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6.聖剣の勇者

「断る」


 魔王の娘――ノエルとの話を終えミリアとキールに変異種を討伐する話をしたらミリアににべもなく断られた。


「私は魔族のために戦うつもりはない。変異種と戦うのならお前らだけでなんとかするんだな」


 というミリア。


 こいつの魔族嫌いも相当だな。まあ家族を殺されたのだから当然と言えば当然なんだろうけど。


「別に魔族のために戦わなくてもいいだろ。変異種は魔族だろうと人間だろうと関係なく襲ってくるんだ。討伐に協力して損はないだろう」


「ならば変異種がこの森から出たのなら戦おう。それまで私を貸すつもりはない」


 ミリアはこれ以上話すことはないといった感じに言うと近くにあった木に背中を預け腕を組んで目を瞑る。


「相変わらず頑固なやつだ」


 ため息交じりにぼやく俺。


 まあこいつならこういうと思ったけどな。ミリアのやつは一度言い出したら聞かないし融通も利かないからな。


「それで、キールはどうすんだ? 変異種の討伐に協力してくれるのか?」


 俺はさっきから黙って話を聞いていたキールに問いかける。


「僕はクズオさんのことを誤解していたようです」


「だろうな。お前は俺の名前を誤解してるからな」


 俺がそう指摘するがキールは俺の指摘を気にすることなく感慨深そうに熱弁する。


「魔族と人間。その争いの歴史は長く両者の溝も深い。しかしいつまでも過去のことに囚われていがみ合っていてはダメなんですよね。お互いが協力し合い一つのことをなす。その一歩のために変異種を討つ。素晴らしいことだと思います――って痛い! 何で脛を蹴るんですかクズオさん!」


「イケメンがいいことを言うとなんかムカつく」


「意味がわからないですよ!」


「うっせ! とりあえずお前は変異種の討伐に参加するんだな」


「はい! 一緒によりよい世界のために頑張りましょう――いたっ! だからなんで脛を蹴るんすか」


「うっせ! 爆発しちまえ」


「意味がわからないですよ」


「お主らは何をしているのだ? 話し合いは終わったのか?」


 俺がキールの脛を蹴っているとミリアを刺激しないように離れたところにいさせたノエルがやってきた。


「まあな。予想通りだったけどな」


 チラリと視線をミリアに向けて肩をすくめる。


「そうか。あの者は魔族に怨みがあるようだからな仕方なかろう。魔族と人間が手と手を取り合うなどそう上手くはいかないものだしな」


 どこか愁いのおびた表情でノエルは呟く。ガキのくせにみょうに難しい顔をするやつだな。


「けどそこの勇者殿は手助けしてくれるのだな?」


 ノエルは気持ちを切り替えキールへと顔を向ける。するとキールはなぜか擬人化した聖剣グラムに脛を蹴られていた。


「いたっ! なんで僕の脛を蹴るのさグラム!」


「……気持ち……いい?」


「よくないよ!」


「……残念」


 と淡々とした口調で言うと聖剣グラムは光の粒子となって大剣へと戻る。キールは大剣へと戻った聖剣グラムを背中へと担ぐとノエルのことに気が付く。


「……お、お主が聖剣の勇者か?」


 キールと聖剣グラムのやり取りを見て若干引き気味で訊ねるノエル。


「ええ。自己紹介が遅れてすいません。僕は聖剣の勇者キールです」


 キールは佇まいを正して貴族がやるようなキザな動きであいさつをすると片膝をついてノエルの手を取りそっと手の甲にキスをする。


「よろしくお願いします魔族のお姫さ――ばぁ!」


「何してんだこのロリコン野郎!」


 キスをしてノエルにニコッと微笑むキールに俺はすかさず顔面に全力パンチをお見舞いする。


「ちょっと! 痛いじゃないですかクズオさん」


 俺が全力で殴ったというのに勇者だけあって頑丈なキールはどこか余裕を残した表情で抗議してくる。しかし今の俺にとってはその余裕のある顔が余計に腹が立つ。


「痛いもクソもあるか! テメエなんてことしてくれんだよ!」


「意味がわかりませんよ。脛の件といい僕が何をしたっていうんですか!」


「このバカ野郎が!」


「お、落ちつくのだ。なぜそなたがそんなに怒るのだ」


 キールの首元を掴む俺を宥めようとオロオロするノエル。


「怒らないわけにはいかねーんだよ。こいつの聖剣を見ろ」


「聖剣がどうしたと――」


 俺に言われてノエルは聖剣を見ると唖然とする。それもそのはず、さっきまで傷一つなかったキレイに輝いていた刀身が今では長い間風雨にさらされ朽ち捨てられたかのように錆びついていた。


「な、なんで?」


「キールのバカ野郎が他の女にキスをしたからグラムが怒って心を閉ざしちまったからだ」


「剣が心を閉ざす?」


 不可思議な現象にノエルは思わず首をかしげる。


「こいつの聖剣はちょっとめんどくさくてな。キールが他の女と仲良くすると嫉妬して心を閉ざして刀身があんな風に錆びついちまうんだ。前にもこんなことがあってな。あん時は死ぬかと思った」


「ハハハ。グラムはこうなると中々機嫌が直らないんですよね。それにグラムは他の武器を持つと浮気だってうるさいから僕は予備の武器はないんですよね。さすがに変異種相手に素手だときついですね」


 困ったなぁと苦笑するキール。その軽い態度にイラッとして思わず首を絞める。


「誰のせいだと思ってんだよ! なんでお前は女に対していつもいつもそんな態度とるんだよ! アホなのバカなの死にたいの!」


「まあまあ落ち着いてくださいよクズオさん。グラムもしばらくすれば機嫌を直しますって」


「そういう問題じゃねー! もし今ここに変異種がここに来たら――」


 首を締め上げてるというのに軽い調子のキールに文句を言っているとガサガサと森の木々を力強くかきわけてこちらにやってくる物音が聞こえてきた。


 おいおいまさか……。


「……この気配。まずいぞ! 変異種が来たぞ!」


 ノエルがハッとした表情で言う。


「まじかよ……」

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