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珍獣記  作者: 山下亜輝
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第一話 MY LIFE

 はじめまして亜輝です

この物語は一人の少年が少年のまま大人の世界へ飛び込んみ、その世界の中で生きていく誰もが経験していく過程を記したものです

 楽しみ、苦しみ、悲しみ、疑問や誘惑その全てを素直な気持ちで受け止め地位や名声、立場などを大人では手放したくないものを見事に無視し自分の生き方を確立する少年を通して私自身ができない生き方を、もうひとつの生き方を共感してもらえたらいいなと思います

初投稿で納得いかない部分もあるかと思いますがよろしくお願いします

珍獣記(my life)                                


     プロローグ                              

 ZC1943年、第二の太陽の下、大地と海のある豊かな世界ロストダム。人々は、その豊かな土地をめぐり争う。永きに渡り繰り返された戦いはファインダム民衆国とロックシス帝国の二大大国がお互いを牽制することで一時凍結状態となった。しかし、この冷戦状態も永くは続かなかった。ファインダム民衆国はロックシス帝国の重税に苦しむ国民を解放するために立ち上がった。その動きに他の国々も同調し、ロックシス帝国に流れ込んだ。その数約50万、瞬く間に帝居は取り囲まれリーカンス4世はその権限を国民に返還した。(後に聖戦と呼ばれ人々に語り次がれる。)その後ロックシスの権限はファインダム民衆国に委ねられることになった。この出来事がきっかけで他の国々からも指示を受けファインダム民衆国は世界を統一することになる。ZC1954年ファインダム民主国設立である。

 ファインダム民主国は統一戦争(聖戦)の指揮者であるアシルマを大統領に押し上げた。大統領の提案により世界を48エリアに分割し、首都を第1エリア、リベーブルにおいた。しかし、48全てのエリアを統括出来るわけでもなく、いくつかのエリアでは一部分のみにしか介入できないのが現状であった。そのため民主憲法を制定し、人々の生活の安定を図るために数々の国際機関を作った。さまざまな犯罪に対応するWPO(世界警察機関)。戦争によって肉親を失った子供たちを保護、育成するWWO(世界戦争孤児保護育成機関)。その他にも、開発、保健、水産、農林、運輸、治安維持、ありとありえる国際機関をつくらせた。WFO(世界猛獣対策機関)も、その中の一つだった。アシルマ大統領はこの機関の長官に戦友であり動物学者でもあるルークを推薦するが、ルークはその地位を蹴って猛獣対策捕獲官(通称・F・ハンター)として残りの人生をかけることにした。とは言え、新政府の力が未だ及ばない未開の土地もあった。そんな場所は、豪族や昔からのしきたりが支配していた。

 ZC1961年・第26エリア、エリアの大半を深い森に覆われ、未だ開発が行われていないコーレス。ルークは長官の命を受け、生息が危ぶまれている全長6メートル・肉食鳥としては最大の怪鳥ソリッツを発見し調査するためにこの地に訪れていた。

「いたぞ、殺してもかまわん逃がすな!」

数人の男達が草木をかき分けて、ルークとその子供を追う。

「逃がすなよ。」

男達は必死に二人を追っていた。その少し前方、ルークは子供の手を引き、森の先、第28エリア、ヒュールファー国境に向かい走った。右手にはF・ハンター専用68式ガンファーがしっかりと握られていた。やがてルーク達は深い森を抜け国境に架かる唯一の吊り橋が瞳に入ってきた。

「だいじょうぶか、あの橋を渡ればあいつらは手を出せない。」

ルークは草原を走りながら子供にやさしく言った。突然、後ろからいくつかの黒い筒状の物体が飛んできた。

「くそっ、ダイナマイトだ、伏せろ!」

ルークは子供の体を覆うようにして伏せる。ダイナマイトは、ルーク達の頭上を遥かに飛び越して吊り橋の上に落ちた。

(ドカーン、ドカーン)

(ザァザァーンゴォー)

爆音とともに吊り橋は炎をあげ、谷底へと崩れ落ちて行った。ルークはその一部始終をみとどけることしかできなかった。後ろからはMSマシンガンで武装した男達、前は越えることのできない渓谷。ルーク達はついに逃げ場を失った。その時、

(バババババーン)

MSマシンガンの銃声が辺りに響き渡った。

「うぐぅーっ」

ルークのズボンが赤く染まり、焼けるような激痛の末、足の感覚がじょじょになくなっていった。痛みのため意識が薄れゆくなか、ルークは自分の手に持っていた68式ガンファーを両手で子供の手にしっかりと握らせた。

「よ、よくきけ、人は数百年に渡って大きな過ちを犯してきた。たぶんこれからも身勝手な過ちを犯し続けるだろう。」

ルークは不安にかられ今にも泣きそうになる子供に微笑みながら言う。

「いたぞ!殺せ、ガキもいっしょだ。」

「奴等にもう逃げ場はない。じっくりいたぶってやろうじゃないか。」

男達は森を抜けると不適な笑みを浮かべ、走る事をやめてルーク達のいる場所へと近づいてきた。ルークは片足でふんばり男達を背に立ち上がった。それはまるで子供を守る盾のように・・・

(バババババーン)

「あっ、」

立ち上がったルークの体に数十発の銃弾が打ち込まれた。ルークは全身を震わせながら手で口を塞ぐ。手の隙間からは大量の血が地面へと流れ落ちた。衣装はじょじょにどす黒く染まり、全ての感覚が麻痺していった。

(何だ、とても静かだ。・・・何も聞こえない。それどころかさっきまでの痛みすら感じない。)

ルークは自分の命が尽きることを悟り、血のついた手でトレードマークのカウボーイハットを押え込むように子供にかぶらせた。

「お、おまえは、その過ちをどう受け止めるのかな。もう一緒に確かめる事はできそうにない。生きろよ。」

ルークは終始笑顔で言い続けながら子供を抱きかかえ渓谷の方へ足を向ける。子供の目から大粒の涙があふれでる。刻一刻と追手がルーク達に近づいてきた。

「でっかくなったな。」

ルークの震える手がカウボーイハット越に子供の頭を軽く押さえた。

「さよならだ、」

ルークは最後の力を振り絞って子供を渓谷へと投げ込んだ。

「死ぬなよ。そして真実を見つめろ。ルーカ!」

やがてけたたましく銃声が鳴り響き、ルークは大地にその体を委ねた。

     

      見え始めた未来                                

 ZC1965年 ファインダム民主国28エリア、ヒュールファー南部小さな田舎の村グッズ。少年の物語はここから始まった。

「それじゃあ行く。」

崖から投げ落とされたルーカは、頭部に大怪我をしたもの奇跡的に助かり、この村の戦争孤児救済教会ハウスで今日まで保護を受けていた。頭部の怪我の後遺症か、断片的に幼少の記憶が飛んでいた。が、父が最後に言った事だけは、はっきりと覚えていた。

「ルーカ、何処か行く当てはあるの?」

シスターは胸で両手を握り祈るように尋ねた。

「行く当てはない。でも進むべき道はある。F・ハンターになる。決めたんだ。」

ルーカは凛とした態度で言った。ファインダム民主国は財政難のため民主社員を中枢部だけ残し解雇した。しかし人手不足が大きな問題となった。そのため政府は一切の保障をしない、高額収入アルバイターを募集することに決定した。その一つがF・ハンターであった。

「それがお前の決めた道なら、何も言う事はない。ほれ、これは返しとく。それからこれ、もっていけ。」

園長はルーカに68式ガンファーと袋に入った少しのお金を投げ渡した。ルーカは孤児学園の門の前でみんなに手を振って別れを告げた。カウボーイハットにロングブーツ、さながら開拓時代のガンマンと言った格好。銀色の髪に淡い青い瞳。腰のホルスターには先ほど渡された68式ガンファーをぶらさげ、手荷物一つ持ちルーカは学園を後にした。

「もう15歳か、あのやんちゃ坊主が一人前になりやがって。」

ルーカが行った後、園長は門の前で一人煙草をふかしながら遠くを見詰めていた。

「園長先生、ポロンちゃんがいません。」

「ふっ、あの御天馬娘。自分の道を見つけたようだな。」

園長は煙草を消して空を見上げた。遥か遠くまで見渡せそうな澄んだ空。この日、二人の子供達が孤児学園から新しい世界へと巣立っていった。

 のどかな田舎道を遥か先にある町に向かって北東へと進んだ。ヒュールファーを南北に分ける大河ガイサル川を渡り、森を抜けた。緑の木々がなくなり町までの最大の難所であるゴヘイズ砂漠が見え始めた時、一人の少女がルーカの後を追って走って来た。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。」

