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5.魔王の娘

 魔王。


 かつて魔族を率いて人間たちを攻め滅ぼそうとした存在。結局その魔王はミリアによって倒されたわけだが、魔王は俺がこの世界に呼び出された原因ともいえる人物だ。


 その娘が目の前にいる幼女だという。


「貴様の目的は何だ。魔物を集めて何を企んでいる。父を殺した人間への復讐か!」


 今までに見たことがないほどの剣幕で魔王の娘に迫るミリア。


「くだらぬ」


 魔王の娘はそんなミリアの気迫に物怖じせずに返す。


「妾は復讐などというそのようなものなどに興味などない。そのようなものは過去に囚われた愚か者がすることだ」


「なんだと」


 ミリアが魔王を復讐のために殺したのか知ってか知らずか魔王の娘の放った言葉にミリアは激昂する。


 このままいけばミリアは間違いなく魔王の娘を殺すだろう。魔王の娘とはいえ魔王を――父を殺した勇者には勝てるはずがない。


 ミリアがこのまま魔王の娘を殺せば今回の仕事はそこで終わりだ。また街に帰って仕事を押し付けられる未来が待っている。


 魔王の娘か……。


 俺は考える。


 確か魔王には隠し財産があるという噂があったな。


 一時は大陸の半分以上を支配下に置いた魔王だというのに魔王城には大した宝はなかったとか。だから魔王はどこかに財産を隠しているんじゃないかという話だが……。


 もしその噂が本当ならその隠し財産を持っている可能性があるのは娘だな。遺産として渡されているのかもしれない。


 もし魔王の隠し財産とやらがあれば俺の借金は帳消しに……いや、それどころかおつりがくるほどだ。そうなれば元の世界に帰れるかもしれない。


 そうと決まれば……。


「待てミリア! そいつを殺すな。殺すならキールを殺すぞ」


「ええっ!」


 短剣を突きつけられたままのキールは困ったような声をあげる。


「なにっ! どういうつもりだクズオ! まさか魔族を――魔王の娘を助けるつもりか」


「そのまさかだ」


「正気か! こいつら魔族はどれだけの人間を殺してきたと思っているんだ。そんな魔族を助けるなど頭が狂ったか」


「魔族とはいえ相手はまだ年端もいかない子供だ。そんな子供を殺すなんて勇者のすることじゃないだろう」


「子供とはいえこいつは魔王の娘だ。生かしておいてはろくなことにはならない」


「はっ、そんなんだからキールに剣を振るうしか能がない残念なペチャパイだと陰で言われるんだよ」


「ほう……」


 ミリアが殺気をこめてキールを睨みつける。


「言ってないですよ!」


 とキールが必死に弁明するが無視だ無視。とりあえず意識がこっちに向いているうちにミリアを説得しないとな。


「魔王の娘だが息子だろうが関係ねーだろうが。勇者ってのは弱い者の味方だろ」


「魔族は人間よりも強靭な肉体と魔法とは違うことわりの魔術を使用する。そんな者が弱いわけがない」


「魔王が死んで以降の魔族は人間に迫害されて虫の息だ。そんなやつらに復讐だとか息巻いて剣を振りかざして恥ずかしくねーのか? だいたいその魔王の娘の言うとおりいつまで過去に囚われてんだよ。今のお前の姿を見たら家族はなんて言うんだろうよ」


