハヤテさんが遮ってしまいました。
「うわぁ、カオスだぁ」
中層部の強者揃い踏み、あ、蛇兄弟は倒しちゃったから厳密には違うけど、強者が一同に会したのでした。
うーん、本当にカオス。
「おい、くそ狼。俺をゴリラと呼ぶんじゃねぇ!」
「ゴリラじゃねーか、どう見ても」
「・・・やっぱりお前は殺す」
「はっ、やってみろってんだよ!」
あ、どうやらバトルが始まるようです。
「あ、サクラちゃん、こっちにおいで」
「あ、はい」
エフェメラルさんはのほほんと私を招きよせ、差し出した手の平に何かの種、おそらく薔薇の種を作り出し発芽させました。
「樹妖精はね、こういう事もできるのよー」
どうやら妖精魔法を使っているようで、急激に種は茨、薔薇の茨を大量に生み出してどんどん辺りを囲います。
「お、おおう」
まるで茨で出来た鳥籠、それを何重にも張り巡らせて、強者同士の戦闘の余波を防いでくれました。
「す、凄いですね。妖精魔法(樹)って植物を自在に操れるのですか?」
「誰でもって事ではないけどねぇ。一応樹妖精や樹妖精を祖とするエルフだったら資質次第で使えるようになるわよ、植物操作は」
「え? エルフって妖精が先祖なのですか?」
「うん、そうよー。メイヴ様が言ってたもの。妖精と人間の間に子が出来た時、その子は人間かエルフになるんですって」
「メイヴ様?」
「あら? メイヴ様を知らないのね。赤眼くんは何をしてるのかしら?」
「あ、赤眼、くん、ですか」
「だって赤眼くんは赤眼くんじゃない。それでメイヴ様は羽妖精の祖である妖精女王よ。妖精で唯一クイーンに至ったね」
「きゅ、きゅぃー!?」
茨の鳥籠の外ではハヤテさんとゴリラさんが、死ね、とか、くらえ、とか熱いバトルを繰り広げておりますが、私たちはのんきに会話などしております。
風が吹き荒れ、炎が舞うその戦いは激しく、辺りの木々を粉々にしていってます。
正直ハヤテさんの動きはほとんど捕らえられないので、何をしているかはよく解りませんが、炎や拳を避けて肉球スタンプとかを繰り出した瞬間だけ目に出来ます。
うん、熱いのはゴリラさんだけで、ハヤテさんは遊んでますね。
あ、私たちの会話の内容ですが、色々と驚愕の事実が盛り沢山なので、ちょっと纏めたいと思います。
まず、エフェメラルさんは妖精女王や勇者とも面識があり、赤眼様をくん呼びするほどの知古な推定100歳以上の美少女です、少女?
メイヴとは妖精女王の名前のようで、女王という冠、クイーンという種に至ったのは妖精種の中でも妖精女王だけだったようです。
序に勇者の名前はクリスというそうです、あとエフェメラルという名前は妖精女王が命名。
そしてエルフという種族は、人間種と妖精種の間に生まれたハーフであり、その子孫もエルフとなるようですね。
なのでエルフは必ず妖精を祖とする者たちで、どの妖精が祖だったかで適正が変わってくるそうです。
羽妖精だったら風や光魔法、妖精魔法(羽)の適正があり、樹妖精なら水や地魔法、妖精魔法(樹)の適正があるらしいですよ。
うん、まるで見た目だけはバトルもののクライマックスに見えるハヤテさんとゴリラさんの壮絶バトルが展開されてるのに、そっちよりも気になって仕方がない情報でした。
「ええい、くそ、めんどくせぇ!」
「動きだけは早いが、貴様では威力が足りない! もっと強力な一撃を出せないのか!」
「お前を全力で殴りたくねえんだよ、このドM野郎!」
「え? ドM?」
「うん、そうなのよねぇ。赤毛くんの趣味って被虐なの、それも相当な」
「きゅ、きゅぃー!?」
「やはりくそ狼ではダメだ! 私にはエフェメラルさんしかいない! エフェメラルさん、私と一緒になって毎日縛り上げてください、あなたの茨で!」
えっと、美少女だから欲してただけじゃなく、茨を操る薔薇姫だから欲した、という事ですか。
確かにエフェメラルさんの茨の棘って痛そうですよね、凄く堅そうだし。
そ、それで縛られたいとか、確かに特殊過ぎる趣味でした。
なお、その後中々バトルが終わらないので、SPを回復しきったエフェメラルさんが茨を操って鞭にし、ゴリラさんを縛り上げて戦闘終了、満足したので騒乱終了となりました。
その時のゴリラさんの表情や雄叫びは、もう、思い出したくありません。
何、これ?
「エフェメラルが早くあの小僧を縛り上げれば済んでいたのではないか?」
「えー、嫌よ、気持ち悪いしー。私も縛ったり閉じ込めるのは嫌いじゃないけど、あれはないわよー」
「えっと、エフェメラルさんの茨の鞭や檻って好きでやってるんですか?」
「そうよー。だって薔薇は美しいけど棘があるじゃない?」
「あ、はい、そうですね」
さて、ゴリラさんも大人しくなり、ハヤテさんという大変優秀な護衛を得ましたので無事に主様の根元まで帰って来れました。
もちろんエフェメラルさんも一緒に帰って来たのですが、ハヤテさんは赤眼様を見た瞬間に消えました。
何故か、げっ、とか呟いてましたが、そんなに苦手なんですかね?
それとエフェメラルさんの事も苦手にしているようです、本当に何故でしょう?
「えっと、それでエフェメラルさんもこちらに棲むのですか?」
「そうしようと思ってるわよ。いいわよね、赤眼くん?」
「好きにすればいい。エフェメラルならここの道理もわきまえていよう。ただ、新しいルールはサクラから聞くことだ」
「あ、説明しますね」
「おねがいねー、サクラちゃん」
そういう事で、妖精の花園の仲間が新たに加わりましたとさ。
なお、ハヤテさんがエフェメラルさんを苦手としている理由は抱き着き癖がある事のようです。
そしてエフェメラルさんは、興奮すると体中から棘を出すので痛いのです、すっごく。
私も抱きしめられて頬をぐりぐり、棘でぐさりとやられたので実体験です。
た、確かにこんなことされたら苦手になりそうです。
あとワンちゃん呼ばわりもね。
「サクラ」
「はい、赤眼様」
「無茶はするな。命を大事にする事だ」
「はい、赤眼様の仰せの通りに」
赤眼様に無茶するな、と怒られました。
でも、優しさが滲む怒られ方だから、これは叱る、保護者が被保護者へ対するものですよね。
だから私は怒られたにも関わらず、にへらっと笑みを浮かべるのでした。
さあ、明日も妖精生活がんばるきゅぃー!
こんな時まできゅぃーな私は、何時になったら治るのでしょうか?
お読みくださってありがとうございました。
この話を持って一区切り、大体ラノベ換算で一冊分ぐらいになると思います。
次の話から仕切り直しになりますので、間に登場人物紹介などを挟みます。
多分今夜か明日には投稿できるかと。