その聞き覚えのある声にルーカは振り向いた。

「ポロン、そんな格好で買出しか?」

茶髪の小柄な少女は、茶色のロングコートに身を包み、肩から小さな鞄をかけ両手で大きな荷物袋を持って息を切らせながら走ってきた。

「買出しのはずないでしょう。抜け出して来たのよ。」

ポロンは大きな荷物を降ろしてルーカの前で座り込んだ。

「抜け出してって、まっ、いいか。でもよく追いついたな。」

「あんた方向音痴だから、同じ場所、何度も回っていたんでしょう。真直ぐここまで来ればそんなに時間はかからないわ。」

ポロンは地図を出し現在地を指し示しながらルーカに説明した。その場で少し休んだ後、ルーカとポロンは町へと続く道を歩き出した。もちろんポロンに導かれながら・・・

学園を旅立ってから4回目の太陽が沈もうとしていた。

「今日はこの辺で野宿でもするか。」

「あー疲れた。」

二人はレトンの町まであと70km、(砂漠のへそ)と言われている湖の辺でキャンプをすることにした。湖周辺には木々が芽生え、小動物がその恩恵を受けていた。ポロンは大きな荷物を地面におろし水辺に腰を下ろした。ルーカは、自分の荷物を降ろすと辺りの小枝を集め、火を熾した。そして来る途中に捕まえた川魚を串刺しにしてたき火の前に並べた。二人は夕食を終え今日一日の疲れをとるために早く寝ることにした。辺りは暗闇が支配している。唯一、焚火の明かりが二人を照らしていた。

ルーカが眠りに就くか、就かないか、の時、まだ眠りに就けないポロンは体を起こし、口を開いた。

「最近(金髪の狼)って言う正義の味方が出るって噂なのよ。ルーカ、」

ポロンはカウボーイハットを顔の上に置き、焚火の側で眠りにつこうとしているルーカに話し掛けた。最近、巷を騒がせている姿無き英雄の噂話に瞳を輝かせていたのだ。

「知らないよ。」

「あー、一度あってみたいな。それでね・・・」

ルーカのそっけない返事など気にしないポロンは、一方的に話し続けた。こうなったポロンを止める手立ては無い。仕方なく眠い目を擦りながらルーカは話しを聞いた。

 やがて月が西に傾き、静けさと暗闇が凌駕する深夜となった。

「あれ、ポロンこんな夜更けに何所に行ったんだ。・・・まっ、いいか。」

ルーカはカーボーイハットを深くかぶり眠りにつこうとする。

(ガサガサ)

その時ルーカは、周囲の草を踏みながら何者かがこちらに向かって来ていることに気づき飛び起きた。一人の足音ではなく、複数の感じだった。

「だれだ、」

ルーカは腰にぶらさげていた68式ガンファーのトリガーに指をかけた。

「だれだってよー、どうする兄弟、」

「有り金、もらっていきましょう。コルネ兄貴。」

暗闇の中から五人の黒いマントを纏った男達が現れた。その中の一人は身長2メートルほどの大男。左眼に眼帯をはめ髭をはやし殺気がにじみでていた。

(まちがいなく、この一団で一番強い)

ルーカは瞬時にそう感じた。

「ほおー、ガキじゃねぇか。それにどう見ても金なんてもってなさそうだぜ。」

「明かりが見えたんで来てみたらこれだ、ついてねぇーな。」

「帰りましょう、コルネさん。」

「ふっ、今日は一仕事して疲れてるんだ。小物に用はねえ。運がいいぜ、小僧。」

どうやらこの辺をねぐらにしている山賊らしい。賊はルーカが何も持ってないと思い、この場を去ろうとした。

 「ぬぅーん、お前らちょっと待て。」

賊の一団が立ち去ろうとした。その時コルネはルーカの腰にぶらさがっている68式ガンファーに気づき手下を停止させた。

「おい小僧、良い物、持ってるな。ちょっと見せな。」

「やだね。」

ルーカは素早く68式ガンファーを抜き我流であみだしたトンファー円舞の構えを取った。

「小僧、俺をだれだと思ってんだ。」

コルネは愛用のW&Wリボルバーをホルスターから抜き、照準をルーカに合わせた。

「おとなしくしてりゃあ調子に乗りやがって、」

手下達も銃を構えルーカに照準をあわせようとするが、ルーカは素早く身をかがめ横に飛んだ。手下達はルーカを見失った。次の瞬間ルーカのガンファーが手下の二人を打ち倒した。

「残り、三人。」

ルーカはコルネを見てにっこりと笑った。コルネもそれに答えるように薄笑いを浮かべた。手下達はこの光景に後ずさりをした。

「ルーカ、なんだか騒がしいけど、」

「しまった。ポロン逃げろ!」

ポロンが、今の状況をしらずに賊の後方からルーカの元へと帰ってきた。

「おっと、動くなよ。」

賊の一人が素早く逃げるポロンの腕を捕まえ、こめかみに銃を突きつけた。ルーカはどうすることも出来ず、68式ガンファーを降ろし、構えをといた。

「このガキが!」

(バコッ!)

賊の一人がルーカの頭を銃で殴りつけた。ルーカは吹き飛ばされ倒れた。うつぶせに倒れたルーカの手にはしっかりと68式ガンファーが握られていた。

「ルーカ!」

ポロンは賊の手をほどきルーカの所に行こうとするが、賊の手はびくともしない。そのうちに、賊の一人が68式ガンファーを握っているルーカの利手を踏みつけガンファーを取り上げた。

「洒落たもん、持ってんじゃねえか。」

(ボコッ)

賊は倒れ込んでいるルーカの横腹を蹴り上げた。ルーカは痛みで顔をゆがませながらあおむけになった。コルネは68式ガンファーを持ってルーカから離れた。

(ボコッ、バコッ)

「こいつ、ふざけたまねしやがって。」

「よくもやってくれたな。」

「俺達をあまくみるなよ。」

手下達は、あおむけになっているルーカを痛めつけた。ルーカは、みるみるうちにぼろぼろになっていった。

「そのへんでやめておけ。」

コルネはそう言って、手下達をさがらせた。

「小僧、こんどからは調子にのるんじゃねぇぞ。命だけは残しといてやる。」

コルネは、ぼろ雑巾のようになったルーカをみおろし唾をはきすてた。

「おい、かたーついた。その嬢ちゃん放してやれ。」

ポルネは手下にポロンを解放するように言った。

「ほらよ。」

「ルーカ大丈夫」

ポロンはあおむけになり傷ついているルーカに駆け寄った。ポルネ達はルーカのガンファーを奪い闇の中に姿を消していった。

「ま、まちやがれ、」

ルーカは掠れた声でそう言うと、ゆっくりと目を閉じだまりこんだ。

「ルーカ大丈夫、ルーカしっかりして。」

ポロンはあわててルーカの胸に耳をあててみた。

「どうやら痛みで気絶したみたいね。」

ポロンはルーカの服とカーボーイハットをそっと脱がした。体じゅうアザだらけになっている。銃で殴られた時にでた頭の出血はそこまでひどくないが、蹴られた脇腹は、紫色に変色し局部的にはれあがっていた。

「なによこれ、凄い腫れあがっているじゃないのよ。いそいで医者にみせなきゃ。」

ポロンは気絶したルーカと持てるだけの荷物を持って暗闇の中すぐさまレトンにむかった。しかしポロンにルーカと荷物は重すぎてなかなか先に進む事が出来ずにいた。

(ドサッ)

「もう、あるけない。」

数キロ歩いた所でポロンはついに力尽き、倒れた。

地平線の彼方に赤味が射し、広大な砂漠の温度が上がりはじめた。ポロンはルーカと共に砂の上にうつ伏せで倒れていた。

(サーサーサ)

砂を滑るような音が聞こえ、黄色と黒の体をくねらせ砂漠の毒蛇、虎蛇がルーカの元に近づいてきた。夜行性の生物達が塒である岩陰を探し移動を始めていたのだ。ポロンの目にはしっかりとそれが映るが、ルーカをかばうことすらできなかった。意識の無いルーカの腕に虎蛇が噛み付こうと牙をむき出しにした。

