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エルフの里へ

「なあ、ラグ、ほんとにダークエルフってこんな感じなのか?」


「はい、それにダークエルフは極めて知能の高い魔物ですよ」

「個体によっては人間よりも上です」


「魔物? エルフって魔物だったのか?」


「えーっと、全てではありません。人間との合成種も居ます」


「合成種? 品種改良みたいな言い方だな……」


「エルフは大まかに分けて、純血エルフ、ダークエルフ、人型エルフが居ます」

 ラグはアカシックリーダーの画面を見ながら解説をはじめた。


「人型エルフ以外は魔物です」


「うわぁー……それ駄目なヤツじゃないのか?」

 人型以外というのが気にいらない。俺も人とは程遠いからな。


「元々は人を襲う純血エルフしか居ませんでしたが、森の奥に定住してからは合成技術が確立しています」

「戦闘特化の種族として作られたのがダークエルフですね」

「逆に人と交流して情報を集めているのが人型エルフです」

「物凄く美しい見た目ですよ」


「あっそれそれ、それが俺の知っているエルフだよ」

「それに、情報を集めてるってどういう事だ? スパイでもしているのか?」


「そういう個体も居るかも知れませんが、ほとんどは商業としての交流ですね」

「エルフ製品は人気があるんですよ。ミスリル製の包丁とか」


 何だか尻尾がムズムズしてきた。笑顔の調理師の顔が浮かぶ……


「ちゃんと平和に交流してるのに、俺が居るから襲撃を仕掛けたのか」

「何だか王国に申し訳ないな……」


 所でどうする? このダークエルフ……


 そう言って捕虜になったダークエルフを見る。


 4人のダークエルフが竜舎の牢屋に入れられている。

 リリアとユリウスの活躍で多くのダークエルフは撃退したが、魔法職はそれほど強くなかったため捕まってしまったのだ。

 二人は得意顔で捕虜の看守をしている。


「魔物なのかぁ……」


 魔法職は女性で構成されていた。

 褐色の肌に美しい金色の髪、耳は長く尖っていて毛に覆われている。

 瞳は猫のように大きく、手足もスラリと長い。そしてモフモフの毛並みである。

 俺の想像しているダークエルフとは違い、むしろ獣人のほうが近かった。

 牢の隅で身を寄せ合っている姿は、怯えた小動物のようだ。


「こんなに可愛いのに、もったいない……あっ!」

 心の声が漏れていた。


 リリアが変な目で俺を見ている。止めてくれ、薄い本を見つけた時の妻の顔を思い出してしまう。


 いたたまれなくなって、国王に相談することにした。


 ◆◆◆


 俺は城には入れないサイズなので、コロシアムで国王と話をする事となった。


「王よ、今回の襲撃の件で、なにか知っていることを教えて欲しい」

「奴らは我を滅ぼすために来た。場合によってはここを出てゆく事も辞さぬ」

 使徒という立場上、王の前では変に格好を付けてしまう。


「神の使徒エルドラよ、余の前で堅苦しくしないでいただきたい」

「どうか仲間として迎え入れて欲しいのだが……」

 コロシアムの玉座は結構高い位置に有る。そこから王は見下ろしている。

 言っていることは何と言うか……見透かされていた。

 一国の主というのは伊達じゃないようだ。

 俺はちょっと顔が赤くなってしまった。


「じゃあ、まあ……それでは、ダークエルフの件だが」


「本日中に処刑を執行するつもりだ。我が兵にも被害が出た。許すわけには行かぬ」

 王は躊躇無く答える。


 予想はしていた。だが、殺すために捕まえたのではない。情報が欲しかったのだ。

 俺が襲われた理由。しかし答えは、エルフの里での掟と来た。

 何故そんな掟が有るのかも知らない様子だった。生まれた頃からそうだった。

 それがダークエルフの知る情報だった。


 確かにもうダークエルフに用は無い。しかし……。


 つぶらな瞳、モフモフの肢体、怯えた表情……どストライクだった。

 正直な所、処刑だけは勘弁してほしかったのだ。


「俺はリリアを食わなかった。その意味が分かるか?」

 俺は王の近くまで顔を寄せ、さとすように問いかけた。


「ふう、全く寛大な御方だ……それは神の御意志と言うことか?」

 王は背を丸め、額に手を当てて悩みだした。


「それでは国民が納得しない。王国の権威が保てなくなる……」

 本音が漏れていた。


「捕虜に関しては俺が宣言しよう。神意に逆らえば……」


「わわ、わかった! 捕虜は解放する。どうかあれだけは勘弁してくれ」

