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7.変異種ウガルム 前編

 そいつは俺達の前にやってくると一端立ち止まり値踏みするかのようにこちらを観察してきた。


「ガルムの変異種、ウガルムか」


 ガルムは狼のような姿をしており全長一メートルほどで赤黒い体毛が特徴的な魔物だ。魔物といっても狼よりも少し強い程度なので事前準備を万全にして油断をしなければ一般人でも勝てなくはない相手だ。


 しかし目の前の変異種は闇のように黒い漆黒の体毛に覆われ、全長六メートルを超える巨躯、人の身体などたやすく食い破ることのできる鋭利な牙、狂気を感じさせる真っ赤な目。


 ぶっちゃけ俺じゃ勝てる気がしない。


「頑張れキール」


「無理ですよ! さすがにウガルム相手に素手じゃ厳しいですから」


 期待を込めないで言ったものの案の定予想通りの返答をするキール。


「ったくつかえねぇな」


「さらっとひどいことを言ってますよねクズオさん」


 キールは不満げに言う。誰のせいでこうなったと思ってるんだよ。


「こうなったらミリアに……」


 ミリアに助けを求めてさっきまでミリアが背中を預けていた木を見るがそこにはミリアの姿はなく、辺りを探してもミリアの姿はない。


「そうきたか」


 あくまでも魔族を手助けするつもりはないってことかよ。


 こうなったら取れる手段は一つ。


「逃げるぞ!」


「きゃっ!」


 俺はウガルムを睨みつけるノエルを抱きかかえてウガルムのいる方角とは真逆へ走り出し近くにいたノエルの配下のアクセルゴートにまたがる。


「飛ばせ!」


「走るのだゴーちゃん」


「メェ!」


 ノエルの指示に従いアクセルゴートが森の中を駆け抜ける。


 さすがアクセルゴートと名乗るだけあって速い。まるでバイクに乗っているかのような速度だ。俺はノエルを自分の前に座らせ隠せるゴートの角を掴んで風で飛ばされないように堪える。


「なるべく狭い道を通るようにして逃げろ。あの巨体じゃ木々が邪魔で早くは走れない」


「うむ。なるべく狭い道を行ってくれゴーちゃん」


「メェ!」 


 アクセルゴートはノエルの言葉を聞いて木々が生い茂る狭い道へと入っていく。


「ちょっと待ってくださいよ! 僕を置いていくつもりですか」


 出遅れたキールが慌てて俺の方へと走り寄ってくる。


 こいつ、ダッシュだけでこのアクセルゴートと同じぐらいの速さで走って来てやがる。やっぱ勇者ってのはどいつもこいつもイカれた身体能力をしてやがる。なんかアクセルゴートに乗って必死に逃げている自分が馬鹿らしくなってきやがる。


