回収係の仕事は静かに増えていく
辺境領での生活は、想像以上に忙しかった。
人が少ない分、やるべきことは山ほどある。
畑の整備、倉庫の確認、村人との最低限の顔合わせ。
俺――レオン=アルヴェインは、館の簡素な机で書類に目を通していた。
「……この数字、やっぱり変ね」
向かいに座るセレナ=ヴァルディエが、指先で帳簿を叩く。
「収穫量と税額が噛み合ってない。
“取れていない”んじゃなくて、“抜かれてる”」
「王都側、ですか」
「おそらく。辺境だから、誰も確認しなかったのね」
彼女の口調は淡々としている。
怒りも、恨みも、そこにはない。
ただ“正しくないもの”を、正しているだけだ。
「直せそうですか」
「ええ。時間はかかるけど、不可能じゃない」
そう言ってから、セレナはふっと視線を上げた。
「……普通、こういうことを任せると、
“女に何が分かる”って言われるのだけど」
「ここでは、言いません」
「知ってるわ」
短い会話。
だが、この領地では、それで十分だった。
そのとき。
胸の奥が、かすかに引かれる感覚があった。
――【回収可能対象:感知】
――対象:人物
――状態:不要判定/未回収
「……またですか」
俺は小さく息を吐いた。
「何かあった?」
「ええ。少し、外に出ます」
館の外。
村は相変わらず静かで、人影もまばらだ。
だが、その外れ。
壊れかけの柵のそばに、見慣れない影があった。
男だ。
年の頃は三十前後。
剣を腰に下げているが、鞘は擦り切れている。
「……誰だ」
警戒した声。
「通りすがりです」
「この辺りに用はないはずだ」
正しい。
この領地は、誰からも見向きされない。
「あなたは?」
問い返すと、男は一瞬だけ黙った。
「……元、騎士だ」
その瞬間、スキルが静かに答えを出す。
――【対象評価】
――元王国騎士団所属
――不要判定理由:派閥抗争による排除
――能力:戦闘・訓練指導
(なるほど)
派手さはない。
だが、“要る場所では要る人材”だ。
「仕事を探しているなら、提案があります」
「……何だ」
「ここで働きませんか」
男は、目を細めた。
「冗談だろう。
こんな辺境で、何ができる」
「領地の警備と、将来的には訓練教官を」
「将来的、だと?」
「ええ。すぐに人は増えませんから」
正直に言う。
嘘をつく必要はない。
男は、しばらく俺を見つめていた。
「……名前は?」
「レオン=アルヴェインです」
「貴族か」
「追放済みの、です」
沈黙。
やがて、男は小さく笑った。
「……面白い」
その一言で、十分だった。
――【回収完了:人材】
――効果:領地防衛補正(小)
館に戻ると、セレナが待っていた。
「外、何かあった?」
「ええ。人を一人」
「……また?」
「仕事ですから」
セレナは、呆れたように肩をすくめる。
「回収係って、本当に節操がないのね」
「褒め言葉として受け取ります」
彼女は一瞬だけ笑い、
すぐに真顔に戻った。
「でも……悪くないわ」
その言葉に、俺は何も返さなかった。
この領地には、まだ何もない。
だが。
捨てられた人材が、少しずつ集まり始めている。
――次に回収されるのは、
“土地”か、“組織”か。
静かに。
確実に。
俺の仕事は、増えていく。




