表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/27

邂逅

 目の前に、魔物が現れた。


 青く透き通った体。不定形だが、丸くてプルプル震えている。


 スライムだ。


 その姿はどことなく可愛らしく、遠目に見る限り襲ってくる様子もない。


「スライムに間違いないよな……」


 少し離れた場所で、考える。


 スライムと言えば、一見弱そうに見えて、実はチート級の消化力で魔王にまで登りつめた個体もいたよな……。


 ここは人間の想像力が作り出した世界だ。


 ありえない話ではない。


 近づいたら最後、一気に囲まれて亜空間に封印とか……ないよな?


「じー……」


「ぷるん」


 スライムを見つめる。


「じー……」


「ぷるるんっ」


 何か答えているようにも見えるが、全く分からない。


 ぴとっ。


 足元に、ヒンヤリとした感覚。


「ん?」


 足元に目をやると、いつの間にか足にスライムがくっついている。


 スライムは、一匹ではなかった。


「…………!!」


 周りを見る。


 いつの間にか、大量のスライムに囲まれていた。


「うわあああっ!!」


 慌てて足を振るが、スライムは離れない。


 それどころか足を包み、体へと進んでくる。


「くそっ、食われる!」


 必死で転げ回る。


 しかし多勢に無勢。


 全くなす術なく、包み込まれてしまった。


 蜘蛛の時のように食って何とかなる状態ではない。


 しかしこのままでは消化されてしまう。


 考えている場合ではない。


 とにかく口を開いて、飲み込んでいく。


 食われる前に、全て飲み込むしかない!


 甘い味が、口の中に広がる。


 とてもフルーティで、爽やかな香りと喉越し。程よい弾力とコシがある。


 命のやり取りをしている最中なのに、俺の舌は味わうことを忘れない。


 これが強者の余裕なのだろうか。


 落下でボロボロになった俺の体が、修復されていく。


 スライムの消化力は、それほど強くないようだ。これなら俺の再生力の方が上だ。


 これなら勝てる。


 そう確信した時――


 スライムが、一斉に体から離れた。


 そしてどこかへと消えていく。


「どうなってるんだ?」


 混乱している頭の中に、突然意識が流れ込んでくる。


『綺麗にするよ。食べてお掃除、綺麗にする。すべすべピカピカ、大好き』


「……」


 体を確認する。


 傷が消えているだけでなく、ワックスでもかけたかのようにピカピカになっていた。


「共生関係の魔物もいるんだな……」


 頭にゲスい考えが浮かぶ。


「エステサロンで一儲けできそうだ」


 異世界でドラゴンが女性をすべすべピカピカにする絵面は、さすがに現実離れしている。


 俺は頭を振って、妄想を消し飛ばした。


 ◆◆◆


 それからの俺は、快進撃だった。


 目の前に、火を吹くトカゲが現れた。


 蜘蛛の糸で縛って、鎌を振り首を落とす。


 そして俺は、肉を喰う。微妙な味だったが、火を吐けるようになった。


「おおっ! これだよ、これ!」


 ゴオォォォッ!!