「……っ」


 俺の言葉がミリアの琴線に触れたのか魔王の娘と対峙したまま黙り込む。


「……ちっ! ならばその娘はお前の勝手にしろ」


 剣を収めるとミリアは魔王の娘から離れる。それでも魔王の娘が変なことをしようものならすぐにでも斬り殺そうと殺気を放っている。


「それと。キールは覚えてろよ」


 ミリアはキッとキールを睨みつける。意外にも胸のことを気にしていたのか。


「誤解ですって!」


『……大丈夫キール。グラムはあんなペチャパイには負けないから」


 誤解を解こうとするキールだったが聖剣のグラムの一言が火に油を注いでミリアのキールを見る目が鋭くなった気がする。


 まあ今はあいつらのことはどうでもいい。それよりも魔王の隠し財産のことだ。


「おい、大丈夫か幼女」


 俺はミリアの気迫から逃れて安心してその場にへたり込んでいる魔王の娘に手を差し出す。


「幼女ではない! 妾はノエルだ」


 ムスッと頬を膨らませて怒るノエルだったがミリアが接していた時よりも態度がやわらかい。ミリアから助けたから多少は好意的に見てくれているということか。


「俺は葛生だ。クズオではないからな」


「お主は妾のことが怖くないのか? 魔王の娘なのに……」


 ノエルは俺の手を恐る恐る取りつつ訊ねてきた。


「俺としては魔王の娘よりも借金の方が恐い」


 働けば働くほど増える借金。終わりが見えず未来が見えない日々。これほど恐ろしいものがこの世にあるのだろうか。


「変なやつだなお主は」


 ノエルはクスリと笑う。


 何が面白いんだ? こっちとしては死活問題なんだが。


 子供の考えることはわからん。


「それよりもお前は魔物を引き連れてこの森で何をやろうとしていたんだ?」


「それは……言えぬ」


 とノエルは口を手で押さえてだんまりを決め込もうとする。


「ふーん。どうせ変異種を倒そうとしてたってところだろ」


「……っ!」


 口を手で塞いで声は出ていないが驚きのあまり目を見開くノエル。


 俺はノエルの反応を見て確信する。


「やっぱりな。この森、さっきから魔物どころか動物や鳥が一匹もいやしないからおかしいと思ったんだ」


 変異種は魔物が突然変異してなる魔物のことだ。変異種になると力が大幅に増し魔族の言うことを従わず逆に襲い掛かるようになるし魔族以外にも魔物や動物なども見境なく襲うようになる。


 なんかいると思ったから早く帰ろうっていたんだがまさか変異種がいるとはな。


「大方迫害されてこの森に逃げ込んできていた魔族を助けるために魔王の娘であるお前が出張ってきたってところだろ」


「なぜそれを! お主は妾の心が読めるのか!」


 俺の指摘にノエルは声をあげて驚く。


「そんな驚くことじゃない。読めなくてもちょっと考えればわかる。この森は交通の便も悪いし特別なものが産出されるようなとこじゃないから人間は滅多にやってこないから迫害された魔族が逃げ込むにはちょうどいい。だがそこに変異種がやってきた。迫害された連中には変異種をどうにかできる力がないから魔王の娘だったお前が責任を感じてなんとかするべく配下の魔物を連れて森を散策してたんだろ」


「……うぬぬ。本当に妾の心が読めるのではないのだな」


「ああ」


 そんなことができるのならとっくに社長の弱味を握って脅迫して借金をチャラにしてる。


「そうか……。ならば頼む!」


 ノエルは少し考え込んだと思ったら突然頭を地面にこすりつける。


「お主のその力を妾に貸してくぬか! 変異種はかなり手強く妾だけではとてもじゃないが勝ち目がない。だがお主の観察眼と閃きがあればなんとかなるやもしれぬ。お願いだ」


 と俺に懇願するノエル。幼女が高校生に土下座をする図は世間的にのはいかがなものだろうか。


 まあ土下座されても俺の答えは決まっている。


「嫌だ」


「……そ、そうか」


 俺の返答にノエルは明らかに落ち込む。


「人間が魔族の頼みを聞いてくれるはずがものな。妾は何を期待していたんだか……」


「勘違いするな。俺はお前が魔族だから断ったわけじゃない」


「ではなぜ?」


「世の中ギブアンドテイクだ。タダで協力してやるわけがないだろう。俺が協力したら見返りとして何を用意できる?」


「……確かにお主の言うとおりやもしれぬな。だが今の妾に見返りとして用意できるものはないのだ」


 ノエルの言うとおり今のノエルは羽織っていたフードはボロボロで素材も粗悪そうなものでとてもじゃないが魔王の娘が着るものにふさわしいと言えず、身に着けているアクセサリーも簡素な作りの髪飾りのみで金を持っている雰囲気はない。


「そうだ! ならば妾の初めてを捧げるぞ。妾に仕えていたメイドが血の涙を流しながら欲しがったほどだぞ」


「いらん」


 俺にそういう趣味はない。というかこいつのメイドの頭は大丈夫か。


「俺が欲しいのはお前の親父が残した遺産だ。それを報酬としてもらう」


「なにっ! 父上の遺産をだと!」


 俺の出した条件に戸惑うノエル。


 やっぱ噂は本当だったのか。魔王の残した財産は娘が引き継いでいたのか。


「嫌なら別にいいんだぞ。俺は協力しないからな」


「しかしあれは……いや、わかった。お主の条件を飲もう」


 ノエルは悲しみと悔しさが入り混じった複雑な表情を浮かべながら渋々俺の出した条件を飲む。


 それに対して俺は心の中でガッツポーズをする。


 変異種なんて魔王を倒した勇者と聖剣の勇者に任せれば余裕だからな。俺は見てるだけで魔王の遺産が手に入るってわけだ。


 問題はどうやってあいつらを説得するかだな……。 

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