カードを拾った!
どうして、私はこんな目に遭うん
だろう、と春日谷陽奈子は思った。
陽奈子はただ静かに高校生生活を
送りたいだけなのに……。
どうして女子という者は自分と違う
誰かを放っておかないのだろうか。
確かに、他の女の子達は仲のいい
人達と休み時間よく会話している。
お昼だってそのメンバーと一緒に
食べている。
だけど、陽奈子は人と仲良くなる
のが苦手だったので、いつも一人で
本を読んでいたり、一人でお昼を食べ
たりしていた。
苦手=嫌いではない。
人と話すのは好きだし、誰かと仲良く
する事が苦という訳ではない。
でも、上手く会話したり出来なくて
必然的に友達を作れなかったのだ。
そういう陽奈子にも駄目な部分は
あったのかもしれない。
しかし、だからといって悪口を言っ
たりからかったり、挙句の果てには
大事な本を隠して一部を破ったり、
ゴミを机に投げつけて勉強の邪魔を
したりしていい訳がない。
「何でよ、同じ人間なんていないわ、
少し人と違うくらいいいじゃない……」
陽奈子は学校、休みにならないかなと
ネガティブな事を考えながら家路に着く
のだった――。
明日、学校行きたくないな、と思い
ながら陽奈子が歩いていると、かつんと
ネイビーブルーのあまり踵の高くない
ブーツに何かが当たった。
訝しげに思いつつ、しゃがんで拾い
上げる。
それはカードだった。白くて表面が
つるつるしていて綺麗なカード。
「これ、何……? 何で、こんな所に
カードが落ちているの……?」
陽奈子はしげしげとカードを眺めた。
裏面をひっくり返してみると、それには
「お願いカード」と書かれていた。
それ以外は何も書いていない。
「何で使い方書いてないの!? 一番
重要なのに……」
陽奈子は愕然とした。何でも願いが
叶うカード。それはとても素敵な品物
だけれど、使い方が分からないのでは
意味がない。
でも、それはそれとして陽奈子はどんな
願いを叶えてもらうのか考える事にした。
お金……? いや、大金をもらっても
物語では上手く使わないと失敗する。
大量の本……? 魅力的だけれど、どれ
だけ大量か分からないし、陽奈子の好みでは
ない本が混じっていたら困る。
友達……? それだ!
陽奈子は友達がずっと欲しかった。
辛い時、励ましてくれる人。たわいのない
話で盛り上がったり、楽しく遊んだり、相談に
乗ってくれたりする人。
それがいい、と陽奈子は思った。
(お願い……! 願いを叶えて……私、友達が
欲しいの……)
陽奈子はカードをぎゅうっと握りしめて堅く
目を閉じた。祈るように何度も思った。
すると……。
≪ネガイ、キキトドケマシタ……≫
カードから機械の声のような物が聞こえた
かと思うと、カードが眩い光を発した。
陽奈子は何も考えられなくなり、その場に
倒れ伏した――。
あのカードの事は夢だったのだろうか。
陽奈子は首をひねりながら翌日の学校でそう
思った。
昨日の夜、陽奈子は心配した母と父と姉、そして
年の離れた幼い弟の大声で起こされた。
幸い、陽奈子が倒れていたのは家のすぐ前だった
らしい。
病院に連れていくだの、明日は休んだ方がいい
だのと言われたけれど、陽奈子は別に体調は悪く
ないからと学校に出て来た。
本当に願いが叶っているのか、心配だったという
のもある。
それにしても、カードはどこに行ってしまったの
だろうか。
やっぱり、あの事は夢だったのかも……。
そう思った陽奈子が、がっかりしながら紺色の
プリーツスカートのポケットに手を入れると
冷たい感触が伝わった。お願いカードだ……!
