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怒りの連鎖

 俺は地面に降り立った。


 周囲を見渡す。


 エルフの里は――壊滅していた。


 建物は崩れ、木々は燃え、地面はクレーターだらけだ。


 傷ついたエルフたちが、必死で救出や治療をしている。


 まるで地獄のような光景だった。


 俺が来たから、こんなことに……


「うっ……」


 ユリウスが目を開けた。


 魂が戻ったのだ。


「ユリウス!」


 リリアが駆け寄る。


「お兄ちゃん! 良かった……!」


「リリア……俺は……」


「もう何も言わないで」


 リリアがユリウスを抱きしめる。


「生きててくれて、ありがとう……」


 俺はその光景を見つめながら、空を見上げた。


 砕けたコアの光が、ゆっくりと降り注いでいる。


 母さん……ごめん……


 その時――


 光が動いた。


 散らばっていた光の粒子が、集まり始める。


「エルドラ様、見てください!」


 ラグが指差す。


 光が里全体を包み込んでゆく。


 そして――


「傷が……治ってゆく……」


 エルフたちの傷が、癒えてゆく。


 壊れた建物から這い出てきた者も。

 瓦礫の下敷きになっていた者も。


 みな、傷が消えてゆく。


「これは……」


「コアの力です」


 ラグがアカシックリーダーを操作している。


「コアから開放された力が、皆を癒しています」


 母さん……


 最後まで、エルフを守ろうとしているのか。


 ラグが何かを組み上げている。


「ああ……これは……」


 ラグの目が大きく見開かれた。


「ここは空白じゃなかった」

「魔法を書き込まなかったんじゃない」

「書き込めなかったんです…… ここに何かあります」

 俺も画面を覗き込むが、複雑で理解は出来なかった。


 その時、族長の声が聞こえてきた。

 燃える建物を背後にし、鬼のような形相で俺を睨みつける。

「お前が、お前が人間側に付いたから、こんな事になってしまった」

「お前さえ居なければ、こんな事にはならなかった」

「人間は我らを襲う。エターナルドラゴンはもはや敵側なのだ!」


「いいや違う!」

 背後から大きな声が響いた。


 族長が目を向ける。


 そこに立っていたのは――


 白銀の髪。

 鋭い顔立ち。

 威厳に満ちた姿。


 若き純血エルフ。


「あっ……あなたは……」


 族長の声が震えた。


「その姿……あの頃の……」


「どういうことだ?」


 俺は困惑した。


「あれは誰だ? 何故族長が動揺している?」


 リリアも首を傾げている。


「あれ?おかしいな……何故あのひとの名が……」


 ラグも戸惑っている。


 その時、ユリウスがゆっくりと立ち上がった。


「あれは長老イルヴァールだ」


「なんだって……?」


 俺は目を疑った。


「だってあの長老は、車椅子に乗った老人だったはずだ。あの若者が同一人物だって言うのか?」


「ああ」


 ユリウスが頷く。


 ◆◆◆


 時は少し遡る。


 エルドラたちが人型エルフの村から立ち去った後――


 ユリウスは長老の前に立っていた。


「頼む……殺してくれ……」


 長老が懇願する。


「これ以上、生き恥を晒したくない……」


 ユリウスは無言で長老を見下ろしていた。


 その目には、冷たい光が宿っている。


「お前は知っていた」


「……」


「エターナルドラゴンに守られていたこと」

「生命の結晶で助けられたこと」

「そして裏切った側だと言うことを」


 長老は目を逸らした。


「……すまなかった」


「謝罪なんか聞きたくない」


 ユリウスが一歩近づく。


「知らないほうがいいことだと?」


「……」


「俺は真実を知らないせいで、妹を生贄にしてしまった」

「騙されていたせいで、妹を救ってくれた恩人を殺そうとした」

「知らなかったで済む問題じゃないんだよ」

「隠すことは騙すことなんだよ!」


 ユリウスの声が低くなる。


「歴史の隠蔽? ふざけるな」


 ユリウスは懐から小瓶を取り出した。


 琥珀色の液体。


 アルヴィンが作った、再生の秘薬だ。


「これが何かわかるか」


「それは……まさか……」


「アルヴィンが命を懸けて作った薬だ」


 ユリウスが小瓶の蓋を開ける。


「お前はこれを飲め」


 ユリウスが長老の顎を掴んだ。


「何を……」


 強引に長老の口を開き、薬を流し込んだ。


「ぐっ……!」


 長老が薬を飲み下す。


 次の瞬間――


「ぐがあああああああっ!!」


 絶叫が響いた。


 ユリウスは苦しむ長老の肩を掴み、訴えかける。


「歴史を暴け」

「真実を伝えろ」

「それはお前にしかできない」


 長老の体が痙攣する。


 骨が軋む音。

 肉が再生する音。

