表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/27

襲撃

 ある日の夜、突然それは起きた。


 ダークエルフの襲撃だ。


 目指すはエターナルドラゴン。闇夜に紛れ、街への門を守る衛兵を難なく倒す。


 ギギギギギ……


 街の城門が開き、頑丈な鉄格子が上へと開放されてゆく。


 城門が開ききるのを待たずに、ダークエルフが獣の如く侵入する。


 その姿は獣そのもの。戦闘用に魔物と合成されたエルフの亜種だ。


 エルフの長い耳は毛に覆われ、太く鋭い爪が大地を掻く。


 金色の瞳は鋭く光り、まるで狼の群れがなだれ込んでいるようだった。


 今では荘厳な意匠に飾り付けられた竜舎。その前まで迫っている。


「襲撃だ! 警報を鳴らせ! 応戦しろ、食い止めるんだ!」


 異常に気づいた兵士が声を上げる。


 戦闘態勢に入るが、多勢に無勢。


 瞬く間に殲滅される。



 カーン! カーン!



 しかし警報は鳴らされた。


 襲撃を意味する赤い炎が打ち上げられる。


 たちまち城内は臨戦態勢となり、それは街中に広がった。


 さすがは王国の訓練された兵士だ。行動に無駄が一切無い。


 しかし、彼らには従属竜が居なかった。


 それまでの最強戦力を失った王国軍は、押され始める。


 ◆◆◆


「エルドラ様、ダークエルフの襲撃です」


 ラグが飛び込んできた。


「数は多くありませんが、非常に戦闘力の高い種族です。気をつけて下さい」


「ああ、わかった」


 俺は立ち上がる。


「ラグ、お前は国王の所に行け。危険が迫ったらすぐに連絡するんだ」


「はい、お任せ下さい」


 そう言ってラグは竜舎の裏から出ていった。


 俺は竜舎を出て、ダークエルフの群れを見据える。


 確かに目の前の数は多くない。


 しかし遠くに無数の影が迫っている。


 こいつらは突撃部隊といったところか。


「グオオオオオッ!」


 自分の存在を示すかのように咆哮する。


 一瞬怯んだように見えたが、すぐさま斬りかかってくる。


 剣や槍、弓などを持っている者がいる。中には杖を持つ者も。


 数人の杖を持つダークエルフが詠唱を開始すると、頭上に魔法陣が現れた。


 その中央が明るく輝く。



 ドォォォン! バリバリバリッ!



 俺の頭上に雷が落ちる。


 バラバラバラ……


 地面に鱗が散乱する。


 どうやら頭がハゲ……



 ドォォォン! バリバリバリッ!



 今度は視界が消えてしまった。



 ドォォォン! バリバリバリッ!



 それを最後に何も聞こえなくなる。


 それからも執拗に攻撃を落とされている。


 雷魔法のようだが、これほど連発で落としてくるとは思わなかった。


 しばらくすると視界が戻ってきた。頭が再生されたようだ。


 ダークエルフの様子を確認すると、信じられないものを見るような表情をしている。


「まあ、そういう反応だよな」


 後方に陣取っていた魔法部隊らしき連中は、息を切らして膝をついている。


 城の方に目を向けるが、そちらに戦闘の気配はない。


 どうやら標的は俺だけのようだ。


 ならばやることは簡単だ。


 俺は上空に飛び上がり、街の外へと移動する。


『リリア、ユリウス、聞こえるか?』


『はい、聞こえます』


『わかっています。すぐに殲滅して見せますよ』


 念話で二人の返事が返ってきた。


『街の中は任せる。情報が欲しい。できるだけ生かしておいてくれ』


『戦力は不明だ、十分に注意しろ。くれぐれも無理はするなよ、俺の頭を吹き飛ばすほどの連中だ』


 そう言うと俺は街の外、ダークエルフの群れの前で着地した。



 ズドォォォン!



