4.クズ勇者クズオ
「動くな!」
「えっ!」
「なっ!」
俺の言葉にキールとミリアが驚きの表情を浮かべる。
それもそのはずだ。なんたって俺が二人の首筋に短剣を突き付けているからな。
「何をしてるんですかクスオさん」
「こととしだいによっては斬る――いや、殺すぞ」
怒り心頭のミリア剣を抜こうとする。俺は強い口調で言う。
「動くな。お前が俺を斬る前に俺はお前の喉をかっきることだってできるんだぞ」
「……くっ」
ミリアは喉元に短剣を当てられて悔しそうな表情を浮かべながら剣から手を離す。
「おっと、キールも聖剣を擬人化させたり変なことするなよ」
「どうしてこんなことをするんですかクスオさん」
「どうしてだと? お前らがこのまま戦闘を始めれば俺の命にかかわるからだよ」
俺はこんなところで死にたくない。そのためにもこいつらをこんなところで戦闘させてたまるか。
「クズオさんのこと信じてたのに」
残念そうにうなだれるキール。おい、お前まで俺をクズオと呼ぶのか。
この野郎。あとで覚えてろよ。
俺はキールたちの動きを封じたの確認すると大声を出す。
「おい! 魔物を操ってるやつ! いるんだろ。こいつらは無力化した。出てこいよ」
「え?」
「なにっ?」
俺の言葉にキールとミリアが驚く。
「何を驚いている。お前らに気づかれずにこっちに接近してくるってことは誰か魔物を操ってるやつがいるってことだろ」
通常の魔物は獲物を見つけたら考えなしに突っ込んでくるもんだ。もちろんアクセルゴートもその例に漏れない。だというのにこちらを警戒してギリギリまで姿を隠して囲みながら接近してくるってことはその魔物を操ってるやつがいるってことだ。
「ほう、人間にも頭の切れる者がいるようだな」
森の奥からアクセルゴートに乗り黒いフードを被った小柄な人物は幼さが残る舌足らずな口調で俺達の前に現れた。
「貴様らが大人しくここを去るのであればこちらは手出しはしない。だがこちらに牙を向けるのならタダでは済まさないぞ」
と警告してくるフードを被った人物。
ふーん。やっぱり向こうもこっちと交戦する気はないみたいだな。そのつもりならこんなまどろっこしいことなんかせずにさっさと攻撃を仕掛けてくるはずだ。それをしなかったってことは向こうも戦う気がなかったのか何か事情があるかってことだ。
まあ俺としてはどちらにせよ戦わずに済むのなら最良なんだけど……。
「ふざけるなっ!」
俺の意志とは逆にミリアがフードを被った人物に食って掛かる。
「魔物を操れるということは貴様は魔族だな! 魔族の話など聞けるか」
声に若干の憎悪を混ぜて喋るミリアは俺の短剣などなかったかのごとく無視して魔族へと駆け出した。
魔族は魔物を眷属として統制することができる。だから魔物を操って俺らに襲撃したということは目の前のフードを被った人物は魔族だというわけだ。
「ちっ。やっぱこうなるのかよ」
こんなチャチな短剣で魔族を前にしたミリアの動きを止められるわけないもんな。俺の行動が意表をついて混乱していたから動きを止められたけど魔族を前にしたミリアが大人しくしていられるわけがない。なんたってミリアの家族は魔族によって殺されたんだからな。
魔王を倒した勇者なんて言われてるがミリアはただの復讐者だからな。
まあ俺としてはミリアの事情なんて関係ない。自分が生きていられればそれでいい。そのためには戦闘がなければ最良だったけど、あの魔族が倒されれば眷属である魔物も逃げていくだろうから俺への被害は抑えれるだろう。
あの魔族には悪いが死んでもらおう。
「せやあああ!」
あっという間に魔族の少女の元へと移動したミリアは剣を振りかざす。さすが魔王を倒した勇者だけあって動きが早い。
「くっ!」
ミリアの剣を間一髪でかわす魔族。あのミリアの一撃をかわすなんてやるな。
そしてミリアの凄まじい剣圧は空気の衝撃となって後ろの木々を傷つける。
剣圧が衝撃波になるとかまじファンタジー。というかマジで危ない。あんな攻撃を近くでやられたらたまったもんじゃない。
当然ミリアの攻撃は一撃だけで終わることはない。むしろミリアの真骨頂はその速さにある。二撃目三撃目と次々と攻撃を繰り出す。当然それに伴って衝撃波も辺りに飛び散る。ちょうど今俺の横をかすめたし。
魔族も頑張って攻撃をギリギリでかわしていくがどんどん追い込まれていく。
「はぁっ!」
「しまった!」
ミリアの剣が魔族の被っていたフードを切り裂く。するとフードで隠れていた魔族の顔があらわになる。
フードから飛び出た銀色にたなびく髪はシルクのようになめらかで風に揺られてキラキラと輝いているかのようだった。そしてその髪の持ち主はまだ幼くクリッとした愛らしい目をしておりそれでいてどこか意志の強さを感じさせる。
愛らしい見た目をしているが注目するのはそこではなく頭に生えた二本の角だ。銀髪の幼女の頭にはとぐろを巻くように巻き上げられた二本の角が生えていた。
この世界の魔族の特徴は頭に生えた角だが、その中でもとぐろを巻くように生えている角を持つのはある一族のみ。
「貴様! 魔王の娘だな!」
ミリアがさっき以上に殺意をみなぎらせて魔王の娘と対峙する。