(ザクッ)

「おい、しっかりしろ、生きているか。」

危機一髪のところで、虎蛇の頭部をナイフが突き抜け、砂漠に突き刺さった。

「ほっ、」

安堵のため息を吐いたポロンの側に、一人の男が声をかけてきた。

「あなたは、」

ポロンは力を振り絞り、顔を上げた。そこには数人の白いコートの男達が馬から降りて立っていた。その身なりは清潔感があり、行動も迅速、何よりも統制が取れていた。軍隊か私設警察である事はすぐに分かった。

「カイト隊長、生きています。」

白いコートの男達がポロンから少し離れる。そして、赤いコートを着た少年がポロンに近づいて来た。その少年の髪は金色で短く、青い瞳。身長は160cmほどの美男子。襟元には二つ星の襟章がつけられていた。

「大丈夫かい。」

少年はそう言うと優しそうに笑い手を差出した。しかし、その眼は寂しさと冷たさを内に秘めたようだった。

「あ、ありがとう。あなたがたは、」

「紹介が遅れたみたいだね。僕達はヒュールファー第二保安隊。そして僕が隊長のカイトです。」

その間にも他の隊員は手際よくルーカの様態をみていた。

「隊長、この少年の様態は思わしくありません。速やかに病院に運ばないと命にかかわります。」

「よし、二人をレトンに運ぶぞ。」

保安隊は二人を慎重に馬にのせ、この場を後にした。

 ヒュールファー第二の都市レトン。都市と言っても人口1000人ほどの小さな町。周辺には数々の遺跡と温泉があり、シーズンには人口の10倍ほどの人達が町を埋めつくす。しかし今、この町には観光客は一人もいない。町はまるでゴーストタウン。

「この町やけに静かね。」

「奴等がこの辺りに現れてからこのありさまです。」

「奴等って、」

「いや、あなたが気にすることではありません。それよりお連れの方を速く医者に見せなければ。」

カイトは拳を握り締め怒りを表に出した。

 カイト達は、ルーカとポロンを病院に連れていった。

「ここです。たぶん驚かれると思います。」

町の景観を損なわないようにつくられた小さな病院。カイト達は二人を連れて病院の扉を開けた。

「ちょっと、どいて。」

「急いで第二処置室に運んでください。」

病院に入るとそこは、まるで野戦病院のような忙しさであった。多くの人が並べられたベッドに横たわっている。

「こりゃーひどい、すぐに第一処置室に。」

「ジンさん、看護士さんの指示に従ってください。」

扉を開けてすぐに一人の看護士がルーカの事に気づき駆け寄って来た。看護士の的確な対処でルーカを一番近い処置室に保安隊員の手をかり運んで行く。ポロンも心配そうにその後を追う。

「着ているもの全部とってくれ。」

「頭部化膿止め、射ってくれ、」

「はい」

「先生、麻酔がもうありません。」

「しかたないな、少年、少し痛いが我慢しろよ。」

2時間ほど経ってようやく全ての処置が終わった。ルーカは病室のベッドに移され静かに眠りについた。

「ありがとうございました。」

「それより、かなりひどい状態だったよ。アバラ2本に全身打撲、右手はヒビが入っているようだ。まっ命に別状はないが、誰にやられたんだ。」

「えっと、確かコルネって言ってた。」

その言葉を聞き、ポロンに付き添っていたカイトが頭を抱えた。先生は部屋を出て行く。入れ替わりで保安隊員がカイトのもとにやってきた。

「なんだって、西の町に昨日コルネが現れたって。」

「コルネって何者なの」

「コルネは盗賊団の頭です。最近この辺りに現れたのですが、かなり腕がたつらしくて3つの保安隊がやつによって壊滅させられています。」

「そんなに凄いやつだったんだ。」

「でも心配にはおよびません。あなたはその少年の側で看病していてください。」

カイトはそう言って部屋を出て行った。依然、ルーカは静かに眠ったままだった。

 それから二日後第二保安隊詰め所、隊長室。カイトは机に座り、コルネ盗賊団の行動データーを分析し、次の出没先を考えていた。

「カイト隊長、コルネ盗賊団の隠れ家を見つけたとの情報が、第十六保安隊からはいりました。」

一人の隊員が慌ただしく隊長室へと入って来て、カイトに連絡書を渡した。

「失礼します、本部から第十六保安隊への支援要請が届きました。」

立て続けに他の隊員も扉の前で敬礼し、カイトのもとにやって来た。そして、本部からの伝令を告げる。

「全隊員に緊急招集をかけてください。今から第十六保安隊の支援に向かいます。」

カイトは立ち上がり、背中のホルダーに短く不格好な木刀をさし、それを覆い隠すように赤いコートを纏った。

「第二保安隊出動。」

カイトは詰め所前に集合した保安隊員に号令をかけた。

 コルネ盗賊団の隠れ家はレトンから東に30kmほど行った紅の森にいると言うことだった。カイト達第二保安隊はコルネ盗賊団の隠れ家に向かった。これまでの戦闘でぼろぼろになったジープ1台と茶毛や白毛の保安馬4頭、そしてもう一頭カイトが跨る額から鼻筋に通った大きな十字傷がまるで勲章のような黒い保安馬ラナウェイで向かった。

「隊長、前方から保安馬が走ってきます。伝令馬だと思います。」

前方を走っていたジープがカイトの乗っているラナウェイに近づき報告した。

「無線を使わず伝令をたてるとは、第十六保安隊の隊長はたしかダッジさんでしたね。僕達が行くまでもなかったと言うことですね。」

カイトはうっすらと笑いを浮かべた。しかしカイトが目にしたものは、保安馬の鞍にぶら下がった血だらけの保安隊員が砂煙舞う砂漠から走って来る姿だった。カイトは隊を停止させ、馬を止め隊員を鞍から降ろした。

「どうしたのですか。第十六保安隊はどうしたのですか。」

降ろした隊員に応急処置をほどこし、紅の森で何がおきたのか理由を聞くカイト。その隊員はかすれた声でカイトに現状を報告した。傷ついた隊員をジープにのせ、第二保安隊は紅の森に急いだ。

 紅の森・・・サボテンの一種で高さ十数メートルほどの紅色の砂漠植物、赤サボテンが数キロにわたって咲き乱れていた。紅の森に近づくにつれて、カイトの表情は重く険しいものに変わって行った。悲惨な真実をまのあたりにしたのだ。第十六保安隊員、十数人が無残なありさまで倒れていた。すぐに第二保安隊員はカイトを残し、ジープや保安馬から飛び降り現場検証を始めた。

「隊長、生存者がいました。」

一人の隊員が生存者を見つけカイトを大声で呼ぶ。カイトはラナウェイから飛び降り、倒れている者の元へと急いだ。そこには頭から大量の血を流し、今にも意識を失いそうな第十六保安隊隊長ダッジが横たわっていた。

「これはいったいどう言う事なのですか。」

カイトはダッジを抱きかかえ事情を聞いた。ダッジは表情を歪ませながらカイトの袖を掴んだ。

「わ、わが、隊は、コルネ盗賊団に、か、壊滅させられた。お、お前らは、」

「私は、第二保安隊長カイトです。それで奴等は、コルネ盗賊団は。」

傷ついたダッジは震える手である方向を指差し、気を失った。カイトは唇を噛締め体を小刻みに震えさせた。

(悪を許すな。悪は全滅させろ。)

そんなカイトの脳裏に、いつもの低く暗い声が響いてきた。

「うっ、」

カイトは俯き両手で頭を覆った。指の隙間から出た髪の毛が微かに輝いた。

「た、隊長、隊長、」

「はっ、」

隊員に声をかけられ、カイトの髪が元に戻り、意識が現実へと帰ってきた。

「隊長、ジープの用意が出来ました。速くダッジさんを乗せてください。」

「あ、ああ、そうでしたね。お願いします。」

カイトは気絶したダッジをジープに乗せた。そして指差した方角を悔いるように見た。その方向には、このエリアで最も大きくそして、レトンの側を流れ水源にもなっているハンバルド川があるだけだった。

