悪役令嬢は働き者だった
辺境領に戻る馬車の中。
向かいに座るセレナ=ヴァルディエは、ずっと窓の外を見ていた。
話しかけるべきか迷っていると、彼女の方から口を開いた。
「……聞かないの?」
「何をですか」
「私が、どんな“悪役”だったか」
俺は少し考えてから答えた。
「気になりますが、無理に話さなくていい」
「……変」
そう言いながらも、彼女は小さく息を吐いた。
「私はね、“有能すぎた”だけ」
セレナは淡々と語る。
「会計の不正を指摘して、
婚約者の派閥の計画を潰して、
無駄な予算を切った」
「それで悪役?」
「都合が悪かったのよ。
女で、口出しして、しかも正論」
苦笑混じりの声だった。
(……やっぱり)
悪役令嬢ものでは、よくある話だ。
だが、それが現実で起きれば、彼女は排除される。
「後悔は?」
「……少しだけ」
彼女は窓から視線を外し、俺を見る。
「でも、嘘はついてない」
「それで十分です」
辺境領に着くと、セレナは周囲を見回した。
「……何もないわね」
「ええ。自慢じゃないですが」
そう言うと、彼女はくすっと笑った。
「正直で助かるわ」
⸻
まずやるべきことは、住む場所の整備だった。
使われていなかった古い館。
屋根は傷み、床は軋み、埃が積もっている。
「住めなくはない……けど」
俺が言う前に、セレナが腕をまくった。
「掃除からね」
「え?」
「人を“回収”したんでしょう?
なら、使えるようにしないと」
その手際は、見事だった。
「そこ、湿気が溜まってる。
帳簿もまとめて。捨てないで」
「……詳しいですね」
「貴族令嬢よ?」
呆れたように言いながら、
彼女は古い書類を一枚一枚確認していく。
「……これ」
セレナの指が止まった。
「この領地、税の算出がおかしい」
「え?」
「二重計上されてるわ。
だから“採算が取れない土地”って判断されたのね」
俺は、思わず息を呑んだ。
「直せますか?」
「ええ。むしろ、どうして今まで気づかなかったのか不思議」
その瞬間、俺のスキルが反応した。
――【回収完了:有能人材】
――効果:領地管理補正(小)
「……やっぱり」
俺は、静かに笑った。
「セレナ」
「なに?」
「この領地、きっと良くなります」
「……断言するのね」
「あなたがいるから」
彼女は一瞬、言葉を失った。
そして、顔を背ける。
「……そういうこと、簡単に言わないで」
「失礼でしたか」
「……いいえ」
小さな声だった。
⸻
その夜。
簡素な食卓を囲みながら、セレナがぽつりと言った。
「ねえ、レオン」
「はい」
「……私、ここにいていいの?」
その問いに、俺は即答した。
「いてください。
あなたは、ここで必要です」
セレナは、しばらく黙っていた。
やがて、微笑む。
「……じゃあ、全力で働くわよ」
「期待してます」
こうして、俺の領地は少しずつ動き始めた。
捨てられた者たちが集まり、
誰も見向きもしなかった土地が、
確かに“価値”を持ち始めていた。
――次に回収されるのは、
“人”か、それとも“土地”か。
物語は、まだ始まったばかりだ。




