60/221
「アンパン」
「アンパン」
遠くで陽炎が揺れる暑い日差し
駅のホームで風に揺られながら
彼女は
セーラー服の彼女は
あんぱんを食べていた
来ない電車を思いながら
遠くを見つめながら
彼女は
ポニーテールを揺らしながら
あんぱんに噛みついている
しょうがないな、と見つめる人もなく
みっともないと目を細める人もなく
なに食べてるのよとからかう人もなく
頂戴とねだる人もなく
彼女は一人
ホームで暑い風を受けながら
袋をはいでいく
黙々口に運ばれていく
そしてそれは確実に減っていく
彼女が振り向いた
音とともに電車がやってくる
あんぱんは鞄の中に消えた