「まさか、奴等、川を溯ってレトンを襲撃する気じゃないのか。まずいクリスさん、至急レトンに避難勧告を、」

「わ、解りました。」

カイトはラナウェイに飛び乗りレトンに向かいはしり出した。

「私は、先に戻ります。後のことは頼みます。」

「了解しました。迅速に処理した後にレトンに戻ります。」

 そのころ、何も知らないレトンの町はいつもとかわらない静かな一日が過ぎ去っていた。そして、病院では・・・

「ここは、どこだ。」

ルーカが永い眠りから目覚めた。

「ルーカ、気がついたんだね。よかった。もう、心配したんだよ。」

「ポロン、俺はどうしてこんな所にいるんだ。」

その時、先生が往診にルーカのいる部屋へと入って来た。ポロンは慌てて先生の所に駆け寄った。

「先生、ルーカが変なの。今までの事、覚えてないみたいなの。」

「今までって、ああ、たぶん打撲による一時的な記憶喪失だな。直に回復する。」

その言葉にポロンは安心する。先生はルーカの側にいき診察をはじめた。

(バタン)

ルーカの病室の扉が勢い良く開き、看護婦がけたたましく部屋にかけこんできた。

「先生大変です。保安隊から避難勧告がだされました。」

「なに、どう言う事だ。」

「コルネ盗賊団がこちらに向かっているとのことです。はやく避難を。」

「コルネ、コルネだって、あの野郎。」

突然ルーカは何かを思い出したように、ベッドから飛びおき、外に向かおうとするが、体制を崩し倒れ込んだ。

「いっ、いてーっ」

「何やってるの、あなたは重傷なのよ。そんな体でどこに行こうとしてるの。」

ポロンはルーカの肩に首を入れて立たせようとするが、ルーカはその行為を振り払い、服を身につけ始めた。包帯だらけの体覆うように服を着るとトレードマークのカウボーイハットを深くかぶった。

「ちょっと、本当に行くきなの。」

「ああ、取り返さなきゃあならない物があるんだ。」

ポロンはそれ以上聞くこともなく病院関係者とともに町の東側にある防空壕を目指した。

 一人この町に残ることを決意したルーカは見渡しのよい病院の屋上で時がくるのを待った。やがて銃声が、乾いた空に鳴り響き静けさを引き裂いた。

「やっときやがった。」

コルネ盗賊団、バイク18台ジープ2台、人数は23人、顔じゅう傷だらけの者、マスクを着けている者、煙草をふかしている者、その全員が銃を携帯していた。

「一人、二人・・・こりゃちょっと多いな。」

ルーカはいい考えが浮かばないまま屋上からコルネ盗賊団の行動をそっと監視することにした。しばらくして、コルネは3人の手下を残し、二人一組で町の様子を見にいかせた。

「コルネの野郎、俺のガンファーをもってない。てっことはアジトにあるってことだろうな。でもどうやって、そうだ、あいつをつかって、」

ルーカは散っていった手下の中から一組の男達を目で追った。方向を確認したルーカは病院の裏口から他の手下に見つからないように出た。そして最善の注意をはらいながらその男達の後をつけた。男達の一人はルーカとあまりかわりのない体格をしていた。しかも顔をマスクで覆っているため入れ替わってもばれる確立は少ない。そう考えたルーカは、男が一人になるのを待った。

「よし、視界から完全に外れた。今がチャンスだ。」

マスクの男が仲間と別れて建物の中に入って行った。ルーカは建物の裏口から中に入り、男の後ろに忍びより軽く肩を叩いた。男は仲間の一人だと思い、警戒もせずに後ろを振り向いた。その瞬間、ルーカは拳での鋭い一撃をみずおちに打ち込んだ。

「うぐぅーううっ、」

男はその一撃でその場に倒れ込んだ。ルーカはすぐさま自分の服と取り替え、最後にマスクをつけ変装は完璧なものになった。あとは気絶している男の口を病院から持って来たテープで塞ぎ、体を縛り上げ、建物の軒下に放り込み、全ての準備が整った。

「おい、そっちはどうだった。」

変装を終えたルーカの元にもう一人の仲間が現れた。

(やばい、しゃべると全てが水の泡になる)

そう思ったルーカは手を交差してジェスチャーで答えた。

「そうか、解った。しかし、今年のかぜは大変だな。日に日にやつれているように見えるぞ。」

仲間はそう言って変装しているルーカの背中をポンと叩いた。どうやら、男は顔を隠すためではなくかぜのためにマスクをしていたようだ。

「たっくよー、人子一人いやしねえ。しょうがねえ戻るか。」

二人は先ほどの集合場所へと戻った。

 集合場所に戻るとルーカとともに行動していた男は町の様子をコルネに話した。しばらくしてコルネはルーカの方に近寄り肩をポンと叩いた。そして、不信な笑みを浮かべ他の仲間のもとに歩いていった。カイトからの避難勧告が功を奏し町にはだれもいなかった。しかも、現金はおろか金目の物すらなかった。

「くそっ、お前ら今日は引き上げるぞ。」

コルネはしかたなくレトン襲撃をあきらめアジトに戻ることを仲間達に告げた。

その決断が、良かったのか、それとも悪かったのか、カイトがこの町に辿りついたのはコルネ盗賊団が撤退して数分後だった。

 カイトは町に入るとすぐに町の中央広場にある掲示板を覗いた。一見ただの連絡が載っているようだがその中にこの町の、しかも限られた者にしか解らない暗号が記されていた。

「東の防空壕」

その暗号には、そう記されていた。カイトはその場所に危難が去った事を知らせに走った。途中、遥か西に砂煙を見つけるが、今はコルネ盗賊団よりも町の人達を優先した。

「市長、危難は回避できました。」

「コルネ、コルネ盗賊団は捕らえたのか。」

「いいえ、残念ながら。しかし奴等のアジトの検討はつきました。体制が整いしだい討伐に向かいます。」

市長は市民に危難が去った事を告げた。安心の笑顔がみんなに戻る。その中、ポロンはカイトを防空壕の外に連れ出し、ルーカの事を知らせた。

「なんだって、一人で、そんな無茶にも程があります。なぜ、止めなかったんですか。」

「だって…」

ポロンはカイトに理由を話し、ルーカの応援を頼んだ。カイトはポロンの頼みを聞き入れ、ラナウェイに向かい歩き出した。

「それじゃあ、あとの伝言頼みます。」

「でもカイト、コルネ達の居場所なんて判るの。」

「ええ、さっき解りました。たぶん奴等の本当のアジトはここから西に50kmほど行った所にある遺跡発掘者の村、忘れ去られた村パイソニア、そこに間違いありません。」

カイトはラナウェイに跨りパイソニアを目指した。

 コルネ盗賊団の一人に成りすまし、アジトに向かっているルーカは、沈黙を守り続けバイクを走らせる。遺跡を横目に1時間ほど行くと荒れ果てた小さな集落が見えて来た。盗賊団はその集落に入って行った。無論ルーカも、である。遠くからはとても人が生活しているようには見えなかったが、その中では数十世帯の人達がひっそりと暮らしていた。村はジープなどのスクラップに囲まれ、ただ一個所、手動で動く装甲車がこの村に入るゲートになっていた。村に入ると中央広場に続く道があり、その広場を中心に十字路が、コンクリートの家々を四つのブロックに分けていた。人々はコルネ盗賊団が町に入ってくると扉を開け飛び出して来た。

「コルネさんおかえりなさい。」

「おとうさん、おかえり。」

「あなた、ごくろうさま。今回はどこの町に行商にいったの、」

「最近は盗賊がでるらしいから心配してたのよ。」

人々は自分達の大事な人の場所へと急いだ。そしてそれぞれの家庭へと戻って行った。まるで、盗賊団のことなど知らず、ただ出稼ぎから帰って来た父親を迎えるように。ルーカのもとにも一人の少女が駆け寄り、手を引っ張った。ルーカは一言も口を開かずに少女が引っ張って行く方向に足を向けた。ある扉の前で少女は足を止めた。そして扉を開け中へとルーカをその小さなか細い腕で、押し入れた。

