正面突破
エルフの里で何があったのか――全て判明した。
イルヴァールは包み隠さず話してくれた。
自身が恥ずべきと考えている事も。
嘘をついているようには思えなかった。
「すまないな、辛いことを思い出させてしまった」
俺は長老に向き直る。
「だが知れてよかったよ。これからするべきこと」
「それが分かった」
俺は立ち上がる。
「俺は今からエルフの里に向かう」
「そっ、そんな……!」
長老が車椅子から身を乗り出す。
「コアを取り戻すつもりだ。何としてもね……」
「まさか……里を滅ぼすのか?」
長老の声が震える。
「場合によってはな……」
俺は振り返らない。
「ならばせめて、ひと思いに! 楽にしてくれぇ!」
「頼むから殺してくれ!」
俺は何も言わず、その場を後にした。
◆◆◆
俺は本気で滅ぼすつもりなのか?
歩きながら考える。
エルフ達は悪意に満ちているわけじゃない。
ただエルフの里を守りたかっただけだ。
ゴーレムのコアも、本来は母さんがエルフに送ったものだ。
しかしその力を使って母さんを殺した。
コアを取り戻すためにアルヴィンは犠牲になった。
その落とし前だけは――つけさせてもらう。
◆◆◆
「エルドラ様、少し気になる事があるのですが……」
ラグが話しかけてきた。
「ゴーレムのコアには複雑な魔法が隙間無く書き込まれているのですが」
アカシックリーダーを見せながら説明してくる。
先程見た魔法陣が浮かび上がっている。
「本来有るべき場所に空白の領域があるんです」
ラグが真剣な顔で魔法陣を見ている。
「もしもコアを取り返せたら、この部分を確認させて下さい」
「わかった……その時はよろしく頼む」
俺は短く答えた。
◆◆◆
リリアを見ると目の下を赤くしている。
無駄に高機能なゴーレムだと感心する。
それでも複雑な想いがよぎる。
このゴーレムは、母を殺した最終兵器なのだ。
リリアは、しゅんとしている。
「エルドラ様、ほら、何か言ってあげて下さい」
ラグに言われてしまった。
意外としっかりしていて驚く。
見た目は生前の息子くらいなのに、俺は頼り切っているのかも知れない。
「あっ、ああ、そうだな、ありがとう……」
何を言えばいいんだ?
「んっ、んんっ、あー、そのー、リリア……何だそのぉー……」
言葉が出てこない。
「そっ、そうだ、その服可愛いな、良く似合ってるよ」
ゴンッ!
天使に殴られてしまった。
するとリリアは背中に飛び乗ってきた。
そして羽毛に顔を埋めた。
「ううっ……」
そこにラグが寄り添い、背中に手を添えた。
「その体は贈り物なんですよ、エルドラ様からの」
ラグが優しく言う。
「その体があったからこそ、ユリウスさんも立ち直れたんです」
「その力は皆を守るために使うんです。胸を張って下さい」
ラグの翼がリリアを包み込む。
「うん……わかった」
そしてリリアは笑って見せてくれた。
まいった。
俺、父親やってたのに……。
負けた。最強なのに、完敗したよ。
◆◆◆
ユリウスも兄として――
そう思って周りを見たが、ユリウスが居ない。
その時、後方から老人の悲鳴が聞こえてきた。
「ぐがあああああっ!」
断末魔のような悲鳴が続く。
「あいつ……」
エルフの老人の最後は、結局人の手によって下されてしまった。
俺はそのまま歩き続けた。
みんなどうして死にたがるんだよ……
俺はやるせない気持ちになった。
そう言えば、かつて俺も死にたがっていた一人だった……
◆◆◆
俺は空を飛んだ。
エルフの里へ。
アルヴィンから奪ったコアを取り戻すために。
俺の背にはリリアとラグ、そしてユリウスが乗っている。
座席カプセルは置いてきた。
いつでも臨戦態勢に移るためだ。
ユリウスは何も言わずに前を見据えている。
俺も何があったかを確認しなかった。
ただ――俺たちは同じ方向を向いていた。
◆◆◆
森が広がる。
深く、深く。
やがて見えてきた。
巨大な樹々に囲まれた都市。
エルフの里だ。
「見つけたぞ!」
木の枝の上から声が聞こえた。
ダークエルフの偵察兵だ。
戦闘用に作られた種族。
「エターナルドラゴンだ!」
「攻撃を開始しろ!」
矢が放たれる。
魔力を帯びた矢だ。
しかし――
遅い。
俺は念動力で矢を止める。
ピタリと空中で静止した。
「なっ……!」
そのまま跳ね返す。
矢は木の枝に突き刺さった。
「退け!」
俺は低く言った。
「お前らに用はない。コアを返してもらうだけだ」
「返すだと! あれは我らの物だ!」
「黙れ」
俺は尻尾を一振りした。
ドゴォッ!
