迎撃戦
夜の森は、ざらついた静けさを帯びていた。
湿った土。
苔むした岩。
かつて街道だった名残の、崩れた石畳。
――誰も欲しがらなかった土地。
だが今は、違う。
「……来たな」
ガルドが、低く呟いた。
その声に、緊張はない。
だが油断もない。
レオン=アルヴェインは、足元の地面を一瞥した。
(三歩先、落とし穴。
右に寄れば、拘束罠。
中央は――)
「予定通りだ」
森の奥から、足音が響く。
人数は四。足並みが揃っている。
訓練された動き。
だが、土地を知らない歩き方。
「隠す気がないのね」
セレナが、呆れたように言った。
「隠す必要がないと思っているんでしょう」
レオンは、静かに答える。
「ここが“空白”だと」
⸻
「止まれ」
森を抜けて現れた男たちは、白を基調とした外套を纏っていた。
胸元には、王都研究局の刻印。
「この先は管理地だ」
「管理?」
先頭の男が、嘲る。
「ここは不要地だ。
正式な登録もない」
「登録しました」
「……何?」
レオンは、懐から書類を放った。
空中で開かれ、魔力印が光る。
「一週間前付け。
名義は私です」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、男は舌打ちした。
「面倒な……」
「対象を出せ」
「実験体だ」
「この土地には関係ない」
「関係ある」
男の声が、冷たくなる。
「ここに“反応源”がある」
――踏み込んだ。
その瞬間。
地面が、崩れた。
「っ!?」
一人目が、膝まで沈む。
即席の落とし穴。
だが、それだけじゃない。
「拘束、発動」
レオンのスキルが反応する。
地面に仕込まれた廃棄魔具が、同時に起動。
鎖状の魔力が、二人目の足を絡め取った。
「罠だと!?」
「罠しかない場所ですよ、ここは」
セレナが、杖を振る。
視界を覆う粉塵。
視覚遮断。
「ガルド」
「ああ」
次の瞬間。
金属音。
男の一人が、吹き飛ばされた。
斬撃は浅い。
だが、完璧に体勢を崩す。
「――撤退!」
判断は早い。
だが、遅い。
「逃がしません」
レオンは、地面に手をついた。
「回収指定:廃棄魔具」
周囲に埋められていた、壊れかけの魔導杭が反応する。
本来は失敗作。
魔力効率が悪く、使い物にならなかった代物。
だが――
「十分だ」
地面から、光が走る。
魔導杭が、簡易結界を形成。
逃走経路を塞ぐ。
「な……何だ、これは……!」
「不要だったものを、使っているだけです」
最後に残った男が、歯噛みする。
「覚えておけ……!」
「覚えません」
ガルドの拳が、鳩尾に入った。
男は、気絶した。
⸻
森に、静けさが戻る。
倒れた男たちは、拘束されたまま動かない。
「……派手にやったわね」
「そうですかね?」
「精神的に、ね」
セレナが肩をすくめる。
その時。
木々の奥で、気配が揺れた。
「……出てきていい」
レオンが、声をかける。
しばらくして、少女が姿を現した。
小柄で痩せた体。
目だけが、不自然に澄んでいる。
「……終わった?」
「はい」
少女は、倒れた男たちを見る。
「また……来る?」
「来ます」
即答だった。
少女の肩が、びくりと震える。
「でも」
レオンは、続けた。
「君を渡すつもりはない」
足元の地面。
罠だらけの、不格好な土地。
「守る手段は、いくらでもあります」
少女は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく言う。
「……私、壊れる」
「壊れません」
「前も、そう言われた」
「ここでは、意味が違います」
レオンは、はっきり言った。
「壊れたら、直す。
余ったら、使う。
それだけです」
少女は、きょとんとした。
「……それだけ?」
「それだけ」
風が、木々を揺らす。
少女は、そっと息を吐いた。
「……ノア」
「?」
「名前。ノア」
レオンは、微笑んだ。
「よろしく。ノア」
その瞬間。
スキル表示が、静かに更新される。
回収可能対象:進行中
干渉度:上昇
外部圧力:継続