 家の中には老婆がこちらを見て座っていた。

「おかえりロンド、」

老婆は途中で言葉を止めた。

「ステニーちょっとの間、広場で遊んでおいで。お父さんとお話があるから。」

「はい、おばあちゃん。それじゃあ、行ってくるね、お父さん。」

ステニーはルーカに手を振って家を出て行った。老婆は立ち上がり、部屋のカーテンを閉めルーカの方を向いた。

「お兄さん、保安隊の者かね。」

「いいえ、違います。・・・あっ」

老婆は驚きもせず、また椅子に腰掛けた。ルーカは変装がばれている事に気づき、ゆっくりとマスクを外した。そして、曇り無き瞳で老婆を黙って見つめた。

「あの、俺は、」

「そんな場所に突っ立っていたら、他の者にばれてしまうよ。兎に角こっちにおいで。」

老婆は笑顔を見せるわけでも、怒りで顔を強張らせるわけでもなく、無表情でルーカを奥の部屋に通した。部屋には、古びた机と小さな椅子、あとはベッドが置かれているだけだった。老婆はベッドの布団を捲り、ルーカに入るように勧めた。ルーカは勧められたことをためらいなく受け入れた。老婆はルーカがベッドに横たわると、ゆっくりと布団を頭まで被せた。

「これで誰が来ても心配はいらないよ。さあ、話しておくれ。」

そう言って老婆は近くにある小さな丸椅子に腰を下ろした。ルーカは布団越に今までのことを話始めた。ゆっくりと、時はながれた。老婆はただ静かにルーカの話に耳を傾けた。1時間ほどでルーカの事、コルネ盗賊団の事、全ての真実は語られた。

 そのころ、カイトはパイソニアの近くまで来ていた。ラナウェイを停止させ、あたりを見渡した。小高い丘を見つけ、その場所にラナウェイを走らせた。丘の上につくとカイトはラナウェイから降り、時より吹く強い風に、赤いロングコートを靡かせながら辺りが暗くなるのを待った。

(ルーカ、早まらないでくださいよ。ポロンさんのためにも無事でいてください。)

 ルーカの話が終わり、ただ黙って肯いていた老婆はこの村のことをルーカに話しはじめた。ルーカはベッドから出ると、ベッドに腰掛けた。

 当時、この地方は観光地としての開発に、発掘が重要視されていた。政府は発掘隊を結成し開発にのりだした。その拠点としてこの村パイソニアがつくられた。その資金は政府が負担し、多くの者がこの村で生活を始めた。それから3年の月日が過ぎ去ったある日、政府は財政難に伴い、いくつかの制令を発表した。その中の一つが財減令であった。この制令により開発はストップ、発掘で政経を経てていたこの村の財源は絶たれてしまった。最初は違う産業を起こして村の存続をはかろうとしたが、どれも失敗に終わった。しだいに人々はこの村を去っていき、残った者達も働く事をやめ、村は絶望の淵に立たされた。その時、一人の男が立ち上がった。その男は、村に残っている若者を集め一つの組織を作り、

「出稼ぎに行ってくる。」

そう言い残して村を出ていった。数週間が過ぎたある日、男達は傷だらけになって大金を持ち帰った。どこに行ってきたのか、何をしてきたのか、誰一人、聞くものはいなかった。ただその勇士をたたえた。

「こうして、この村は政府から見放されながらも新しい道を歩き、そしてここまで辿りついた。」

老婆は、話が終わると静かに部屋を出て行った。隣の部屋から物音が聞こえ、その音が止み老婆がゆっくりと部屋に戻って来た。その手に、NS式ライフルを持って・・・

「これがこの村の歩んだ道、でもねえそれがこの村を支えてきたんだよ。だからコルネの行為は正しいんだよ。あなた達がどう見ようと、村の者はみなコルネの言うことだけが真実だと思ってる。」

老婆はそう言うと、震える手でNS式ライフルの照準をルーカに合わせ、トリガーに指をかけた。

「今ある私達の生活を、真実を壊しても、それでも行くのかい。」

「それがこの村の真実でも、俺はいかなくちゃならない。俺には間違えだと思うから。」

ルーカはベッドから立ち上がった。老婆はルーカの行動に合わせてライフルの銃口を動かした。

「間違えだと言うの。」

「うん、たぶんね。だから、それを確かめるためにも行くよ…俺。」

ルーカはライフルなど気にせず、老婆の横を通り過ぎた。老婆はルーカの曇り無き瞳にみいられ、NSライフルのトリガーから指を外し、銃口を降ろした。

「ちょっと待ちなさい。ルーカ、裏口から出て一番東の倉庫に、コルネはいつも荷物を閉まっているよ。」

表の扉に向かうルーカを、振り向くことなく呼び止めた。ルーカは黙ってマスクをつけ裏口へと向かった。

「まさか、今すぐ行く気かい。まだコルネ達はそこにいるんだよ。せめて、日が暮れてから…」

「そう言う訳にはいかないよ。確かめないといけないんだ。そうだろ。」

ルーカはそう言い残して裏口から出て行った。老婆は少しの間黙って扉の前に立ちつくしていた。

「どうしてだろうね、言っている事も、やっている事も、むちゃくちゃなのに不思議だね。あの子ならこの村をかえてくれるかもしれない。」

老婆はルーカの出ていった扉を見つめ、そして手を合わせ天に祈った。ルーカの無事を祈ったのか、それとも村の行く末を祈ったのか、それは老婆にしか解らなかった。

 ルーカは裏口から出ると、他の者に見つからないように足音をたてず東の倉庫に近づこうとした。周りの家屋では、戻ってきた夫や、息子を囲みその無事を喜び合っていた。普段ならゲートや中央広場にいるはずの見張り役も、今日ばかりは家族団欒を後に回す者はいなかった。その時、一人の男がルーカの後ろに忍び寄ってきた。一瞬、ルーカは後ろにとてつもない気配を感じ、本能的に前に飛び、受け身を取りながらストレンジャーとの距離をとろうとした。しかし、そこには、だれもいなかった。それどころか、先ほどよりもはっきりとした気配が殺気であることに気が付いた。殺気はルーカの首筋に冷たく突き刺さった。ルーカは死を確信した。

「いい反応ですね。機会があればお手合わせ願いたい。でも今は静かに、ゆっくりと後ろを向いてください。妙なまねをすれば命の保障はできません。」

ルーカは言われた通りにゆっくりと後ろを向いた。その男、いや少年はルーカを見ると安心したような顔で木刀を背中にしまい込んだ。

「ルーカ君だね。私は第二保安隊のカイトと申します。あなたのことは、ポロンさんから聞いています。それにあなたが気を失っている時に何度か御会いしていましたしね。」

「てっ、事は見方。」

カイトはとりあえず人気のない建物の裏手にルーカを連れていった。そして、ルーカは今までのこと、これから確かめないといけないことをカイトに話した。

「そんな、一人でなんて無茶です。」

カイトは、小声で言いながらルーカの目を見た。

「もう、止められそうにありませんね。でも危ないと感じた時、あなたにどう思われようとも手を出しますよ。ポロンちゃんと約束したから、あなたを無事に連れて帰ると・・・」

誰もいない建物の片隅で、ルーカとカイトの間に男同士の約束事が交わされた。少しの時間二人は無言で見詰め合い、やがて何かを感じたように、コルネのいる東の倉庫に移動を開始した。二人は最善の注意を払いながら目的地まで走りぬけた。

「しかしカイト、お前その派手な格好ちょっと目立ちすぎないか。」

「えっ、そうですか。じゃあ、こうします。」

カイトはルーカに服装を指摘され、しぶしぶ赤いロングコートを走りながら裏返しにした。赤いロングコートはリバーシブルで黒いロングコートに早変わりした。

 村の中央広場から東に20mほど行ったところに位置するこの倉庫は、ゲートから最も離れた建物だった。高さはこの村にあるどんな建物よりも高く聳え、正面には出入り口の鉄扉、その横には約5m幅のシャッターが見えた。ルーカは東の倉庫まで来ると、出入り口である鉄の扉に耳をあて、中の様子を静かに伺った。物音一つ聞こえない異様な静けさにルーカは正面から入ることを断念し、他の侵入口を探し建物の裏へと最善の注意を払い向かった。裏にまわってもコンクリートの厚い壁があるだけで、入れそうな場所など見つからなかった。ルーカはしかたなく正面の扉から入ろうと方向転換した。その時カイトが親指を上に向けて、地上から2mほどの所に開いている喚起窓を指差した。

「ここから、入れそうだ。」

ルーカは周りをきょろきょろと見渡し人がいない事を確認すると、すかさずジャンプして喚起窓にとびついた。そして、気づかれぬようにそっと腕で体を持ち上げ顔を窓から顔を覗かせた。

