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「そのままでいい、という戯言」
「そのままでいい、という戯言」
荒野の砂漠のサボテンが
植木鉢の中で細くなっていく
宇宙のすべてと言われた盆栽の木が
針金で進む方向を決められていく
そのままでいいよと
男は女に言うけれど
変わらない女は変わらない努力をしている
伝統の味を守ると決めた店
知らない間に消えている
品質開発で人の目に優しい花も
改良されて健康的になった芽も
そのままじゃあ駄目だと変更されて
人に合うサイズの動物も
埋め立てられた海も
そのままじゃあ駄目だと変更されて
そのままじゃあ駄目だと言われ変わり続ける
そのままでいいよと
誰かは歌に乗せて言うけれど
変わらない世界がどこにあるというのだろう
外見も中身も想いも夢も景色も世界も
そのままでいいよ、という戯言を
今日も笑顔で聞いて頷いている
そんなことはありえないとわかっていながら