 細胞が生まれ変わる音。


「あああああああっ!!」


 想像を絶する苦痛。


 それでもユリウスは見つめ続けた。


「これがアルヴィンの遺産だ」


 冷たく言い放つ。


「無駄にするなよ」


 やがて――


 悲鳴が止んだ。


 車椅子の上には、かつての長老の姿があった。


「おお……」


 長老が自分の手を見つめる。


「この体は……」


「行け」


 ユリウスが背を向けた。


「お前の責任を果たせ」


 ◆◆◆


 そうか、あの悲鳴は、死ではなく若返りの苦痛だったのか。


 若返った長老イルヴァールが、一歩前に出る。

「ワシは皆に真実を伝えに来た。里の掟は間違っておるとな」

「隠し事は、エルフ達の不幸の種になったではないか」

「彼らは争いに来たわけではなかったのに、こうなってしまった」


 イルヴァールが振り返る。

 その背後から――


 人の気配。


 軍勢だ。


「ヴァルディス王……! 長老と一緒に到着したのか」


 レグナート王国の国王が、軍を率いて現れた。


 族長の顔が蒼白になる。


「もう終わりだ……我々は滅ぼされてしまう……」


 かつての記憶が蘇る。

 人間に討伐された日々。

 逃げ惑い、飢え、血を流した日々。


 そして今、目の前に立つ国王の姿が――

 かつての冒険者たちの姿と重なる。


「もはや抵抗しても無駄ということか……」

 エルフの族長は、膝を付いてうなだれた。


「それにのう、安心せいエルフ達よ。人間はもう我々を討伐はしないよ」

 イルヴァールは穏やかに話す。


 ◆◆◆


「よし、できました。記録を解放します」


 ラグがアカシックリーダーを操作する。


 すると俺の体からも一粒の光が溢れ、コアの光に吸い込まれてゆく。


 そして――


 赤い光が、里全体を包み込んだ。


 エルフたちの心に、優しい声が流れ込んでゆく。


 それは、純血種のエルフがかつて耳にした声。とても懐かしい……


 ◆◆◆


 ……

 おお、皆回復してくれた。

 良かったのう。

 また笑っておくれ。

 ……

 ……

 随分と人数も増えてきた。

 賑やかで良い。

 皆の笑顔が嬉しいぞ。

 ……

 ……

 我が友よ、何を悲しんでおるのだ。

 心配するな、我はいつでもお前たちを守るぞ。

 ……

 ……

 ああ、竜たちが……。

 なんということじゃ……。

 あのゴーレムを止めなければ。

 ……

 ……

 我が友よ……。

 楽しかったぞ……。

 今まで、ありがとう。

 達者で暮らすのだぞ。

 ……

 ……ああ……。

 エルフ達、皆元気で暮らしておるだろうか。

 あの頃に……。

 戻りたいのう。

 ……


 ◆◆◆


 静寂が広がっていた。


 エルフたちは、涙を流していた。


 純血エルフも。

 人型エルフも。

 ダークエルフでさえも。


 母の想いが、直接心に届いたのだ。


 国王が、長老の前に膝をついた。


「すまなかった!」


 頭を下げる。


「長い争いを終わらせに来た」

「エルフが里を守っていたように、我らも竜を使って国を守っていた」

「だがお互いが友好を結べば、今まで以上に発展できるはずだ」


 国王が顔を上げ、族長を見た。


「族長よ! どうか決断してくれ!」


 長老イルヴァールも族長に向き直る。


「族長よ、もう水に流すのだ」

「秘密は暴かれた」

「これ以上の争いは無益だ」


 族長が震えていた。


「無益だと……」


 その声は、喜びでもなく、悲しみでもなかった。


 純粋な――怒り。


「お前らに何がわかる!」


 族長が叫んだ。


「過去の長い歴史で、どれだけの仲間が死んだと思っている!」

「積年の恨みを、そう簡単に消せると思うな!」


 族長の目が、俺を射抜いた。


「お前らのような短い人生で、何がわかる!」


 その言葉が――


 母の心を踏みにじる言葉に聞こえた。


 母は、エルフを愛していた。

 命を懸けて守ろうとした。


 なのに――


 何をやっても裏目に出る。


 かつての自分の人生のように。


 契約に縛られ、搾取され、家族を奪われ、全てを失った。


 あの時と同じだ。


 何も変わらない。


「もういい」


 俺の声が、低く響いた。


「もう、終わらせてやる」


「エルドラ様……?」


 ラグの声が遠い。


「何が神だ」


 怒りが込み上げる。


「悲劇ばかり生み出すこんな世界を作りやがって」


「だめです! エルドラ様!」


 ラグが慌てて飛んでくる。


「それ以上は――」


「何もかも壊してやろうか!」


 俺の体から、漆黒の魔力が溢れ出した。


 空が歪む。

 大地が震える。


 そして――


 世界の崩壊が、始まった。


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