「どうやら、誰もいない。カイトちょっと行くから、お前はここで待っていてくれ。」

ルーカはそう言い残して窓枠に顔を突っ込んだ。喚起窓は見た目より幅が狭く、ルーカの体ですらギリギリのようであった。途中、ベルトが窓枠に引っ掛かり一時は身動きとれずにいたが、体をむちゃくちゃに動かしどうにか中に潜入できた。ルーカは辺りを見渡した。部屋にはいろいろな荷物や移動のために使っていたバイクやジープが置かれており、倉庫兼車庫のようであった。

 ルーカは倉庫の中を一通り見渡した後、ふっと後ろを向いた。

「うわっ、カ、カイトいつからいた。」

「外にいるより一緒のほうが、ばれる確立が少ないと思います。」

カイトは音も立てずにルーカの後ろに忍び寄っていた。ルーカはカイトの発言におされながらも、一つ一つ静かに荷物を開けガンファーを捜し始めた。カイトは二階に続く階段の側でルーカがばれないように見張りについた。

「くそっ、いくら捜しても見つからない。ここにはないのか。」

ルーカにあせりが見え始める。その時、二階の階段を見張っていたカイトが突然ルーカの口を塞ぎ物陰に押し倒した。

(ガチャッ、カッン、カッン)

「それじゃあ、俺達は帰ります。コルネさんも今日はゆっくりしてください。」

「ああ、お前等も体に気つかえよ。」

数人の男達コルネに挨拶をすませ倉庫の鉄扉から出ていった。男達が出ていった後、倉庫また静けさを取り戻した。

「痛っ、知らせる時もう少し丁寧に頼むぜ。」

「あははは、それよりも今なら他の奴等に気づかれずコルネの元に行けますよ。確かめたい事あるでしょ。」

カイトは暗がりの倉庫の中でルーカに笑いかけた。

 二人はその場から立ち上がり倉庫の端にある螺旋階段の方へと歩いた。カイトは螺旋階段の前まで来ると、男達が出ていった鉄扉の鍵を開けた。

「ここからは、あなたの問題でしたね。助けはいらないのでしょう。」

「悪いな、カイト、用が済んだらコルネは引き渡すよ。」

「そうしていただくとありがたいです。私は邪魔が入らないように外で待っています。なるべく早くお願いしますよ。」

カイトはそう言い残して外へと出ていった。ルーカはカイトを残し、一人音もたてずにコルネのいる二階へと向かう。ルーカは二階へ着くと、身を低くして中の様子を伺った。中では人の喋り声はおろか、物音一つ聞こえなかった。ルーカの手がそっとドアのノブに掛かった。

「誰もいねえよ。はいってきな。」

その声は紛れも無くコルネのものだった。ルーカは躊躇することなく、すぐに立ち上がりノブを回しドアを開けた。ドアを開けると煙草の煙がルーカを歓迎し、その先にソファーに深深と腰掛けたコルネが待ち構えていた。

「ふっ、まったく馬鹿正直なやつだな。待ち伏せしていたかもしれないのによう。」

「そう言えば、そうだな。考えもしなかった。」

「ふっ、はははは、」

「くすっ、くっ、はははは、」

二人は、煙たちこめる部屋で少し言葉を交わした後、親しげに笑った。しばらく、二人の間に穏やかな時間が流れた。コルネは煙草を消し立ち上がり、ロッカーから68式ガンファーを取り出した。

「ほらよ、お前が聞きたいのはこんなことじゃあないだろ。」

コルネは苦笑いをしながら、68式ガンファーをルーカに投げ渡し、胸からだした煙草に火をつけた。ルーカはそれを受け取ると、腰のホルスターにしまいこんだ。

「聞きたきゃあ、そいつで俺に聞いてみな。」

「そうすることが二人にとって、一番良いはずさ。」

コルネの目つきが変わり、それ以上何も言わずただ顎でルーカに

(ついてこい)

と言うしぐさをとった。二人は部屋から出て一回へと降りて行った。二人の戦いが今始まろうとしていた。

 倉庫から少し離れた廃屋の影にカイトは隠れていた。この廃屋は倉庫とそこへと続く二本の道を見ることが出来る唯一の場所。早期対応をするにはここ以外に有得なかった。カイトは息を殺してただひたすらにルーカの帰りを待っていた。倉庫からは物音一つ聞こえず、周囲からは家族の和やかな会話が風に乗って聞こえて来た。

(やけに静かですね。…ん、まずいですね、)

カイトは、人の気配を感じ建物の影に隠れ、様子を伺うことにした。やがて、男達がコルネのいる倉庫に近づいて来た。カイトはちらっと倉庫を見て、裏に回り中央広場の方に向かって走った。そして、男達の後ろをとると素早く一人の男の腎臓に重い一撃をいれた。男に激痛が走り声を立てることなくその場に崩れ落ち気を失った。

「な、なんだ、てめえは。」

「すみません。あなたにも眠ってもらいますよ。」

もう一人の男は仲間が突然倒れ込んだ事に驚き視線を後ろに向けた。視線の範囲にカイトが映り、銃を抜こうと腰のホルスターに手を走らせた。それより先にカイトは木刀を背中から抜き、男のみずおちに正確な一撃を突きいれた。男は銃に手をかけることなく白目をむき一瞬のうちに地面の上に倒れ、砂煙が巻き上がった。カイトは、その二人を無人の建物に引っ張りこもうとした。

「おい貴様なにをしている。はっ、そのロングコート敵だ、保安隊だ。」

その時、近くの建物から一人の男が出てきて、その異常に気がつき声を上げた。すぐに、辺りの建物から男達が銃を片手に飛び出した。

(しまった。兎に角、今は時間を稼がないといけないようですね。)

「おい、非常事態だ。出口を固めろ。生きてこの村からだすな。」

民家の窓や扉は堅く閉ざされ、男達が慌ただしく動いた。

(少し多いですね。これだけの男達を相手に手加減してどこまでやれるか。この状況を回避するにはコルネを押さえればいいんだが、ルーカ急いでくださいね。)

すでに、カイトの前方には十数人の男達が銃を構え、今にも発砲しそうな状況になっていた。カイトは得意の隠密行動で一人ずつ気絶させていくことが最善の方法だと考え、その場から離れ建物の影に姿を隠した。その動きは疾風の如く木剣の一閃は雷の如し。一人また一人、十数人いた男達も残りわずかとなっていった。その時、賊の一人が後ろからカイトに銃の照準を合わせた。カイトはその気配を察し振り向き、咄嗟に握っていた木剣を投げ放った。木剣は銃を持った男の手に的中。拍子に銃は暴発し、弾丸はカイトの頬をかすめ給油塔に当たった。次の瞬間、轟音とともに給油塔は爆破炎上した。

 轟音とともに爆風は倉庫のシャッターを吹き飛ばし、ルーカとコルネを襲った。ルーカは紙一重でシャッターから逃れ、コンクリートの柱に身を隠した。コルネは直撃をくらいシャッターごとコンクリートの壁に激突した。さらに第二の爆風により倉庫にあったバイクが倒れ、燃料が漏れ始めた。

(ま、まずい。このままだと燃料に引火して建物ごと吹き飛んじまう。)

ルーカはその場から離れようとしたが、その目に意識を失ったコルネが飛び込んだ。ルーカは立ち止まり出口に向けた足はコルネの方に向けた。

(戸惑っている時間はない。)

ルーカは吹き飛ばされたシャッターを払いのけてコルネを引っ張り出した。

(ドグォンー)

間一髪ルーカはコルネを助け出し倉庫からの脱出に成功した。

 あっと言う間にその炎は村を紅蓮に染めた。盗賊団は自分達の置かれている状況に戸惑い始め、カイトにかまわずそれぞれの家庭へと急いだ。

「助けないと、でも、このまま焼き尽くしてしまえば悪は滅ぶ。それで全ては解決する。でも、それが正義なのか、いや違う。でも、」

(殺せ、悪は全て殺せ、お前は正しいんだ。正義なんだ。)

その時、何者かがカイトの心に囁いた。

「な、なんだ、また、また、誰かが僕に語りかける。」

(殺せ、全て殺せ)