 俺達が逃げるのを見てウガルムは遠吠えをする。


 するとウガルムの影からガルムが三〇匹ほど飛び出し俺達に向かって駆けて来た。ウガルムもそれに続いて駆け出す。


「ちっ! 魔物まで従えてやがるのか」


 ガルムは小柄な体躯を活かして障害となる木々を軽々とかわしてウガルムよりも早くこっちに差し迫ってくる。このままじゃすぐに追いつかれちまうな。


「ノエル! 魔術は使えるのか?」


「それなりにだが、父上のようには使えぬぞ」


「ガキにそこまで期待しちゃいねーよ。とりあえずガルムの足止めが出来れば充分だ」


「わかった」


 神妙そうに頷くとノエルは背後に振り返ってガルムへ右手をかざす。


「喰らえっ! アイスジャベリン!」


 その瞬間、かざしたノエルの右手の先から魔法陣のようなものが浮かび上がりそこから鋭く尖った氷の塊が射出される。


 ターゲットにされたガルムは氷の塊に気が付き咄嗟に横へかわす。氷の塊はそのまま地面に突き刺さり周りの地面を少しだけ凍らせる。


「すまぬ、外した」


「気にするな」


 あれが魔族のみが使える魔術か。


 人間が使う魔法とは違う理の力。人間は魔石を使わないと魔法を使えないが魔族はそんなものを使わずに魔術を使うことができる。


 だからこそ互いに相容れず長い間戦争を繰り広げていたわけだが。


 だが魔石みたいなもんに頼らずに魔法が使えるってのはいいよな。


「まだ魔術は使えるか?」


「うむ。あれぐらいの魔術ならまだまだいけるぞ」


「そうか。なら次はガルム目掛けてではなくその手前辺り……そうだなガルムが着弾してからかわせるぐらいの位置に狙いをつけて撃ってみろ」


「そんな手前にか?」


 俺の言葉の意図がわからず首をかしげるノエルだったがすぐにコクリと頷く。


「わかった。やってみよう。いけっ! アイスジャベリン!」


 ノエルは俺の言われた通りガルムの手前に狙いをつけて氷の塊を射出する。


 氷の塊はガルムの手前に着弾し地面へと突き刺さる。ガルムは地面に突き刺さった氷の塊をよけようと横に動くために四肢に力を入れると、ガルムが転倒する。


「ガルムが転んだ?」


 突然の出来事にノエルは驚いたように呟く。


「違う。お前の魔術で転ばしたんだ」


「妾の? しかし妾の魔術はガルムにはかすりもしていないぞ」


「そうだな。だが氷の塊が地面に刺さると周りの地面も凍りつくだろ。あいつはその凍った地面で思いっきり踏み込んだから転んだんよ」


「ふむ、魔術をそのように使うとはな」


「バカ野郎。こんな状況で考え込んでるな。敵はまだいるぞ」


 顎に手を当てて考え込もうとするノエルを叱責する。


「おっと、すまぬ」


 と言いながらもノエルは楽しそうに口角を上げて笑う。こんな危機的状況で何が楽しいんだ? 魔族ってのはこういった危機的状況を楽しむ戦闘狂とかなのか?


 とりあえず氷の塊を射出してガルムを転ばせるが、ガルムもどうやらバカではないらしくあれから三匹目が転ぶのを見て学習して氷の塊を余裕を持ってかわすようになってきた。


 まあそのおかげで多少距離を開けられたからいいが、それでもそのうち追いつかれるかもしれないな。


「メェメェメェ」


 さすがに俺とノエルを乗せて全力で走り続けているせいでアクセルゴートも疲れが出始めている。なんとかしないとな。


「おい、もっと大技みたいなのはないのか?」


「あるにはあるがお主の仲間も巻き込んでしまうぞ」


 ノエルに言われて後方で追いかけてくるキールの存在を思い出す。そういえばいたっけな。


「かまわん。やっちまえ」


「よいのか! お主の仲間だろ」


「背に腹は代えられん。あいつも勇者なら仲間のために死ぬのは覚悟の上だ。というかあいつはその程度じゃ死なん……たぶん」


「なるほど。信用しているのだな」


 俺の言葉にノエルが意味深に捉え尊敬するような目で俺を見てきた。


「吹きつけ! アイスストーム!」


 ノエルが魔術を発動させると地面に青い魔法陣が浮かび上がる。顔ぐらいの大きさだったアイスジャベリンの魔法陣とは違い半径五〇メートルほどの大きな魔法陣だ。


 その魔法陣からはこぶし大の氷の礫と荒れ狂う暴風が舞い起こる。


 吹き荒れる暴風とその風に流される氷の礫がガルムどもとウガルムに襲い掛かり着実にダメージを与えていく。ついでにキールにも。


「えええええっ! どういうことですかクズオさん! 僕も魔術に巻き込まれているんですけど」


 足を止め必死に氷の礫を回避するキール。


 アイスストームの効果は短く、五秒ほどで魔法陣が消えてしまったがキールが立ち止まったおかげでガルムが近くにいたキールへと襲い掛かっていた。


「よし、キールが敵の注意をひいてくれた。俺達はその間にこの森を抜けるぞ」


「仲間のために自らを犠牲にするとは……。これが勇者なのか」


 なぜかノエルがキールの行動に感動を覚えているが今はどうでもいい。


 とにかくこれで余裕を持ってこの逃げることができる。そう思っていたが甘かった。


 ウガルムだけはキールには目もくれずに俺達の方へと駆けてきた。

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