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海と犬~Fukushima~
海と犬~Fukushima~
子どもと君を連れて海へ出かけたら
君は砂浜には喜んだけれど
海は怖がった
どんなに誘っても君は来ない
それでもいいと
あの人は笑った
いま君はいない
君は家族ではなくモノに含まれたから
海を怖がった君が砂浜に付けた
小さな足跡の思い出を話しながら
それしかないと
あの人は泣いた
いまでも君はモノだそうだ
ゆっくりと
君と移動できる時代が来るかもしれない
そこまで待てない
あの人はほほ笑んだ
君を迎えに行こう
君が怖がるからもう海は行かない
すべてかっさらわれたから
足跡はもうない
それでも海はそこにある
流れて 流れて
子供が今度は誰かと足跡をつけるだろう