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「移の時」
「移の時」
外で遊ぶ子どもの姿が消えて、
怒鳴る親父の姿も消えた。
風鈴の音も聞かずに、
クーラーの効きすぎでため息をつく。
デパートのような正装の特別な場所は閉店し
ごちゃごちゃと商品が並ぶ店だけになる。
商店街にはシャッターが昼間でも増え続け、
静かになっていくことに憂う人がいる。
人を傷つける火薬の球が空に飛び
美しいと見上げながらゴミを捨てる。
「いつかそんな時代になるんだろうか」
と問うじい様に私は目を丸くする。
まだ、そんな時代が来ていないと
信じていたのかと。
昔が良かったわけではない。
昔が幸せだったわけじゃない。
昔と今の苦労が違うだけ。昔と幸せの形が違うだけ。
二つの時代を平行に見たら
ほとんどの人が過去を選ぶ。理由は簡単。
なにか起こるからわかっているからだ。
「でもねぇ。今の時代に会っていたら、
おじいさんには選んでもらえなかったかもね。」
にこにことばあ様が微笑む。
私は目を細くして見つめる。
ばあ様が選んでもらえないのではなく、じい様が選んでもらえないかもと。