 そこまでは言ってないが、勝手に解釈してくれて都合が良かった。

 それに、あの天変地異は俺の力ではない。

 虎の威を借るどころか、神の威を借りてしまった。

 俺って、めちゃくちゃ罪深いんだろうな……。


「エルフの里はどこに有る? これは俺の問題だ。俺が行って交渉してくる」


「いえ、余もお供します。一国の王として、けじめを付けねばならぬ」

「皆の者! これよりエルフの里へと進軍を開始する! 軍を組織せよ! 余に続け!」

「おおーーーっ!」

 兵士達が一斉に声を上げる。


「お願いだからやめて。戦争しに行くんじゃ無いから」


 勇猛果敢な兵士達は、振り上げた拳をどうしたらいいか困惑していた。


 結局王は軍を率いて付いてくることになり、俺は先に出発することにした。

 王がエルフの里に到着するまでには時間がかかる。それまでに事態を解決するしか無い。


 ◆◆◆


 出発の準備をしていると、ユリウスが何やら大きな物を運んできた。


「これは?」


「飛行用の座席だ。俺とリリアが乗るためのな」

 ユリウスが得意げに説明する。


 流線型のカプセルだ。

 透明な素材でできており、中には三人分の座席が並んでいる。

 カプセルの外側には、しっかりとした革のベルトが取り付けられていた。


「これをエルドラ様の首から吊り下げる。視界も確保できるし、風も防げる」


「お前、いつの間にこんな物を…… しかも付いて来るのかよ」


「ロケットブースターの余った部品でついでにな」

 ユリウスは肩をすくめた。


 錬金術師の腕前は伊達じゃない。

 あの短期間で、こんな精密な物を作り上げるとは。


「付いてくるなと言っても……」


「置いていくって言わないよな」

 ラグやリリアも同様に頷いている。


 ユリウスの目は真剣だった。

 この男、口では色々言うが、結局は仲間思いなのだ。


 ◆◆◆


 王都の門の前、解放されたダークエルフ達が集まっていた。


 4人の女性は、まだ怯えた表情をしている。

 無理もない。つい先程まで処刑される運命だったのだから。


「お前達は解放する。森に帰れ」


 俺がそう告げると、ダークエルフ達は目を丸くした。


「な、何故……?」


「俺はお前達を殺すために捕まえたわけじゃない」

「それに、お前達も命令に従っていただけだろう」


 ダークエルフ達は顔を見合わせた。

 やがて、一人が恐る恐る口を開いた。


「……感謝する。だが、里に帰れば報告することになる」

「貴方が来ることも、伝わってしまう」


「構わない。どうせ俺は交渉に行くつもりだ」


「交渉……?」

 ダークエルフは信じられないという顔をした。


「お前たちは何か勘違いをしている」

「話し合いで解決できるなら、それに越したことはないだろう」


 俺の言葉に、ダークエルフ達は暫く沈黙していた。

 やがて、深々と頭を下げる。


「……御武運を」


 そう言い残して、4人は森の方へと駆けていった。

 美しい金髪が、モフモフの尻尾のように揺れている。


 可愛い。


「エルドラ様、鼻の下伸びてますよ」

 ラグの冷静な突っ込みが飛んできた。


「う、うるさい」


 ◆◆◆


 俺は翼を広げ、空へと舞い上がった。


 首元には、ユリウスが作った流線型のカプセルがポーチのように吊り下がっている。

 透明な素材越しに、中の三人の姿が見えた。

 ラグ、リリア、ユリウス。俺の大切な仲間達だ。


 風を切る音が響く中、カプセルの中からラグの声が聞こえてきた。


『皆様、本日はエルドラ航空をご利用いただき、誠にありがとうございます』


 何をやっているんだ、こいつは。


『当機はまもなく離陸いたします。目的地はエルフの里、到着予定時刻は未定でございます』

『シートベルトをお締めになり、窓の外の景色をお楽しみください』


 念話でラグに突っ込む。

『お前、それどこで覚えた?』


『客室乗務員にも憧れているんです!』

 ラグが得意げに答える。


『……好きにしろ』


 デカい生き物は何でも乗り物にする。それがファンタジってもんだな……

 俺は翼に力を込め、一気に加速した。


 ゴオオオオッ!


 風が唸る。雲を突き抜け、大地が遠ざかる。

 眼下に広がるのは、緑の絨毯のような森林地帯だ。


『機内サービスのお時間です。本日のメニューは、ユリウス特製の携帯食でございます』


『いらん』

 ユリウスが即答する。

『いらない』

 リリアも首を振った。


『えー、せっかく用意したのにー』


 カプセルの中が賑やかだ。

 こいつら、緊張感が無さすぎないか?