「おい、春日谷! それ何だよ?」
しまった、と陽奈子は思った。笹原さんグループの
人達に見つかってしまった。笹原さんは黒髪を右で一
つに結わえた美少女だけれど、意地悪だ。
にこにこ笑っていれば可愛らしいのに、いつも陽奈子
には悪意のある笑みばかり向ける。
「な、何も……」
「嘘つくんじゃねえよ!」
陽奈子は腕を引っ張られて笹原さんに強引に立たされた
挙句、突き飛ばされて机に頭をぶつけてしまった。
彼女の取り巻きの人達が、さらに陽奈子に嫌がらせを
しようと近寄った時運よく担任の先生が入って来た。
隣には長い黒髪の綺麗な女の子がいる。
「笹原、何やってるんだ!? ――大丈夫か、春日谷?」
みじめな気分でいっぱいだった。友達なんて、出来
なかったじゃない、と思いながら陽奈子は大丈夫です、と
か細い声で告げる。
「皆、席つけ――。転校生を紹介するぞ」
「高瀬和泉です、よろしくお願いします」
ぺこりと長い黒髪の女の子――高瀬さんが頭を下げると、
皆うっとりしたような表情を浮かべていた。
女子も男子も彼女に見とれているようだ。
いじめっ子グループの、笹原さん達は気に食わなそうな顔を
していたけれど。
「じゃあ、高瀬の席は――」
「先生! 私、彼女の隣に座りたいです。あそこの席、空いて
ますよね?」
えっ、と教室中から声が上がった。彼女、と片手で示された
のは私。くしくも私の隣はずっと開いていたので、先生も断っ
たりせず彼女はそのまま私の隣に座った。
「よろしくね、えっと……」
「あ、わ、私、春日谷陽奈子です……」
「よろしくね、春日谷さん」
にっこりと笑ったその顔は、花の蕾が綻ぶかのようにとても
綺麗だった――。
その日から、高瀬さんは何くれとなく陽奈子に話しかける
ようになった。好きな本の話、好きなアニメの話、たわいない
けれど、どれも陽奈子が望んで出来なかったお話だった。
高瀬さんも本は大好きらしくよく読んでいるようだ。
お願い、ひょっとしたら叶ってたのかなと陽奈子は思った。
綺麗な高瀬さんと、地味な栗色の猫っ毛の陽奈子では
友達なんておこがましいかもしれないけれど、仲良く
出来たらいいなとつい思ってしまう。
「あ~、高瀬さ――ん、よかったらこっちでお話しない?
春日谷なんかと一緒にいないでさあ」
「そうそう、春日谷と一緒にいるとブスが映るよ~」
「あたしらと一緒にいなって」
笹原さんと、笹原さんグループの二人が高瀬さんに声を
かけた。
やっぱり、私じゃ友達なんて駄目なんだろうか。
そう思っていると、高瀬さんがすっくと私の隣の席から
立ち上がったので陽奈子はちくり、と胸が痛くなるのを
感じた。
「いいえ、結構よ。勝手に他人の価値を自分の理屈で
決めて、嫌がらせをするあなた達と話す事は何もないわ」
「なっ……!?」
「邪魔しないでくれないかしら、私は春日谷さんと話して
いるの」
「チッ。少しばかり美人だからって調子乗るなよ!
行くよ、絵美えみ、聡子さとこ!」
「「えっ!? ちょ、ちょっと待ってよ、百合!」」
悪態をつきながら笹原さん達が行ってしまう。
陽奈子がぽかんとしていると、来て、と高瀬さんに手を
取られたので陽奈子は廊下に出た。
廊下は休み時間なのでひっそりとしている。
「春日谷さん……いいえ、陽奈子。私と、友達になって
くれない?」
「え、えええ!?」
「い、嫌かしら……」
「い、嫌じゃないわ。嬉しいけど……あたしなんかで
いいの?」
「だって、あなたお願いカードに友達が欲しいって願って
くれたでしょう? あのカードね、一人分の願いだけじゃ
駄目なの。二人分の願いがあって、始めて願いが叶うのよ」
高瀬さんも、お願いカードを持ってたんだ……。
陽奈子はお願いカードをポケットから取り出した。
高瀬さんも同じようにカードを取り出し、二つのカードと
二人の手が重なる。
もういじめなんて何も怖くない、と陽奈子は思った。
私には高瀬さん――いえ和泉という友達がいるんだから――。
※エッセイ村に掲載されていた
作品です。
特殊なアイテムを使った友情物&
学園物みたいな感じになっています。
エッセイ村が削除されてしまう事に
なったので、こちらで再投稿する事に
しました。




