タイタン戦
白銀の巨人が、俺を見下ろしている。
タイタン型ゴーレム。
俺よりも遥かに巨大だ。
見上げるほどの体躯。
禍々しい魔力が渦巻いている。
そして胸に輝くコア。
あれは――母さんが命で作った結晶だ。
「返してもらうぞ……!」
俺は翼を広げた。
その瞬間――
タイタンの頭部が光った。
キュイィィィィン……!
高い音が響く。
魔力が収束してゆく。
「エルドラ様、あれは――!」
ラグが叫ぶ。
「高圧の魔力光線です! チャージが完了したら撃ってきます!」
スピードじゃない。
火力だ。
バスターメイデンとは設計思想が違う。
攻城兵器。
純粋な破壊のための兵器。
ドォォォォン!!
光線が放たれた。
俺は横に跳ぶ。
光線が地面を抉る。
ズガァァァァン!!
爆発。
土煙が舞い上がる。
地面に巨大なクレーターができていた。
「やばい……!」
至近距離で喰らえば、俺でも致命傷だ。
回復するための肉が足りなくなる。
キュイィィィィン……!
また光り始めた。
だがチャージには時間が必要なようだ。
「みんな逃げろ!」
俺は叫んだ。
ユリウスがラグを抱えて建物の影に飛び込む。
リリアは高速移動で距離を取る。
ドォォォォン!!
二発目。
俺は念動力で鱗の盾を形成し、軌道をはじく。
しかし――
流れ弾が周囲に飛び散った。
「うわああああっ!」
ダークエルフの悲鳴。
巻き込まれている。
自分たちの兵器に。
建物が崩れる。
木々が燃える。
逃げ惑うエルフたち。
それでも――
「怯むな! 攻撃を続けろ!」
族長は止めない。
何がそこまで駆り立てる?
いったい心の中に何がある?
キュイィィィィン……!
三発目のチャージ。
俺は空へ飛び上がる。
「こっちだ!」
タイタンの頭がこちらを向く。
ドォォォォン!!
光線が俺を追う。
翼を捻って地表へと回避した。
だが――
ズシィィィン!
巨大な足が迫る。
「くっ……!」
避けきれない。
ドゴォッ!!
蹴られるように衝突する。
地面に叩きつけられる。
そしてそのままタイタンの足が俺を踏み、押さえつける。
動けない。
キュイィィィィン……!
頭部が光る。
至近距離。
これは――まずい。
「エルドラ様!」
リリアが飛び出した。
ガァンッ!!
タイタンの頭を蹴り上げる。
光線の軌道がずれた。
俺の真横を通過してゆく。
「リリア!」
「大丈夫です!」
リリアが激しい攻撃を繰り返す。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
拳が、蹴りが、タイタンの装甲を叩く。
しかし――
硬い。
バスターメイデンの攻撃でも、傷一つつかない。
リリア一人では倒せない。
俺はタイタンの足の下でもがく。
少しずつ、隙間を作る。
その時――
ガキィッ!
嫌な音がした。
「あっ……!」
リリアの足が――壊れた。
度重なる攻撃の負荷に耐えきれなかったのだ。
動きが鈍る。
「リリア、逃げろ!」
しかし遅かった。
タイタンの巨大な手が伸びる。
ガシッ!
リリアの体を掴んだ。
「きゃあっ!」
「リリア!!」
タイタンの頭部が光り始める。
まさか――
腕ごとリリアを消し飛ばすつもりか!
「やめろぉぉぉっ!!」
俺は必死でもがく。
しかし足の重さはびくともしない。
キュイィィィィン……!
チャージが進む。
リリアの足は修復を始めている。
しかし腕の力は強く、必死にもがくが脱出できない。
ユリウスが装着しているタロスもコアを失い起動できない。
もはや止める手段は一つしか無い、しかし。
駄目だ。
間に合わない。
その時――
ドガァッ!!