 口から炎が吹き出す。ドラゴンらしい、赤い炎だ。


「やっと炎が出た! これでドラゴンらしくなってきたな!」


 またしばらく歩くと、今度はサーペントが現れた。


 氷の魔法を使ってくる。しかし、火を吐くドラゴンには通用しない。


 楽勝で倒し、丸焼きにして食ったら、ジューシーで美味かった。


 そして俺は、氷の魔法も使えるようになった。


 それからも、様々な魔物が現れては捕食を繰り返す。


 コウモリを食えば、暗闘でも見えるようになった。


 岩のような亀を食えば、鱗が硬くなった。


 電気を纏うウナギを食えば、雷を操れるようになった。


 捕食を繰り返すたび、体は大きくなり、魔力も強大になっていく。


 様々な技と魔法を身につけ、無敵のドラゴンへと成長していった。


 ◆◆◆


 今では、最初に見上げていた母親と同じ大きさになっているかもしれない。


 俺は確認しようと、最初の広間へと足を運んだ。


 母親の遺体がある場所だ。


 そこに到着すると、何やら光る生き物が卵の殻の前にいた。


 後ろ姿には翼が生え、金髪の上には輪っかが浮いている。


「ん? 人の姿か?」


 俺が声を発すると、その生き物はビクッとなり、振り向いた。


 ショートカットの金髪に、空のような青い瞳。幼い顔立ちの少年だ。


 白い衣装に金色の装飾。背中から生える翼と、頭上に浮かぶ輪っかは光を放っている。


 天使の姿そのものの少年。


 その少年は――涙目になって震え出し、大声で泣き出した。


「うわああああん! 神様、申し訳ありません! 既に食べられちゃってます!」


「せっかく頂いた初めての使命なのに、いきなり失敗してしまいましたぁ!」


「どうしよう、僕はどうしたらいいんでしょう……はっ、まさか罰を!?」


「このドラゴンに食べられる罰をお与えに!?」


「うわああああん! 痛くしないでくださいいいいい!」


 そう言って、走り寄ってくる。


 まるで親鳥を見つけたヒヨコのような姿だ。


「ちょっと待て、止まれ!」


「はひっ!?」


 天使が急停止する。


「お前は誰だ。一体何があった」


 天使は一瞬固まり、俺を見上げて何やら考え始めている。


「神様? このドラゴンはいったい?」


「親ドラゴンは殺されてるし、卵は食べられてるし……」


「まさかこのドラゴンに仕えろと? なんか物凄く怖いんですけど……」


「ネクロドラゴンって表示されてるし……」


 スマホのような小さな板を見ながら、ブツブツ呟いている。


「おい、聞こえてるぞ」


「はひいっ!」


 顔が青くなる。


「さっきから言っている神とは、魂の管理者のことか?」


 天使の頬が赤くなり、笑顔で輝き出す。


「はっ、はい! そのとおりです! アストレイオス様です!」


「名前は聞いていなかった。そうか、アストレイオスというのか」


「神様のことをご存知ということは、もしかしてあなたは……」


「神谷契だ。とはいえ前世の名前だがな」


 そう言うと、また涙目になった。


 泣いたり笑ったり、忙しい奴だ。


「うううっ……良かったぁ~! 食べられてなかったんだ!」


「最強のドラゴンなのに殺されているし、卵も空っぽだし……僕はてっきり使命を失敗したものとばかり……」


「生きていてくれてありがとおおおおおっ!」


 笑顔が弾ける。


「死んでるがな」


 今度は笑顔が凍りつく。


「俺はどうやら、死んだ卵に転生したらしい。卵から出た時はゾンビみたいだった」


「ほら、これを見ろ」


 そう言って、腕の片方を鎌で切り落とす。


 ゴトッ。


 天使の目の前に、腕が落ちる。


「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」


 足元が濡れる。


 少し漏らしてしまったようだ。


 やりすぎたか。可哀想なことをした。


 腕が再生しているところを天使に見せ、呆気にとられているところをスライムの粘液で掃除してやった。


 つるつるのピカピカに輝く天使に顔を近づけ、鼻息で乾燥させる。


「おい、しっかりしろ。使命って何のことだ? 神様に何を頼まれたんだ?」


「はっ! は、はいっ!」


 天使が姿勢を正す。


「僕は神様に、使徒様への御使いを命じられた天使のラグエル=セラフィードです! ラグとお呼びください!」


「御使い?」


「えーと、要するに……監視役、案内役、といったところでしょうか」


 監視役?


 なるほど。俺が神に逆らわないように、監視を付けたわけか。信用しないと言うなら、お互い様とさせてもらおう。


 そっちが信用しないなら、従う義理もない。まあ、今のところは逆らうつもりもないが。


 今のところは、な。


「案内役か。一体どこまで知っているんだ?」


「はい! 僕にはこれがあります!」


 ラグがスマホのような板を掲げる。


「分析器アカシックリーダーです! ここに映すとステータスが見えるんです! なんでも僕に聞いてください!」


「ネクロドラゴンって、何のことだ?」


「……」


 アカシックリーダーを見て、固まっている。


「死んでるって出てます……」


「そう言ってるだろ」


「……」


「俺を殺さないようにって、言われたのか?」


「……はい」


「残念だったな」


「……」


 涙目になって俺を見上げている。


 なんだか可哀想になってきた。


「な、なあラグ。俺の母親のドラゴンなんだが、なんて出てる?」


 俺の前で、ラグは母親にアカシックリーダーを向ける。


 母親と俺は、同じくらいの大きさになっていた。


 俺もこんなふうに、美しく荘厳な姿なのだろうか。


「エターナルドラゴン。不滅の竜、と出ています」


「不滅?」


「悠久の時を生き、神に近い存在となった……しかし、ゴーレムによって倒された、とあります」


「そのゴーレムは、今どこに?」


「ええっと……」


 ラグがアカシックリーダーを操作する。


「あっ!」


 ラグの顔が、青ざめた。


「い、いました」


「どこだ!」


「う、後ろです……」


「!!」


 ◆◆◆


 振り向く。


 そこには、少女のような姿の人形が立っていた。


 全身が白磁器のように白く、滑らか。


 金の紋様が全身に施され、両腕には鋭い剣が装備されている。


 胸には赤く輝くコアが埋め込まれ、そこから全身に光が流れている。


 赤い瞳に、銀色の髪。


 額には何かの紋章が刻まれ、無表情の顔は、生きている人間のように生々しかった。


 これが、俺の母親を殺したゴーレム。


 今までとは比べ物にならないほどの強敵に違いない。


 俺に倒せるのか?


 それ以前に、無事で済むのか?


 ラグはどうなる? 天使も死ぬのか?


 様々な思考が、頭を巡る。


「ラグ、隠れろ」


「はい、使徒様! 情報でサポートします!」


 ラグが飛び上がり、距離を取る。


「気をつけてください! 強大な魔力が存在します!」


 そう言うと、ラグは岩陰へと飛び去っていった。


 俺は、ゴーレムと向き合う。

 ゴーレムの目が怪しく光り始める。


 「殲滅対象を確認、攻撃を開始します」

 感情の無い声でゴーレムが話す。

 

 母親の遺体が、すぐ近くに横たわっている。


「……母さんの仇討ちをさせてもらう」


 最強のドラゴンを殺したゴーレムと、死んだ最強のドラゴン。


 壮絶な戦いが、始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