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「それはそれで」
「それはそれで」
薄い機械の向こうに映る
冷たい海に沈んでいく小さな子
そんなことにはならずに良かったと
右手に見下した安定を
高いビルの手すりを飛び降り
下に落ちる自由を左手に握りしめ
とりあえず歩いていく
どこにも雲の中をふわふわ
かけていけるような
柔らかな道はないけれど
崖が見えずに進んでこられたなら
それはそれで幸せ
うつむいて歩いて生きて
季節の移り行く花を見つめて
新しい補修された道を見つめて
微笑んでいられたら
それはそれで幸せ
前を見つめて
自分の足を誰かが引っ張っている
それを見ることなく
なんとなく重いと思いながら
それでも進んでいけたら
それはそれで幸せ
空を見つめて
足元の悪さに気が付かず
こけてばかりだとため息
それでも世界は美しいと思えたら
それはそれで幸せ
きっとそれはそれで幸せ