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プロローグ

 走る、走る、走る。

 マントをはためかせながら結んだ黒髪が乱れるのを気にもせず全力で目的地へ向かって廊下を駆け抜ける。城内の豪華な装飾品の数々が視界を流れては消えていく。後ろから私のことを引っ捕らえんと追いかけてくるのは人間とは言えないような巨体を持っていたり獣のような頭をしている。


「回り込め、決して逃がすな」

「隙間無くつめてけ。突破させるな」


 怒号に近い声が城内に鳴り響く。ドタドタと地鳴りのようなたくさんの足音が前方から廊下を反響して私の耳に入ってくる。どうやら挟み撃ちをかけようとしているらしい。


「居たぞ、囲め囲め」

「もう逃がしませんぞ」


 目の前から追っ手が挟みこまんと迫ってきて前に進めなくなる。奴らは皆、斧や剣など物騒な得物を私に向けて構えている。


「まったく、女の子一人相手にはずかしくないの?魔族ともあろう者が」


 私の言葉に答える者はいない。前列の何人かは挑発に乗りそうだったが後方にいる指揮官が激を飛ばし諌めていた。困った、まるでゆだんのない。


「……参ったなぁ。面倒だからやりたくなかったけど」

「構えろっ来るぞ」


 そう言って私は左手を前に突き出し魔力をそこに集める。指揮官が私の行動に気付き指揮を飛ばすが……遅いっ!!ついでに脆いっ!!


「サンダナっ」


 私の言葉と同時に鋭い閃光が何本も左手から飛び出す。それらは目の前の道を塞いでいた奴らに当たり痺れさす。電撃は後ろに控えていた奴らもまきこんで固まらせた。動かなくなった奴らを私は踏みつけて真っ直ぐに再び走り出す。

 乗り越えた先の角を右に曲がると目的地である祭儀場の前までたどり着く。勢いそのまま祭儀場の扉を乱暴に開け放つとそこにある魔方陣の上に立つ。


「お止め下さい。まだまだ貴女の使命は」


 振り返ると先程までの魔族とは異なり人間のような顔だちをし黒いタキシードに近い洋服を纏った男が立っていた。その姿は逆に整い過ぎており人間離れしているような印象を抱く。


「何よ。内乱は止めたわ。種族だってまとまっまたし義理は果たしたわよ。これ以上私に何かさせようと言うの?」

「しかしそれでは他の者は納得しないかと。今一度お考え直し下さい」


 男はそう言って私に思いとどまるように叫ぶ。だけど私だって引き返すわけにはいかない。


「もう充分でしょ。もう私の自由にして良いでしょ」

「心中察しますが譲れません。我々にはまだ貴女が必要なのです」


 その声を無視して魔方陣に魔力を通しだす。魔方陣は魔力に反応し蒼く鮮やかに発光しだす。呪文の詠唱も何度も復習したし大丈夫だろう。男が私を取り押さえようと手を伸ばすが発光した魔方陣によってその腕は弾かれる。呪文を唱え終わると目映い光が私を包みだす。


 あぁ、これでようやく……


「魔王様っ!!」





 ちゅんちゅんと小鳥のさえずる音が聞こえる。目脂がべっとりとついて固まった目を無理矢理開くと黒一色の視界が眩しい電子光にさらされる。まだ覚醒してない目はその光を拒否するように閉じようとするも固まった目は思ったより早くは動かず光の刺激により覚醒を余儀なくされる。

 電子光の原因である目の前の画面にはゲーム画面が写し出されている。そこには魔王と戦う前の会話シーンで止まっていた。もう内容が記憶の中に入っていないのでさっさと電源を切る。

 目が慣れてきて部屋の中をぐるりと見渡す。年頃の女子としてはいささか簡素な内装。おしゃれするには少し足りない化粧品しかない鏡台。好きだったアニメのポスターが貼ってある壁。


 ……私の部屋だ。そこは紛れもなく私の部屋だった。



◆◇◆

 

 私こと風魔(カザマ) 裕魅(ヒロミ)は花も恥じらう女子高生である。名前に鬼の字が2つ入っていたりする若干不吉な名前だけど本人はいたって平穏無事な生活を送っている。いや、いた。

 世の中の大多数の学生同様だらけた平穏無事な私の生活は何の前触れも無く木っ端微塵の粉々に砕かれつい二日前まで私はまったく違う異世界、所謂剣と魔法とファンタジーな世界にトリップしていたのだ。

 しかも……魔王として。

 魔王というのはあれだ。諸君等も思い浮かべると思う。そう、ラスボスとして有名なあの魔王だ。「世界の半分をやろう」とか言ってしまうあの魔王だ。魔族の頂点ですべての元凶、悪のカリスマである、あの魔王だ。

 おかしいだろう。普通召喚されるのは勇者が相場というものだろう。魔族が地球から魔王を召喚なんて聞いたことないわよ。

 渋々私は魔王業をあちらの世界で五年間こなして帰って来たのだ。その話は語れば長くなるので割愛する。まぁツッコミたいことは幾つかあるだろうが一つだけ確かなことを宣言しておく。


「私は正真正銘の17よ」

「いきなりどうしたのよ、裕魅」

「なんでもないわ」


 私の呟きに隣を歩いていた女子が答える。快活そうないかにもスポーツ少女ですといった感じの健康的な小麦色の肌をお持ちのこの少女は幼馴染みAの葉白谷(ハシラタニ) (サチ)だ。オタク気味で引きこもり予備軍のモヤシっ子の私には過ぎたタイプのリア充というかクラスの中心タイプの子だ。


「それにしてもこの土日なんかあった?」

「えっ何のこと」

「いや、なんか顔付きが全然違うよ先週と」

「アハハ、そんな事ないと思うけど」


 幸の言葉に軽くドキッとした。軽く背筋が震えたけどばれていないだろうか?愛想笑いで誤魔化したがどうだろうか?


「……気のせいだね。何時もみたいに死んだようにダルそうな目してるし」

「ひどいな。何時もそんな酷い顔してる?」

「うん。人生に疲れたって感じの顔してるよ」


 どうやら誤魔化せたとしておこう。幸の目が何かを言いたそうだったが幸はそれ以上追及はしてこなかった。ところで意趣返しにしてもそれは言い過ぎではなかろうか?


「それはそうだよ。学校なんてリア充の巣窟行くなんてダル過ぎる」

「またそんな事言って……アンタは」


 私の言葉にそう言って我が幼馴染みは溜め息をつく。……むっ、何がいけないのだろうか?


「そんなんだからアンタは血色悪いボッチなのよ」

「ボッチは否定しないが血色悪いは生まれつきだ」


 痛い所を突きやがって……この健康優良児め。


「否定できるようになりなさい。私はアンタを評価してんの」

「へいへい」


 好き放題言いやがって。私だって異世界に居た時は普通に喋れたんだ。……あれ、もしかしてあれは人じゃないから?


「ど、どうしたのよ」


 いや、ね……。

 見上げた地球の空は思った以上に綺麗な青だった。というか空って青だったんだ、そういえば。



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