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2.貧乏暇なし

「遅い!」


 俺達が事務所に到着するなりいきなり怒鳴られた。


「仕事が全部片付いたらすぐに戻ってくるように言ったはずです。どこで寄り道してたんです!」


 俺らを怒鳴りつけてきたのはこの勇者カンパニーの秘書的なポジションのキャロル。歳は二九歳でこの世界じゃ婚期を逃していると言っても差支えがない。相手を見下すような高圧的な口調ややキツイ顔つきをしているせいで周りからもあまり好かれていない。俺は心の中でロッテンマイヤーさんと呼んでいる。そして彼女は俺ら勇者に対して厳しい。


 まあ彼女からしてみれば俺らみたいな借金まみれの勇者なんてゴミ屑同然なんだろうな。ミリアの性格が真面目ならキャロルは生真面目といった感じだし。


「ちょっとメシを食いに」


 俺の言葉にキャロルさんの目が鋭くなる。


「食事ですって。クズオさん、あなたたちにそんなことしてる暇があると思ってるんですか」


「あのー、クズオじゃなくて葛生(くすお)なんですけど。楠木葛生」


 クズオってそれじゃあまるで俺がクズみたいな男みたいじゃないか。


「ふんっ! 借金まみれの勇者なんてクズです。我が社はあなた達三人の膨大な借金を肩代わりしてあげてるのですよ。本来なら休みなく働いてもらうところを睡眠時間があるだけでもありがたいと思いなさい」


 ひどい扱いだ。地下で王国を作る方がまだましだと思うくらいに。……俺の給料何ペリカだろう?


「だいたい、本来は村に居座る盗賊の退治だったはずなのに、村を半壊させるなんてどういうつもりですか! 壊れた家屋の修理代は給料から天引きしておきますからね」


「「「げっ」」」


 キャロルの言葉にキールとミリアも驚きが隠せない。


 スズメの涙ほどの給料から天引きって。俺に明日から石でも食べろと言うのか。


 それからしばらくキャロルの説教が続いたが、もう説教にうんざりしたところで、事務所の奥にある高級そうな椅子の方から声がかかる。


「怒るのはそれぐらいにしたまえキャロルくん」


「社長! ですが……」


 と不満げに言うキャロルに、高級そうな椅子がくるりと回転する。


 高級そうな椅子に座っているのはクマ。しかも動物ではなくぬいぐるみのクマだ。テディ―ベアと言った方がしっくりくるか。このクマのぬいぐるみがこの勇者カンパニーの社長だ。いつものことながら何でクマのぬいぐるみが社長なんだろうな?


「仕事はそれなりにこなしてるみたいだからそこまで目くじらを立てなくてもいいじゃないか。半壊した村の人たちもそれほど怒っていなかったようだし、怒鳴るのはそれくらいにしないか。じゃないと君の可愛い顔が台無しだ」


 愛らしい見た目とは裏腹に渋いハードボイルドみたいな声で話すクマ――もとい社長。


「……社長」


 なぜか恥ずかしそうに眼を伏せるキャロルさん。えっ? 相手はクマのぬいぐるみですよキャロルさん。いくら婚期を逃してるとはいえ……。


「ゴホンッ。わかりました。社長がそこまで言うならこの件はこれでおしまいです」


 と言ってキャロルは頬を赤らめそそくさと部屋から出ていく。


 キャロルが出ていくとクマがどっかの司令官みたいに腕を机につけて話しかけてくる。


「さて、今日もご苦労だったね」


「いえ! 活躍していたのは全部キールでしたから。ちなみに村を半壊させたのもキールです」


 俺は責任を問われる前にさらっとキールに全てなすりつける。


「そうですね。彼の活躍で私たちは特にこれといって活躍してませんでした。労うのなら彼にしてあげてください」


 意外にもミリアが俺の言葉に賛同してきた。ミリアも俺と同じく責任を全てキールに押し付けて給料の天引きを阻止しようという魂胆か。まあキールだしいいか。


「えええ! ちょっと待ってくださいよ。責任を僕に押し付ける気ですか!」


 すまんなキール。人という字は誰かに責任という重荷を誰かに押し付け合って成り立っているんだ。まあ俺にも罪悪感が多少あるからそのお詫びに幻想表現イマジンアートで作った石ころなら腹いっぱい食わしてやるからな。


「うむうむ。元気そうでなによりだ。ではさっそく次の仕事で今すぐにニーベルの森に行ってもらいたい」


「はい?」


 なに当然のように次の仕事を振ってきてるんだ。しかも今すぐにって……。帰って休む暇もないのかよ。かといって俺達は断ることができない。文句を言ったらまた借金が増える。


「ニーベルの森がどうかしたのですか?」


 ミリアが質問すると、キールも不思議そうに尋ねる。


「あそこにはめったに人が立ち入らない場所だったはずですがどうかしたのですか?」


「どうやら最近あの森に魔物が集まっているという噂が流れてきてるのだよ。君たちにはその噂の真偽を確認してもらい事実であったときには原因の解決を頼みたい」


 社長の説明を聞いて根っからの勇者であるキールとミリアが返事をする。


「はい」


「わかりました」


 おいおい、真偽を確かめるって絶対何かめんどくさいことが待っているに決まってる。火がないところに煙は立たないっていうしこの会社に依頼が来てる時点で何か厄介ごとにじゃねーか。


「……まじかよ」


 俺は内心嫌々ながらもニーベルの森へ向かうためにキールとミリアの後を追って事務所から出ていく。


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