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9.魔王を倒した勇者

「ゴーちゃん! 大丈夫かゴーちゃん!」


 地面に倒れ伏したアクセルゴートから飛び降りるとノエルは心配そうにアクセルゴートの顔を覗く。


「メ、メェ」


 アクセルゴートはノエルの声に力なくだが無事だということを知らせようとなんとか返事をする。


「ゴーちゃん」


 アクセルゴートの声を聞きひとまずは無事だということがわかりパアッと喜びの笑みを浮かべるノエル。そしてそのままアクセルゴートに抱きつこうとするノエルを俺が止める。


「あんまり動かすなよ。ウガルムのやつは図体がデカかったから人間以上に空気を取り込む必要があったおかげで効き目が早かったけど、そいつの場合はさっきから走りっぱなしだから空気が薄くなったせいでチアノーゼを起こしたんだ。安静にしていればそのうちに治るだろうけど今は休ませてやれ」


「安静にか。ありがとう。ゴーちゃん。ゆっくり休んで早く元気になるのだ」


 ノエルは呼吸を荒くしながら倒れているアクセルゴートのそばにより膝をついてそっと顔に手を置いて感謝の言葉を述べる。そして感謝を述べたノエルはスッと立ち上がり俺の方を見る。


「ウガルムのやつはあれで倒したのか?」


 不安と希望を織り交ぜながらノエルが聞いてくるので俺は頭を横に振って正直に答える。


「いや、まだだ」


 俺がノエル言葉を否定した瞬間――獣の咆哮が辺り一帯に響き渡る。あまりの声量に振動で空気が震え木々がざわめきウガルムの怒りがこっちまでビリビリと如実に伝わってくる。


「やっぱあの程度じゃ時間稼ぎ程度しかならねえーか」


 チアノーゼを起こしたといってもやつからしてみればアクセルゴートと違って軽度だろうからな。やつにしてみれば身体の異常に身体がもたついてスっ転んだといったといったところだろう。俺としてもその程度であの化物を倒せるとは思っちゃいない。せいぜい虚をついて時間を稼げれば上々だと思っていたぐらいだし。


「何をのんきに言っておるのだ、来るぞ!」


 ノエルの言う通り、周りのことなど視界に入らず進行の妨げになる木々を次々となぎ倒しウガルムが木々の奥からこっちの方へと飛び出してきた。


「ガルルルルルウウウウ」


 毛を逆立て顔を怒りでゆがませ目には殺意を漲らせこちらへと一直線にやってくるウガルム。口の端からよだれがだらだらと垂れ流しているが気にするそぶりは一切ない。


「まずいぞ! どうするのだ」


「心配するな。そこのアクセルゴートのおかげで俺達は賭けに勝った」


 そう、俺は別にやみくもに逃げていたわけじゃない。やつを倒すために動いていたのだ。


「そいつがいなければ俺達はこの森を抜けることはできなかった」


 アクセルゴートのおかげで俺達は森を抜け、今は森を抜けてすぐ近くの街へと続く街道がある場所まで来ていた。


「何を言っているのだ? 森を抜けたところで何も変わらんぞ。ウガルムは森を抜けようが平然と追いかけてくるのだぞ。それどころか障害物がないからやつにとっては有利なのだぞ」


「それでいいんだよ」


 どういうことだ、と問いただしそうなノエルだったがその前にウガルムがこちらへ間近に迫ってきていた。


 距離にしてほんの数メートル。あと数秒もあればあいつは俺達のところまでやってくる。


「グルッルルル」


 抵抗をする前に殺してやるとウガルムの目が語っていた。そしてそれに伴い人間などたやすく噛み切ることのできる鋭い牙が煌々と降り注ぐ日の光を浴びて光る。


 しかしそれが俺らの身体に触れることはない。


 眼前に差し迫ったウガルムの前に一つの影が割って入ってきたからだ。


 風に揺られてどこか優雅にたなびく金色の髪。人を睨んでいるかのようなややつり上がった目。それでいて目鼻立ちは整っており綺麗な顔をしている。


 俺はそいつの姿を確認してニヤリと笑う。


「やっぱり来たか」


 そいつは自身の身の丈の何倍もあるウガルムの正面に立ち剣を構える。銘もない何の変哲もないただの剣だ。けど俺にはその剣がどこかの聖剣よりも頼りがいを感じる。


「グルアッ!」


 突然の乱入者にウガルムは邪魔だと言わんばかりに右前脚で振り払おうとするが、それはかなわない。


「はあっ!」


 そいつが剣を振るうとウガルムの右前脚があっさりと一刀両断された。


 ノエルの魔術では傷一つつけられなかったというのにそいつは傷をつけるだけでなくまるで豆腐に刃を通すかのごとく平然とウガルムを斬ってのけたのだ。


「……ッ!」


 突然のことに理解できないウガルムは脚を失いバランスを崩し地面へと横転し砂埃を巻き上げながら転がる。


 当然そいつはその隙を逃すことなく追撃する。


 ウガルムも接近するそいつの存在に気が付き魔術を咄嗟に連発させる。


 地面に無数の魔法陣が浮かび上がりそこから土柱がそいつに向けて突き刺すように伸びてくる。


 だというのにそいつは右や左だけでなく下や背後から差し迫る土柱をなんなくかわしウガルムの元までやってくる。


「これで終わりだ」


 そいつは淡々とした口調で言うとウガルムの首を刎ね、あっさりと倒してしまう。


 俺達が苦労したウガルムをこうもあっさり倒しちまうなんてな。


 俺はそいつの圧倒的なまでの強さに嫉妬と羨望と呆れを込めながら呟く。


「さすが魔王を倒した勇者だけのことはある」

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