「ぐわぁーっ、やめろ、やめてくれぇー」

カイトは突然頭をかかえ叫び、狂い、倒れ、のた打ち回った。やがて、叫びは消え呼吸も元に戻り始め、さっきまでとは違った感じのカイトが立ち上がった。金色の髪は逆立ち、目の色は澄んだブルーから血走った紅に変わった。なによりも、先ほどまでの闘気は凍り付くような殺気へ変わっていた。その姿はまるで悪魔でも憑依したかのようだった。ゆっくりと木剣を拾ったカイトは家族の元に急ぐため背中を見せた盗賊団の者に躊躇することもなく襲い掛かった。異様な叫び声が辺りに響き渡り、炎に包まれて行く村の中で目撃者無き殺人は繰り替えされた。そのうちに、コルネを引き摺りながらルーカがカイトのいる場所に近づきその光景を目にした。

 狂喜乱舞したカイトは男達を薙ぎ倒した後、女、子供関係なく、まるで狩りでもしているかのように笑みを浮かべながら血に染まった木剣を振るい続けた。血が流れ落ちる木剣、その近くに倒れている女性や子供、ルーカの背中で意識を取り戻したコルネの目に悲惨な現実が映し出される。

「カ、カレッタ、デウギィー、…」

ルーカの背中から、手を伸ばし仲間の、そして村人達の名を呼ぶコルネ。コルネはルーカの背中から腕を外し仲間の元へと足を引き摺りながら近づいて行った。二、三歩、歩いたところで体制を崩し倒れ込んだ。体の至る所に傷をおい動かすことも困難でありながらも、コルネは最後の力を振り絞って仲間の所にはって向かっていた。仲間の所まであと1mほどになった時、コルネの前にカイトが立ちはだかった。血しぶきがついたその顔、弱い者を卑下するような瞳、その姿がコルネには許せなかった。

「貴様が、貴様がやったのか。そうか、お前が(金髪の狼)、」

コルネはカイトのズボンの裾を掴み這い上がって行った。ズボンから黒いロングコートに手がかかりその手はカイトの胸座まで達した。

「なぜ、なぜだ。ここまですることはなかったはずだ。答えろ。」

コルネはカイトを見上げ荒い口調で問いただす。カイトは冷めた眼差しでコルネを見下ろし右手をゆっくりと上げた。

「カイト、よせ。」

ルーカはカイト行動に慌てて走り出すが、カイトは木剣を胸の位置まであげ、その位置からコルネの顔をめがけ振り抜いた。木剣の柄がコルネの頬を歪ませ、横倒しになった。コルネは最後まで仲間を気遣うように腕を伸ばしながら意識を失った。

「このコート、けっこう気にいっていたのに」

カイトはコートについた汚れを左手で払い、倒れているコルネを見た。ルーカは俯き歯を食いしばっていた。

燃え盛る炎は村全体を飲み込もうとしていた。

(キュッ)

カイトの革手袋が鳴り右手に力がはいった。

「よかったですね。気を失ったまま死ねるなんて、」

血を吸った木剣がカイトの頭上からコルネへと振り下ろされた。

(ガキィーン)

ルーカはコルネの前に滑り込み68式ガンファーでカイトの木剣を受け止め、コルネをこの一撃から守った。

「何のつもりだいルーカ。」

「カイト、お前はこいつを殺す気なのか。」

「そうですよ、それがいけませんか。」

そう言ったカイトの眼はあきらかに狂っていた。ルーカはコルネを担ぎカイトからゆっくりと離れて行く。

「ルーカ、何をしているのですか。もしかして、そいつを助ける気じゃないだろうね。そいつは盗賊なんですよ。彼を助けると言うことは、」

カイトはその短い木剣を両手持ちに切り替え、左脇腹付近まで引き付け体制を低くし突きの構えをとった。ルーカは背中に凄まじい殺気を感じた。次の瞬間ルーカの背後から電光のような木剣突きが襲う。ルーカはその一撃を交わすためにコルネを投げ捨て、ルーカ自身も横に飛び難を逃れた。

「カイト、なに狂ってるんだ。」

「狂ってなんかいませんよ。悪党には死を。そして、あなたもね。保安隊規第13条・公務執行の妨げになる者は実力を持って対処すべし。・・・生死を問わずに・・・ね。」

カイトは不気味な笑みを浮かべ、ルーカに向かって木剣を伸ばした。今、周りを炎で囲まれた村の中央広場で避けることのできない宿命の闘いが始まろうとしていた。

 ルーカは68式ガンファー右腕に沿わせるようにし後屈立ち上段受けの構えで身を沈めた。右腕は顔の前面に構えカイトの攻撃に備え、左腕は拳を握りいつでも攻撃できるようにした。二人は周囲を炎が取り巻く中、静かに距離をおいて構えた。炎は風を呼び中央広場に砂煙を巻き上げた。ルーカは受け身の体制から突進に変更。一気にカイトの懐に潜り込むと正拳突きをみずおちにねじりこんだ。しかし、カイトはその一撃をなんなく交わした。ルーカは即座にガンファーを内腕から回すようにして連続攻撃を仕掛けるが、どの攻撃も紙一重でかわされた。正拳突き掌底に手刀、ルーカの攻撃はことごとくかわされ、しだいに焦りを感じた。やがて、カイトはバックステップでルーカとの間合いをとり、薄ら笑いを浮かべた。今までの構えとき、新たに木剣を鳥居のようにして上からルーカの方にゆっくりと、息を吐きながら降ろしていった。(朱雀の構え)

「どう言うこと、な、」

ルーカは途中で言葉を失った。カイトの体が透き通るように消えた。次の瞬間、ルーカの後ろに冷たい風が通りぬけカイトが姿を現し、木剣をその構えのまま薙ぎ払った。ルーカは本能的に体を前に倒しその一振をかわした。

「よく交わしましたね。はっきり言って驚きました。でも、次はどうでしょうね。」

カイトは再度、先ほどの構えをとり、姿を消した。ルーカはその動きを捉えようとするが、カイトが攻撃に転ずるその一瞬しか捉えられずにいた。

 二度、三度、その攻撃がスピードを増していくたびにルーカは打撃を受けていった。

「ふっ、急所は外しているようですが、いつまで続きますかね。」

カイトはまた、透き通るような残像を残し、姿を消した。しかし、ルーカは灼熱の炎の中、ついに目でその素早い動きを微かに捕らえた。そして、その動きを先読みし、体を反転させると同時にガンファーを左薙払いさせた。

(ボグゥッ)

「ぐっ、」

一撃はみごとにカイトの左脇腹に入いった。

 カイトは脇腹を押さえ、顔を歪ませながらバックステップで間合いをとりなおそうと後ろへ飛ぶが、その動きはあきらかに先ほどまでの鋭さはうかがえなかった。

(どうゆうことだ、俺の動きに…ま、まさか、俺の動きが見えたのか。いやそんなはずがない、単なる偶然に違いない。)

カイトは動揺しながらも次の攻撃をとるためにじわじわと間合いを詰めて来た。

町の外では、ポロンにカイトからの伝言を聞いた保安隊がようやく到着した。

「ルーカとカイトはもう脱出したの、」

ポロンは心配そうに尋ねた。

「まだ、外に出たと言う報告は受けていません。たぶん、まだ、」

保安隊員の一人がポロンと視線を合わせず、言葉を濁した。ポロンの顔から血の気が引いていく。周囲に炎の熱が伝わってきた。消防隊の姿は無く、保安隊は炎に飲み込まれていく町を、ただ指を咥え見ているだけだった。

「私、行く、」

「あっ、君っ、今行くのは危険だ。」

ポロンは保安隊の制止を振り切り、一人、町の中へと入っていった。

(ルーカ、カイト。何してるの早く逃げないと、)

 燃え盛る炎をかいくぐり、この場所にポロンが二人を捜し走ってきた。そして、二人を見つけた。

「まずいですね、こんな所見られたからには生かしてはおけません。それにあなたが来ていると言う事は保安隊のやつらも、ルーカとともに新しい世界へと旅立ってもらいます。」

「えっ、」

カイトはすばやくポロンに切っ先を向け飛び込んだ。ポロンの瞳からカイトが消えた。そして、次の瞬間、ポロンの眼前には、木剣を振り上げたカイトの姿があった。

「ルーカ、次は君ですよ。」

カイトはルーカの方にちらりと視線を向け呟いた。そこには自然体のまま突っ立っているルーカの姿がうかがえた。ポロンは突然倒れ込んだ。

「きゃぁーっ、」

ポロンの叫びが辺りに木霊した。カイトはポロンの叫びにもためらうことなく木剣を振り下ろした。

(ガキィーン)