空気が爆ぜる。
衝撃波が枝を襲う。
「うわああああっ!」
ダークエルフが悲鳴を上げて木から落下する。
しかし地面に激突する直前――
蜘蛛の糸が絡みつき、宙吊りにされた。
殺してはいない。
動けなくしただけだ。
しかし――
「侵入者だ!」
「エターナルドラゴンが来たぞ!」
警鐘が鳴り響く。
里中が騒ぎ始めた。
◆◆◆
俺は里の中央広場に降り立った。
ズシン!
地面が揺れる。
周囲の建物や木々の上から、次々とダークエルフが現れた。
弓を構える者。
剣を抜く者。
魔法を準備する者。
数は――数え切れない。
「怯むな! 里の掟に従え!」
「エターナルドラゴンは滅ぼすべき脅威だ!」
一斉に攻撃が始まる。
しかし俺は動じない。
念動力で矢を弾く。
尻尾の一振りで剣を持つ者を吹き飛ばす。
魔法は――
「させない!」
リリアが俺の背から飛び降りた。
そして――
高速移動。
ゴーレムの脚力が爆発する。
一瞬で敵の懐に潜り込む。
ガンッ!
拳が一人のダークエルフの腹に突き刺さる。
「ぐはっ!」
そのまま地面に叩きつける。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
リリアの拳が次々と敵を沈める。
誰も彼女の動きについていけない。
「化け物め!」
「バスターメイデンだと!?」
恐怖が広がる。
ユリウスは動かない。
いや、動けないのだ。
ユリウスのゴーレムスーツ、タロスにはコアが無い。
アルヴィンに貸したまま奪われてしまった。
動力無しでは唯の鎧。
ユリウス自身は錬金術師。
とても戦力にはならなかった。
俺はその事をうっかり失念してしまっていた。
このままではユリウスが危ない。
このまま殲滅するしかないのか?
その時――
「そこまでだ!」
大きな声が響いた。
◆◆◆
広場に静寂が訪れる。
ダークエルフ達が動きを止める。
一斉に視線が声の主へ向く。
そこに立っていたのは――
純白の肌。
長い銀髪。
鋭い紫色の瞳。
豪華な装飾の施された衣装。
長い耳には宝石が輝いている。
純血エルフ。
「族長……!」
ダークエルフ達が膝をつく。
族長と呼ばれる男は、俺を見た。
鋭い目だ。
「エターナルドラゴンよ」
低い声で言う。
「何故ここへ来た」
「コアを返してもらいに来た」
俺は短く答える。
「アルヴィンから奪ったコア。あれは母さんが残した物だ」
「返せ」
族長は眉をひそめる。
「母、だと?」
ざわめきが広がる。
「まさか……」
「エターナルドラゴンの子供……?」
しかし族長は表情を変えない。
「……」
「コアを返せ」
俺は繰り返す。
「断る」
即答だった。
「何故だ」
「我らの物だからだ。返す必要など無い」
族長は腕を組んだ。
「それ以上の理由は要らぬ」
「お前は知っているはずだ!」
俺の声が低くなる。
「あれは母さんがエルフを助けるために作ったものだ」
「それを武器にして、母さんを殺した」
「おまけにアルヴィンまで殺した」
「……」
族長は何も答えない。
しかしその目は――動じていない。
秘密を守ると決めているのだ。
何を言っても無駄だ。
俺は怒りが込み上げてくる。
「俺はお前らを滅ぼしに来たわけじゃない」
「ただコアを返してもらいたいだけだ」
「もうここには無い」
族長は首を横に振る。
「何を言っている……」
嫌な予感がする。
「我々ではお前を倒すことは出来ない」
族長は周囲を見渡す。
「これだけの戦力相手でも、お前は圧倒的に強い」
「為す術もなく敗れるだろう」
「だったら――」
「しかし」
族長が手を挙げる。
「これならどうだ」
パチン!
指を鳴らす音。
その瞬間――
地面が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……
広場の奥から、何かが現れる。
巨大な影。
金属の足音。
禍々しい魔力。
そして――
現れた。
白銀の装甲。
巨大な体躯。
輝くコア。
見上げるほどの巨大なゴーレムだ。
「タイタン型……」
ラグが呟く。
「アルヴィンから奪ったコアを使っています……!」
ゴーレムが、ゆっくりと俺を見下ろしている。
その瞳には――
純粋な殺意しかなかった。