 まあ、いい。

 この賑やかさが、今の俺には心地よかった。


 ◆◆◆


 しばらく飛び続けると、森の様子が変わってきた。


 木々が巨大になっている。一本一本が、王都の塔よりも高い。

 葉の色も濃く、深い緑が空を覆い隠すほどだ。


『おお……すごい景色ですね』

 ラグが感嘆の声を上げる。


『これがエルフの森か……人間には踏み込めないわけだ』

 ユリウスが呟いた。


 更に奥へと進む。


 そして――見えてきた。


「あれは……」


 巨木の合間に、巨大な都市が広がっていた。


 エルフの里だ。


 想像を遥かに超えていた。


 白亜の塔が幾つも天を突いている。

 巨木の幹に沿って、螺旋状の建造物が連なっていた。

 空中には透明な橋が架かり、行き交うエルフ達の姿が見える。


 美しい。


 荘厳という言葉がこれほど似合う場所があるだろうか。

 まるで神話の世界がそのまま現れたようだった。


『すごい……こんな場所があったなんて』

 リリアが息を呑む。


 俺も言葉を失っていた。


 里の中央には、一際大きな建造物がそびえている。

 ドーム型の屋根を持つ、巨大な施設だ。

 その周囲には、いくつもの煙突から白い煙が立ち上っていた。


『あれは……何だ?』

 ユリウスが目を細める。


『おそらく、合成種族を生み出す施設ですね』

 ラグがアカシックリーダーを操作しながら答えた。

『ダークエルフや人型エルフは、あそこで作られているようです』


 作られている。


 その言葉の重さに、俺は眉をひそめた。


 命を作る施設。

 それが、あの美しい都市の中心にある。


『……複雑だな』


 感嘆と嫌悪が入り混じる。

 この里は、美しさと禁忌が共存している。


 だが、今は考えている場合じゃない。

 まずは降りて、話を聞いてもらわなければ。


 ◆◆◆


 俺はゆっくりと高度を下げ、里に近づいていった。


 交渉するためには、まず降りなければならない。

 敵意が無いことを示すために、ゆっくりと――


 その時だった。


 ヒュンッ!


「なっ!?」


 光の矢が、俺の翼を掠めた。


 ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!


 次々と飛んでくる。

 弓に魔法を乗せた遠隔攻撃だ。


「待て! 俺は話し合いに来たんだ!」


 叫んでみるが、効果は無い。

 むしろ、攻撃が激しくなった。


 くそっ、話も聞いてくれないのか!?


 俺は慌てて体を捻る。

 だが、矢の数が多すぎる。


 ドスッ!


「ぐっ……!」


 一本が翼の付け根に突き刺さった。


 痛みは無い。アンデッドだからな。

 だが、翼のバランスが崩れる。


『エルドラ様!?』

『兄さん、大丈夫!?』

『しっかり掴まれ!』


 カプセルの中で悲鳴が上がる。


「大丈夫だ! 俺は死なない! だが……」


 更に矢が降り注ぐ。


 ズドドドドッ!


 鱗に弾かれるものもあるが、何本かは体に突き刺さっていく。


 ゴォォォッ!


 今度は炎を纏った矢が飛んできた。

 爆発する矢だ。


「くそっ、やり過ぎだろ!」


 ドォォォン!


 至近距離で爆発が起きる。

 衝撃で体が大きく傾いた。


『き、機体が揺れております! 皆様、落ち着いて――きゃあっ!』

 ラグの悲鳴が響く。


 駄目だ。このままじゃ墜落する。

 しかも、首から下げたカプセルには仲間が乗っている。

 俺は死なないが、あいつらは違う。


 里から離れなければ。

 だが、どこに降りる?


 視界の端に、山の麓が見えた。

 あそこなら、何とか……


 ズドォォォン!


 背中に直撃。

 体が大きく揺らぐ。


「くっ……! 不時着する! 衝撃に備えろ!」


『了解!』

『分かった!』

『ひぃぃぃぃ!』


 俺は辛うじて制御を保ちながら、山の麓へと向かった。


 木々が近づいてくる。

 地面が迫る。


 せめて、カプセルだけは守らなければ。

 俺は体を捻り、背中から突っ込む体勢を取った。


 ズガァァァァン!


 激しい衝撃と共に、俺は森の中に突っ込んだ。


 木々が次々となぎ倒される。

 土煙が舞い上がる。


 そして――止まった。


「……はぁ……はぁ……」


 俺は荒い息をつきながら、首元のカプセルを確認した。

 無事だ。透明な素材に傷一つ無い。


『皆、無事か!?』


『な、なんとか……』

 リリアの声。


『大丈夫……この程度では壊れない設計だよ』

 ユリウスは余裕の表情だ。しかし、強がっているようにも見える。


『うぅ……お客様にお怪我はございませんでしたでしょうか……』

 ラグは最後まで客室乗務員を貫いていた。


 俺は空を見上げた。


 エルフの里の方向から、複数の影が近づいてくる。

 追っ手だ。


「……まずいな」


 交渉どころではなくなった。


 俺たちは今、敵地のど真ん中に墜落したのだ――


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