世界の崩壊
その時、世界の崩壊が始まった。
天変地異とは次元が違う。
大地が裂けた。
空が割れた。
空間そのものが崩壊している。
亀裂から覗くのは、虚無の闇。
存在の根本が壊れてゆく。
逃げる場所も、避難する方法も、何処にもない。
そこに存在する生命は、何が起こったかもわからない。
理解を超えた光景に、立ち尽くすしかなかった。
それはあまりにも大きすぎる呪い。
神にも匹敵する存在になってしまった竜を、殺すために降りかかった呪い。
それが神へと反射し、世界を壊しているのだ。
もはや信仰の力で止められる規模ではなかった。
信仰しようにも、祈る余裕すら与えられない。
ひたすら絶望の中、逃げ惑う。
そうして人々は感じた。
神の怒りではない。
神の――死を。
◆◆◆
なんだ……何が起こっている?
俺の頭はすっかり冷え、目の前の光景に呆然としていた。
世界も人も、全てが崩壊の中に飲まれている。
時間が壊れかかっているのがわかる。
ほとんど進まなくなっている。
俺の周りの時間だけが、かろうじて機能していた。
俺はいったい何をした?
何かをやりすぎてしまったのか?
「何もかも壊してやろうか!」
ああ、あれか。
あれで世界が壊れるって、脆すぎるんじゃないか?
……そうだった。
エターナルドラゴンって、神に匹敵する存在だった。
俺が頼んだんだ。
最強になりたいって……
失敗した。
これから皆はどうなるんだ?
俺のせいで世界が壊れたら……
冗談じゃない。
何とか出来ないのか?
おい! 神様は居ないのか?
まさか死んだりしてないよな。
おおい!
ここには神は居ない。
でもあそこならどうだ?
俺は飛び上がり、宇宙へと向かう。
しかし途中で空間の断裂に阻まれる。
空間そのものが無くなっていて、進めない。
俺は仕方なく戻ろうとした。
その時――
ピシッ!
俺の体が壊れる音がする。
時間が壊れて止まる。
そして――
声が聞こえた。
懐かしい声。
穏やかで優しい口調。
「ようやく見つけた。随分とやらかしてくれたものだ」
神だ。
アストレイオス。
「返す言葉もありません。神様は大丈夫なのですか?」
「見ての通り、大丈夫だ。それよりも異世界の崩壊が始まった」
「申し訳ありません……私がやってしまったようです」
「契約を守らなかった私のせいです」
「ふむ、契約は破棄してない。だから世界が呪われてしまった」
そうか。
契約を破ったんじゃない。
契約違反の呪いが発動したんだ。
そして俺は死なないから、呪いが反射した。
神に向かって。
「何とか元に戻すことは出来ますか? 私はどうなってもいい」
「魂が消えようが、地獄に落ちようが構わない」
「どうか助けて下さい。大切な仲間が消えてしまう」
「消えはしない。全員が集合意識へと帰るだけだ」
「それは死ぬということですよね……」
「そうなるな」
「異世界はどうなるんですか? 消えてしまうのですか?」
「消える。しかし新たな世界は生まれる」
「嫌です。消したくない。今生きている人たちを殺したくないんです」
「元に戻したいのか?」
「出来るんですか!」
「うむ」
「条件は何ですか? どんな契約でもします。お願いします」
まるで生前に戻ったみたいだ。
自分を犠牲に、どんな契約でもする。
でも構わない。
俺はそれだけの罪を犯した。
「自分を犠牲にするつもりだな」
「それで足りるのなら」
神は崩壊する世界を見る。
そして俺の体を……
「汝はここで死ぬことになる」
「死ねないのですが……」
「言い換えよう。魂が集合意識へ帰るということだ」
神の声が重く響く。
「汝の体は神にも匹敵する力を持ってしまった」
「その力が反射した呪いは、同じ力で消すことが出来る」
「世界を直すために、汝の体を使う。呪いは消え、汝の体も消滅する」
「そして魂は、集合意識へと帰るしかなくなる。もう異世界へは戻れない」
「汝が望んでも帰ることは出来ぬ。それでも良いか?」
ああ、そんな気はしていた。
そうか、ここでお別れなのか。
何故だろう、とても別れるのが辛い。
またこんな思いをするなんて。
それも集合意識へ帰れば消えるんだろうな……
「もとに戻るんですね?」
「戻せるよ」
「わかりました。契約します。やってください」
「これは契約ではない。汝の意志だ」
神が手を広げる。
俺の体から光が広がってゆく。
それは広がり続ける。
世界を包み込むように。
時間が修復され、ゆっくりと動き出す。




