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6-2

 完璧に日帰りだと思っていたのに、順哉さんのバイトの休みがたまたま二日続いていた為、急遽一泊二日でキャンプをする事になった。

 両親には、友達との外泊なんてまだ早いとも言われたが、お姉ちゃんの知り合いのお兄さんが保護者として付いて来てくれるんだ、と言うと、渋々ながら了承してくれた。

 ファミレスでの宿題会から4日後の朝、私達はいつもの最寄駅に集合する事と相成った。ここにレンタカーを借りた順哉さんが合流し、一路海へ向かうと言う流れだ。

 だけど、待ち合わせの15分前に駅に到着した私を見て、一番乗りだった玲央君は信じられないと言った顔をした。

「おはよう玲央君」

「え? 友野? 何で?」

 私の挨拶に対し、ヘッドホンを外した玲央君から、動揺混じりの言葉が返ってくる。

 その直後に、紗絵と道子、それに道子の彼である祐一君が現れた。

「おっはよ~」

 道子の元気のいい声に対し、玲央君は更に怪訝そうな顔をする。

「え? 大藤、髪金髪! 何それ、イメチェン?」

 紗絵が玲央君の姿を見つけ、大仰に声を出した。その声に反応してか、朝の駅に突入していくサラリーマンやOLがチラチラとこちらを振り向く。

「友野、ちょっと……」

 玲央君が私の事を手招きし、皆から距離を取ってから小声で囁いた。

「どういう事だ?」

「どういう事って、どういう事?」

 玲央君の質問の意図が分からない。

「何でお前らがいるのかって事だよ」

 玲央君はどうやら、私達がいる事をまるで聞かされていなかったようだ。

「ねぇ玲央君、順哉さんから何て聞いてたの?」

「……暇かどうか聞かれて、数人の仲間で海に行くから、お前も来いよって。って言うか、籠りっきりだろうから、絶対連れてくからって……。だからてっきり俺は、順哉さんの大学時代の、軽音サークルの人達だろうと……」

 玲央君はそこまで言い切ってから、少しして眉間に皺を寄せた。

「完全にあの人にやられた……」

 玲央君は呆れるように言うと、深い溜め息を吐いた。

「まぁ、いずれにせよ、もう来ちゃったんだから、楽しもうよ」

 そう言って玲央君に言葉をかけるが、正直な所、囁くように話す玲央君の顔が近くて、心臓がさっきから若干喧しかった。

 ――今からこれじゃ、先が思いやられるなぁ……。

 私が自分の心に穏やかな喝を入れたその時、一台のワゴン車が駅前に停止した。

 運転席から、アロハシャツを着た順哉さんが顔を出す。

「ほら玲央君、順哉さん来たよ」

 そう言って彼の腕を引き、ワゴン車へと近づいて行く。

「おはようございます」

「おはよう和葉ちゃん。とりあえず、ちょっと向こうの駐車場に移動するね。そっちに来て貰っていいかい?」

 頷きを返すと、順哉さんはそのまま颯爽と、100メートル程離れた駐車場へと車を回した。

 集団で移動しながら、最後尾からとぼとぼと付いて来る玲央君を気にしていると、横から紗絵が声を掛けて来た。

「順哉さんって、いくつの人?」

「え? 確か、24くらいだったかな~」

「ふ~ん、24か~」

 彼女の唇の端が、にやりと小狡く歪む。

「和葉、私、助手席貰うから」

 意味あり気にそう呟く紗絵の目が、ハンターのように鈍く光ったような気がした。

 駐車場に到着し、車を降りた順哉さんに一人一人紹介をする。

「えっと、こっちが佐藤道子。その隣の彼が、三山祐一君。そんで、こっちのが鈴原紗絵」

「今日はよろしくお願いしま~す」

 私の声を合図に、紗絵が元気な挨拶を順哉さんに向ける。その挨拶の裏に若干の下心が見える事には、友達のよしみで目を瞑っておこう。

「道子ちゃんと、祐一君と、紗絵ちゃんね。よし、覚えた」

 順哉さんが指差し確認をするように、一人ずつに人差し指を向ける。

「順哉さん、ちょっと……」

 後ろを歩いていた玲央君が、順哉さんに声を掛け、少し遠くで何やらひそひそと話し始めた。

「あれ? 順哉さんと大藤って、知り合いなの?」

 道子の疑問に、そうだよとだけ返す。

「それより道子、彼の事を紹介してよ。名前しか知らないって訳にはいかないでしょ?」

 その後に予想される質問を回避すべく、道子に質問を投げかけた。聞かれてまずいような事は無いと思うが、順哉さんと玲央君の関係に対して、私の口からどこまで言っていいのか計りかねたからだ。

 道子は祐一君の腕を掴んで、得意そうに言った。

「三山祐一君、私の彼氏で~す」

「それは知ってるよ」

 半ばうんざり気味な紗絵のツッコミが飛ぶ。

 促され、今度は祐一君が口を開いた。

「3組の、三山祐一です。今日はいきなりお邪魔しちゃってすいません。一応、サッカー部で2年のまとめ役をやってます。よろしくお願いします」

 身長はそんなに高い方では無いけれど、爽やかな笑顔には好感が持てた。

「お二人の事は、みっちゃんから聞いてました。和葉さんと、紗絵さんですよね」

「そうよ、私の親友よ~」

 道子が嬉しそうに笑う。

「とりあえず、同い年なんだから、敬語はやめよっか。なんか堅苦しいし、他人行儀だしね」

 紗絵がニヤニヤした顔で祐一君に告げる。その直後に道子に、いいの捕まえたじゃない、なんておっさんのような事を言う。

 そんなやりとりをしていると、玲央君と順哉さんが戻って来た。

「よし、それじゃ出発しようか」

 順哉さんはそう言うと、ワゴン車の後ろを開けた。

 荷物を詰め込んだ後、大藤、あんたは和葉の隣、と言う声が前方から聞こえて来た。

 見ると、紗絵が助手席の窓から顔を出し、玲央君を見下ろしていた。どうやら玲央君も、助手席に座るつもりだったようだ。

 直後、紗絵はこちらにちらりと目線を向けて来た。

 こいつを何とかしなさいと、その目は語っていた。

「玲央君、ほら、乗ろう乗ろう」

 勢いだけで玲央君をワゴン車の真ん中の座席に促した。

 玲央君は若干ぶすっとしていたが、すぐに諦めたように深くため息を吐いて、もそもそとワゴン車の中へと向かって行った。

 姫、如何でしょうか?

 うむ、よきにはからえ。

 紗絵と目線だけで会話を交わし、後部座席に道子と祐一君カップルを詰め込んだ後、私も玲央君の隣、真ん中の座席に乗り込んだ。

「はい、しゅっぱ~つ!」

 順哉さんが掛け声を出しながらキーを回した。エンジンがかかると同時に、車内に激しい洋楽が流れ出す。

 出勤前のサラリーマン達を横目に、ワゴン車はゆっくりと駅から離れて行った。


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