タイタンの腕に衝撃が走った。
何かがぶつかった。
腕が揺れる。
リリアが解放される。
「えっ……?」
俺は目を疑った。
タイタンの腕を蹴ったのは――
タロスだった。
「ユリウス……?」
ユリウスは、ラグと一緒に建物の影に居る。
じゃあ、誰が――
「エルドラ様」
ラグが飛んできた。
その顔は蒼白だった。
「ユリウスさんが……魂をタロスにインストールしたんです」
「何だと……!?」
ゴーレムの能力。
魂のインストール。
しかしそれは――
「いったい何の魂を……まさか、あいつ……」
「はい」
ラグが頷く。
「ユリウスさん自身の魂です」
俺の思考が止まった。
「彼の肉体は今……死んでいます」
タロスが戦う。
ユリウスの魂で起動したタロスが。
「早く決着をつけないと……」
ラグの声が震える。
「魂が戻れなくなってしまいます」
「駄目だユリウス!」
俺は叫んだ。
「戻れなくなるぞ! 死んでしまうぞ!」
『構わない』
タロスから声が響く。
念話だ。
『俺のせいでアルヴィンは死んだ』
『俺がコアを貸さなければ、あいつは……』
「違う! お前のせいじゃない!」
『分かっている!』
タロスがタイタンに向かってゆく。
『分かってるさ、でも俺は決めたんだ。この命を使って、決着をつける』
「馬鹿野郎……!」
俺はようやくタイタンの足から抜け出した。
しかし体はボロボロだ。
回復には時間がかかる。
タロスとタイタンが激突する。
ガキィン! ガキィン!
金属と金属がぶつかる音。
しかしタイタンに大きな打撃を与えるには、タロスは小さすぎる。
それでもユリウスの魂が、タロスを限界以上に動かしている。
「お兄ちゃん!」
リリアが叫んだ。
「やめて! 死んじゃ嫌だ!」
『リリア……』
「嫌だ!」
リリアがタロスを引き離す。
「お兄ちゃんの顔が見られなくなるなんて嫌!」
『……』
「私、知ってるんだよ、本当は私が死んだこと後悔してるって」
リリアの声が震える。
「時々、悲しそうにしてること」
「私を家に帰らせる時だって、辛そうだったじゃない」
『リリア、お前は……』
「でも私は嬉しかった」
リリアの目から涙が溢れる。
「もとの体は無くなっちゃったけど、この体になって良かった」
「もうお父さんやお母さんに迷惑をかけないで済む」
「お兄ちゃんを自由にしてあげられる」
『俺は……』
「お兄ちゃんの体は生きられる。それなのに……」
リリアの声が、叫びに変わった。
「お兄ちゃんのバカーーーッ!!」
その瞬間――
リリアの胸のコアが、激しく光り始めた。
「これは……!」
ラグが目を見開く。
「魔力光線です! でも……タイタン相手には威力が足りません……!」
リリアが両手を広げ、胸を突き出す。
「死んじゃ嫌だぁぁぁっ!!」
光が爆発した。
ドォォォォォォン!!
天へと伸びる光の柱。
タイタンを直撃する。
「なっ……!?」
俺は目を疑った。
威力が違う。
ダンジョンで俺が受けたのとは、まるで別物だ。
「どうして、こんな威力が……」
そして気づいた。
リリアの姿が――変わっている。
いや、違う。
タロスがリリアに重なり、包み込むように装着されている。
「リリアとタロスが……」
ラグが呟く。
「二つの力が、合わさったんです……!」
兄と妹。
二人の想いが、一つになった。
タイタンの頭が吹き飛び、武装も溶け落ちている。
光が収まる。
リリアからタロスが分離し、地面に落ちた。
「ああ、うっ……」
リリアが膝をつく。
タイタンはまだ立っている。
胸のコアが輝き、タイタンの修復が始まる。
解けた金属が集まり、破壊された頭を形作ろうとしている。
「ラグ! ユリウスの魂を!」
「はい!」
ラグが魂の操作を開始する。
タロスから光が立ち昇り、ユリウスの肉体へと向かってゆく。
俺は空へ飛び上がった。
もはや――あの技を使うしかない。
母さんの命に向けて使うことになるなんて……
俺は全身の魔力を集中させた。
「神の裁き……!」
滅びの光が集まってくる。
タイタンの頭部が光り始める。
最後の抵抗だ。
しかし遅い。
「喰らえ!!」
ドォォォォォォォォォン!!!
光がタイタンを貫いた。
装甲が砕け散る。
フレームが溶ける。
コアが――
パキィィィン!
「あっ……!」
コアが砕け散った。
無数の光の粒子となって、空へと舞い上がる。
「そんな……コアが……」
ラグが呆然と見上げている。
タイタンの残骸が崩れ落ちる。
ズゥゥゥン……
静寂が訪れた。