 大地が揺れ、ダークエルフの行進が止まる。


「俺に何の用だ。なぜいきなり襲った。答えろ!」


「ウウーッ!」


 周囲から唸り声が聞こえる。


 そして一斉に火のついた弓矢が迫ってきた。


 弓矢は空中でいきなり加速し、一瞬で俺の体に突き刺さる。


 その攻撃は断続的に繰り返され、俺の体は針山のようになってゆく。


「まったく、こいつら話ができないのか?」


 俺は翼を広げ、一気に風を送る。


 弓矢は吹き飛ばされ、同時にダークエルフの一団も吹き飛んだ。


「無駄だぁ!」


 大声で威嚇する。


 しばらくの静寂の後、一人の男が前に出てきた。


 精悍な顔立ちと無数の傷跡。


 リーダーらしきダークエルフだった。


「無駄と言ったか」


 男は俺を睨みつけて見上げている。


 ちゃんと話せるじゃないか。


「我らダークエルフを舐めるなよ」


 低い声で男は言う。


「お前は滅ぼさなければならない存在だ」


「最後の一人になっても、決して諦めはせんぞ!」


 俺を滅ぼす?


 なぜだ、俺に恨みでもあるのか?


 身に覚えなんかないぞ?


「なぜ俺を滅ぼす?」


「それが里の掟だからだ!」


 男は見たこともないような大剣を振りかざし、俺に向かって突進してくる。


 なんだよその掟って。俺は割と最近生まれたんだぞ。


 誰かと勘違いしてないか?


 その時、一瞬母さんの姿が浮かんだ。


「ああ、そうか……」


 理解した。


「お前たちか。あのゴーレムを作ったのは……」


 リリアの顔が浮かぶ。


 複雑な感情を振り払い、俺はリーダーの男を蜘蛛の糸で縛り上げた。


「なっ! 何だこれは!」


 男は戸惑いながら糸を切ろうともがいている。


「初めて見るか? まあそうだろうな」


 俺は男の後方を見る。


 リーダーに続けと言わんばかりに、群れが突進してくる。


「じゃあ、これはどうかな?」


 俺は翼を広げる。


 そして念動力のスキルを使った。


 無数の鱗や羽毛が空中に浮かび上がる。


 体は何度でも再生され、そのつど空中に浮遊する数は増えてゆく。


 その姿は、まるで翼が何倍にも巨大化しているように見える。


 男はさすがに呆然としている。


 群れの突進も止まった。


「帰れ!」


 鱗と羽毛は巨大な壁となって、襲撃者を森へと押し返す。


「すぐに撤退させろ!」


 そう言って男を見下ろす。


「グウウッ……」


 男は歯ぎしりしながら俺を睨み続けている。


「やはりお前は、この世界に居てはならない」


 その言葉が、妙に引っかかった。


「……次はない、俺にも守りたいものが有る」


 俺は蜘蛛の糸を解く。


「俺の大切なものを傷つけることは決して許さん」


 男は地面に崩れ落ち、俺を睨み続けている。


「……覚えておけ。我らは決して諦めない」


 そう吐き捨てると、男は森の方へと消えていった。


 残されたのは、静寂だけだった。


 ◆◆◆


 ――遥か昔、とある戦場。


 森が、燃えていた。


 赤い炎が木々を舐め、夜空を焦がしている。


 逃げ惑うエルフたち。


 悲鳴。怒号。そして絶望。


 その中心に、白い竜が立っていた。


 月光を浴びて輝く、神話の聖獣のような姿。


 美しく、そして――恐ろしかった。


 竜の足元には、バラバラになったゴーレムが転がっている。


 究極の兵器。


 最強の切り札。


 それが、塵のように砕かれていた。


 一人のエルフが、その光景を見ていた。


 膝から崩れ落ち、絶望に染まった目で。


「……終わりだ」


 震える声が漏れる。


「我らは……滅ぼされる……」


 白い竜は、エルフを見下ろしていた。


 その瞳には、怒りはなかった。


 ただ、深い悲しみだけがあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