「なんだ、そ、そんな、」

「ルーカ、」

カイトは自分の目を疑った。ポロンの前に先ほどまで自然体で立っていたルーカが、木剣をガンファーでうけている光景だった。カイトは力を入れ、片膝をつけ受け止めているルーカを押し倒そうとした。しかし、うつむき片手で受けているルーカはびくともしなかった。それどころか、その不利な状態から木剣を押し払い、立ち上がってきた。

「ど、どうゆうことだ。はっ、」

カイトはルーカに話している途中、本能的に危険を察知し、ルーカとの距離を取るため、後方に回転しながら飛んだ。着地したカイトはルーカに目を向けた。しかし、そこにはルーカの姿はなかった。

「ど、どこだ、やつは、」

カイトはルーカの姿を捜し辺りを見回した。その時、カイトの下腹部にルーカのガンファーでの強烈な一撃がはいった。

「ば、馬鹿な、そんなことが。このぉー、」

カイトの口から一筋の血が垂れた。ルーカの打撃に絶えられず、膝が震えていた。が、木剣を横一閃に振り、ルーカに追撃を出させなかった。

「お前は、ただの血に飢えた野獣だ。」

ルーカはガンファーの先端をカイトに向け、比喩の言葉を叩き付けた。

「野獣ですか、良い表現ですね。忌々しい、」

カイトは冷静さを失い、牙をむき出しにした狼と化し、ルーカに襲い掛かった。ルーカは後の後をとり、カイトの木剣を受け流し、横腹に重い一撃を叩き込んだ。ルーカからの一撃を食らいながらも、懐に入ってきているルーカに対して、すばやく左手に持ち替えた木剣を突き刺そうとした。ルーカは低い体制から後ろへ飛び、その攻撃を交わした。

「はっ、」

攻撃をかわしたルーカは止まることなく、バックステップから即座に突進した。

「なめるなっ、」

カイトもこの攻撃を予測し、木剣を逆手に持ち替えルーカの首を薙ぎ払いにいった。

「もらっ、えっ、」

カイトのとらえたと思ったその一撃は空を切り、その勢いで前かがみのように、状態が崩れた。そこへ、上空からカイトの左肩にガンファーを打ち込んだ。

「うっ、」

カイトは左肩を落としながらも必死に堪えようとした。

「お前の負けだ。カイト、」

それでも、なお、動こうとするカイトに力強く言い放った。カイトの体から力が、そして、殺気が消えた。目が澄んだブルーに戻り、逆立った髪も元に戻っていった。その顔から憎しみは消え天使のような微笑みが残った。

「これで終れる。やっと開放される。」

「いや、違う。これから始まるんだ。」

カイトは膝を折りゆっくりと倒れた。ルーカは力尽きるカイトを支え、そう答えた。二人の間に言葉では言い尽くせない会話が交わされた。そして、二人の死闘に終止符が打たれた。

 それから数分後、保安隊が消防隊を引き連れ突入を開始した。コルネ盗賊団並びにその家族は彼らの消火活動により無事、保護された。ルーカはカイトを肩に担ぎポロンを連れ保安隊のまつ場所へと向かった。カイトは意識を取り戻したものの何一つ語らず、すぐさまレトンの病院へと連れて行かれた。長かった一日が終わりを告げた。

 あの、忌まわしい事件が終わり、数日が過ぎ去っていった。町はお祭り騒ぎ、数日後には町をあげての式典まで催される事になった。無論、カイトを始め保安隊はもちろんの事、功労者であるルーカ、ポロンも招待された。全身包帯だらけのカイトは誰とも口を利かず、一日中外を見つめていた。コルネ盗賊団逮捕の知らせはこのブロック以外にも広まり、レトンの町はにぎやかさを取り戻していった。「金髪の狼」がカイトだった事など知らず・・・

ルーカとポロンはコルネ盗賊団逮捕の功労者として賞金が送られる事になっていた。カイトにおいては功績が認められ二階級の特進が告げられる事になっていた。そして、その日が幕を開けようとしていた。

朝日がまだ昇っていない薄暗い町のメインロード、包帯だらけのカイトが馬を連れ町の外へと向かっていた。

「何処に行く気だ。カイト。」

夜が明ける前の静かな町にルーカの声が響いた。カイトはラナウェイの手綱を持ったまま振り向いた。そこには、旅支度を済ませたルーカとポロンが建物の壁にもたれ立っていた。

「悪いことをしましたね。いくら謝ったところで許してもらえるとは思っていません。」

「それで、出て行くのかこの町から。何も言わずに、」

「はい、」

カイトはそう一言だけ呟いた。

「正義感の強いお前がどうして、」

「その正義感が時として重圧となり僕にのしかかる。やがて、その重圧に耐えられなくなった時、もう一人の自分が現れる。それが、」

「それが、金髪の狼なんだな。」

カイトは目を背けるようにして二人に頭を下げた。ルーカは荷物をその場に置き拳を握り締めカイトに向かって歩きはじめた。ポロンはルーカの握りしめられた拳を見て、そのあとに少し下がってついて行った。ルーカがカイトの前まで来ると、その拳をカイトの腹に叩き込んだ。ポロンはその行動にカイトの側に行こうとするが、ルーカは腕を横にしてポロンをそれより先に行かせないようにした。

「うっ、」

カイトは手綱を持っている反対の手で口を押さえ、その場に膝まずき地面と見詰め合い嘔吐した。その中、一粒の涙が零れ落ちるのをポロンはそっと見守る事しかできなかった。

「本当にそれでいいのか。それで全てが片付くとでも思っているのか。答えろ、カイト。」

「それが得策。そ、それしか思いつかないんですよ。」

ルーカは跪いているカイトを見下ろしながら問いただした。カイトは口元を上着の袖で拭きながら静かにそして、寂しそうな声で答えた。ルーカはカイトの胸座に手を伸ばしカイトを立たせた。

「だったら、俺が考えてやる。」

「よしてください、そんなに簡単な事じゃないんですよ。君にも解っている筈です。だから・・・」

「だからこのまま行かせろとでも言いたいのか。ふざけんじゃねえ。お前はなぜ生きているんだ。カイトがカイトであるために生きているんだろ。だったらカイトでいろ。命尽きるまでカイトでいろ。」

ルーカはカイトの胸座を引き寄せ目の前で怒鳴りつけた。やがて、ルーカはカイトの胸座から手を放し荷物をとりに戻った。

ルーカとすれ違いにポロンがカイトの側に近づいて来た。そして、カイトにそっとハンカチを差し出し、にっこりと微笑んだ。しかし、カイトの表情は以前深刻なままだった。

「同情はよしてください。そんな事をして被害を受けるのは貴方達なのですよ。」

カイトの言葉にルーカの動きが止まった。

「被害、どんな被害を受けるって言うんだ。そんなことはさせない。俺がお前のリミッターになってやる。」

「でも、」

「でもじゃねぇよ、確かに今直ぐはむりだ。だけど、これから先も無理だって決まったわけじゃないんだ。お前がどう言おうと、どう思おうと連れて行く。もう決めちまったんだ。そのうちにどうにかなるさ。」

ルーカは少し照れくさそうに言い、また動き始め、カウボーイハットを深く被った。何時の間にか朝日が地平線のかなたから顔を見せ、三人を暖かく包み込んでいた。

「ああ言い出したら何言っても聞かないよ。でもね、ルーカならどうにかしてくれる。きっと。行こう、ラナウェイ。」

ポロンはラナウェイの手綱を持ってルーカの方へ歩き出した。ラナウェイは主人を元気づけるかのようにカイトの顔を舐めた。カイトの緊張はとけ、笑顔が浮かんだ。

「さあ行こう。」

ポロンはカイトの手を引きルーカの待つ場所へと向かった。まだ、町の人々が起きる前にルーカとポロンの旅は新しくカイトを加え、次なる町へと向かうことになった。

 それからさらに数日が過ぎたある日、今回の事件判決が第28エリア裁判所でだされた。

判決内容・・・コルネに対しては、村を切り捨てたエリア議会の無責任な行動に対しての謝罪やカイトの嘆願もあり死刑だけは免れたが、社会に大きな混乱を与えた事の罪は重いとされ独房禁固25年とされた。

他の者にも相応の刑期がくだされた。

「真実は決して一つではない。居住空間や生活環境でいくつにもなる。そのことをわすれないでくれ。」

コルネは全ての判決が下された後、傍聴席の人々に向かいこう言い残し裁判所からエリア刑務所に連行されていった。



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