表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/27

帰還

 神が俺に語りかけてくる。


「そろそろ魂の形が現れる頃だ。さあ見てみるが良い」


 俺は自身の姿を確認する。


 しかしどうにも形がはっきりしない。


「まだ定まっていないようだ」


「ではまず、この姿にしよう」


 そうすると俺はドラゴンの姿になった。


 しかし何故か幼体の姿だ。


 ああそうだった。


 俺はまだ幼体だったんだ。


 魂や肉を食って、大きくなっていたんだった。


 ふと見上げると、巨大なドラゴンの姿があった。


 母さん。


 その姿はただ穏やかに俺を見つめている。


 そして俺を優しく抱きしめると、満足したような顔で異世界へと帰っていった。


「ああ、ごめんよ母さん。せっかく貰った体を無くしてしまった……」


「かの偉大なドラゴンは、再び世界の力となる。そのために帰っていったのだ」


 母さんは、最後まで世界を守ろうとしている。


 俺なんかより、ずっと立派だ。


「そろそろ良いかな。それでは別の姿を見せよう」


 すると俺の体は、生前の姿になった。


 というか、戻ってしまった。


 神谷契。


 42歳で死んだ、ただのサラリーマン。


「振り出しに戻りましたね」


「それも汝の魂の形だ」

「もう思い残すことは無いかね?」


「ええ、楽しかったですよ。本当にいい経験をした。本当に……」


 何故か涙が溢れている。


 魂なのに、もう体なんて無いのに。


「そろそろ時間だ。さらばだ、美しき魂よ」


 頭上に大きな渦が現れる。


 まるで惑星のような大きさ。


 その中心に何か大きな存在を感じる。


 その力は大きなうねりとなって、全てを飲み込んでいる。


 あれが集合意識……。


 体が吸い込まれてゆく。


 そしてその力は次第に強くなってゆく。


 ああ、思い残すことか。


 最後に聞いておこう。


「神様、母さんは俺と別れるのを悲しんでませんでしたか?」


「会えたことを喜んでおったよ」


「そうか、最後に会えたんだ、良かった……」


 これから俺の意識も記憶も、集合意識に溶けてしまう。


 もう俺は居なくなるんだ。


 この淋しい気持ちもやっと無くなる。


 でも……


「御先、悠人、最後に一目会いたかった」


「もう会っているよ」


 え?


「ふたりとも汝のそばにずっと居た」


 どういう事だ?


 そばにずっと居た?


 母さんのように?


「それは! どういうことですか!」


 俺は神に向き直る。


 神の姿が遠ざかってゆく。


 そのすぐ下、異世界から何かが来ている。


 世界の欠片をくぐり抜け、必死で翼を動かしている。


 ラグ!


 ……もしかして……


「ふたりとも、私と契約を結んだのだ」


「それは……いったいどんな契約を!」


「全ての記憶を代償にして、たった一言、こう言った」


 神の声が響く。


「『お父さんと一緒に居たい』」


 その言葉が、俺の魂を貫いた。


 御先。


 悠人。


 お前たち、そんな契約を……


 記憶を全部捨てて、俺に会うために。


「見つけた! エルドラ様ぁー!」


 ラグが掴みかかってきた。


 そして俺を必死に引っ張っている。


 異世界に向かって連れ帰そうとしている。


「僕は魂を操作出来るんです。掴むことだって出来るんです!」


「おいおい、何をやっているだラグ! お前まさか!」


「なんで人間の姿なのかは知りませんが、エルドラ様だって僕には分かるんですからね」

「観念して帰って下さい」


「俺の体は消えたんだ。もう無理なんだ」


「嫌だ、別れたくない。なぜだか分からないけど、魂が叫ぶんだ。一緒に居たいって」


 ああそうか。


 ずっと一緒だったんだ。


 そのために神様と契約して。


 なのに俺はまた別れようとしている……


 ああ、せっかく出会っていたのに。


 別れたくない。


 帰りたい。


 あの異世界にもう一度……


「帰りたい。神様、お願いします。帰らせて下さい」


「汝が望んでも帰れない。それは覆らない」


 ラグが必死で引き止めるも、引き戻すことは出来なかった。


 次第に力が弱くなり、手が離れそうになってくる。


 それでも離さない。


 歯を食いしばってしがみつき、翼を動かしている。


 このままだとラグも一緒に集合意識に飲み込まれてしまう。


 もはや突き飛ばすしかない。


 そう思った時、視界の端に二つの影が見えた。


 リリアとユリウス。


 いや、ユリウスじゃない。


 リリアが抱えているのは、ユリウスの居ないゴーレムアーマー。


 タロスだ。


 リリアは世界の断片を足場に、飛び移りながら近づいてくる。


 しかし世界の断片は容赦なく降り注ぎ、リリアにぶつかる。


 ガキィン!


 リリアが落下する。


 しかし諦めない。


 新たな足場を見つけ、また飛び移る。


 何度も落ちては登りを繰り返し、次第に距離を詰めてくる。


「うおおおおっ!」


 リリアの絶叫が聞こえる。


「ラグ! もう少しだから頑張って! 絶対に離さないで!」


 ラグの翼は限界だ。


 ほとんど羽ばたけていない。


 集合意識が迫ってくる。


 ガキィン!


「ああうっ!」


 リリアはもう少しの所で登ってこられない。


 もうどちらも見ていられない。


「ありがとう、もう十分だ。悠人」


「!」


 ラグの目が見開かれた。


「君に会えて良かった! さようなら御先!」


 そして俺はラグから離れた。


 手を伸ばすラグが離れていく。


 その瞬間――


「うあああああああっ!」


 リリアが最後の力を振り絞り、タロスを投げた。


「諦めないで! 帰ってきてぇ! あなたぁ!」


 それは無意識の言葉だったのかもしれない。


 しかし最後に分かった。


 御先だ。


「タロス! 魂をインストールせよ!」


 ラグの叫びにも似た号令が聞こえる。


 ああ、あそこに行かなければ。


 何としてもあの中へ!


 必死で手を伸ばす。


 遠くにタロスが見える。


 多段構造のリングがせり上がっている。


 俺はもう一度、あの中に!


 しかし絶望的に遠い。


 ラグが飛んでいる。


 タロスを取りに。


 ああっくそ、家族があんなに頑張っているのに。


 俺はなんて無力なんだ。


「誰でもいい、助けてくれ! 俺をあそこに連れて行ってくれ!」


「よう言うたな。ほれ、行くがよいぞ」


 背中を押される感覚。


 ああ、母さん……ありがとう。


 そこに母さんは居ない。


 しかし確かな感覚があった。


 タロスが近づく。


 俺の帰るべき場所。


 まだ諦める訳にはいかない。


「美しき魂よ、強い想いに守られておるな。契約は継続する」


 神の言葉が聞こえてくる。


 タロスの中で姿を与えられる。


 赤い結晶となって光り輝く。


 そして俺は。


 ラグとリリアを受け止めた。


 異世界へと帰る俺に、神は告げる。


「またいつか会おう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