虚空の光、残されたモノ (1)
「……まずいな」
煙草の煙を揺らしながら、長髪の運転手――サンドリヨンさんがつぶやきました。
「どうかしましたか?」
「レーダーを見てみろ。トラペジウム反応は無いが、量子レーダーにはゆっくりと動く斑模様の影が映っている」
「……ふむ」
「自立機雷かなー?」
「それも嫌だが、私はもっと嫌な予想をしているよ」
位置は十一時の方向、距離は、近い。
曰く、さっきまでこんな影は無かったそうです。突然映ったとサンドリヨンさんは主張します。
「アリスさん、光学機器で確認してください」
「おっけー」
荷物の望遠鏡は古い道具ですが、光学迷彩なんて貴重な装備は見たこと無いので、十分です。まぁ、見えないから光学迷彩なんですけどね。
「んーっとねー。あー、えー」
望遠鏡を覗く、アリスさんの口がへの字に変わりました。
「……さんちゃんの予想は?」
「南の奴ら」
「当たりー。ヴゥードゥー型がたくさん。ちょんちょんっとドラウグル型もー」
「南方アンドロイドの群れ、ですか」
どうやら戦中我々の敵だった南方勢力製のアンドロイドが徘徊しているようでした。
ヴゥードゥー型もドラウグル型もはっきり言って性能は私たちより下だったと記憶しています。南方勢力は開戦前に国連から技術的制裁を加えられていたので、私たちのような高度な有機アンドロイドを正式化出来ませんでした。
普通に戦場で会敵したとしたら、無傷ではないにしろ私たちが勝つでしょう。
問題は数でも、個々の性能でもなく。
「無駄かもしれないが確認する。ZM兵器を持っているか?」
「……ありません」
「だろうな。私の足の銃も水晶切れだ」
私たちには武器が無い、ということ。
まず同じ舞台に立っていないということ。
いくら性能が上でも、パンチやキックで無力化されるほど奴らはパンナコッタではないのです。
「迂回する。三時方向にシェルターらしき建造物がある。奴らの進行方向だが、時間稼ぎだ。奴らにはすでに気付かれているだろう」
「うん、こっち見てるよ」
こちらの車両はトラペジウム反応で位置がバレバレでしょう。装甲巡航車ではドラウグル型の攻撃に耐えられません。
速度では勝っていますから、距離を稼ぎます。
「……トラペゾヘドロン機関があれば、サンドリヨンさんの足が使えないのですか?」
「聞いてなかったか。水晶も補充しなきゃならない」
「備え付けの機関砲も動かないんだから、当たり前でしたね」
装甲車は加速しました。