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混乱の本戦

 予選終了までの間、俺は竜舎にて待機している。


 ラグとリリアは竜舎には居ない。

 二人は竜舎を出る前に、頭まで隠れるフード付きのコートを羽織った。

 身バレしないように。

 これはリリアが兵舎から、夜中にこっそり持ち出したものだ。

 これで怪しまれずにコロシアムへと潜入できるはず。

 だったのだが……。


 リリアは小柄なので寸法が合わず、ブカブカで裾を引きずってしまい。

 歩くと裾を踏んづけて転んでしまった。


 ラグの方はと言うと、天使の輪がフードを引き上げ、顔が半分隠れてしまい、しかも輪は隠しきれていない。

 しかも翼が背中の布を盛り上げてしまい、得体の知れない怪物に見える。

 かえって目立つ姿になってしまった。


 結局ラグは空を飛んでコロシアムの屋根に潜入。

 リリアは裾を短くして解決した。

 短くしすぎて可愛くなってしまったのは御愛嬌である。


 そしてリリアは街へ潜入している。噂話の収集が目的だ。

 本当は気晴らしに買い物でもさせてやりたいが、ドラゴンも天使もゴーレムも、財布を持っては居ないのだ。


 一文無しの人外パーティ……


 ふっ、あの時、両親にお小遣い頂戴って言ってたら、どうなっていただろう……

 時々ゲスい考えが頭をよぎる。

 最強のドラゴンなのに、自己嫌悪になってしまった。


 ◆◆◆


 ラグは予選の様子を念話で伝えてきた。


『予選はバトルロワイヤル形式です! 短時間で決着してますね』


『最も強い者が、他者を圧倒する場合がほとんどです』


『あっ、錬金術師の部門に凄腕がいます!』


『すごい速度です。人間じゃ無さそうです』


 おそらくユリウスのゴーレムに違いない。ユリウス本人は居ないのか。

 

 ゴーレムを対戦させ、自身は観戦をしている可能性が高い。

 リリアを街に行かせて正解だったようだ。

 ゴーレムとは言え、実の兄との戦闘は避けなければならない。


 ◆◆◆


 いよいよ本戦が始まるようだ。


 俺は巨大な鉄のゲートをくぐり抜け、コロシアムの闘技場に入場する。


 ズゥゥゥン……


 地響きが鳴る。俺の足音だ。


 周囲から割れんばかりの歓声が飛ぶ。

 ようやく本番がやって来たと言うわけだ。


『エルドラ様、ちゃんと手加減してくださいよ!』


 ラグの念話が聞こえてくる。

 手加減か…… だが、どうせやるなら楽しみたい。

 人間相手は初めてなのだ。力の差を見てみたかった。


「最初の相手はケイーロ・カミオーカ! 職業は占い師!」

「運命を見る男ケイーロ! その力は運命を見据え、運命を切り開く」

「否! 運命おも作り出すその力で、最強のドラゴンに立ち向かう!」


 アナウンスが響く。


 なんか変なやつが出てきた。


 和服っぽい衣装に下駄を履き、手には何やらカードを持っている。

 ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。


『シアートル国の占い師です。的中率100%を誇ります』


 ラグの念話が聞こえてきた。


「我が占いは絶対! 全て的中させるカードを喰らえ!」


 ケイーロがカードを掲げる。


「吊るされた男のカード!」


 そう言ってカードを差し出してくる。


 しかし何も起こらない……


 まあいい。こちらから挨拶代わりだ。

 そう思って一歩踏み出すと――


 ズルッ!


 突然地面が滑る。

 景色がひっくり返り、俺は仰向けに倒れてしまった。


「おおーーーっ!」


 周囲から驚きの声が上がる。


 何が起こったのか分からず困惑している俺に、ケイーロは再びカードを切る。


「くっくっくっ……次は何かな? おおっ、塔のカード!」


 突然空が明るく光る。


 ドゴォォォォン!!


 顔面に衝撃を食らった。

 俺は吹き飛ばされ、壁にぶち当たる。


 混乱と衝撃で視界が歪んで見える。

 何かにぶつかった? というよりも落下物に当たったのだ。


 闘技場の地面は深くえぐれ、中には赤く焼けた岩が落ちている。


 まさか隕石? こいつ、隕石を降らせたのか!


 なんなんだこの力は。こんなこと有るわけがない。

 いや、ここはファンタジーの世界。魔法もあれば何でもありだ。

 チート野郎が世界に俺一人のはずがない。


「ひぃーひっひ、まだまだ終わらんよ。月のカード!」


 俺は身構える。そして空を見上げる。


 この世界には月が二つ有る。そのどちらかが!


 無い。月が無い。消えている。


 おいおいおい、そんな事をしたら……

 俺は思わず後退る。


「おやおやぁ? 騙されましたね?」


 ケイーロがニヤリと笑う。


「月のカードは不安や迷いを意味するのですよ」

「空を見てましたね? いけませんねぇ~。昼に月は見えません。ひゃっはっはっ!」


 こいつ……少し懲らしめてやろう。


 俺は息を吸って炎のブレスを溜める。


「死神、逆位置のカード!」


 ケイーロのカードが切られると、いきなり喉が詰まってしまった。


 ゴボッ……!


 俺はブレスを吐けず、口から煙を出して苦しむこととなった。

 以前から味は感じられたからだ。

 焦げ臭く舌の焼ける感覚。そして辛さにも似た痛みが走る。

 俺は口を押さえて必死でブレスを飲み下した。


 やばい。こいつはまじでやばい。


 ケイーロ恐るべし。

 俺は結局まだまだ世間知らずだった。この世界の人間を舐めていた。


「私は運が良いのです」


 ケイーロが余裕の表情で語る。


「対戦順も一番。私があなたを倒せば、私こそが勝利者となるのです」

「さぁー、覚悟は良いですか? 次で決めます!」


 カードが高く掲げられる。


「世界のカード!」


 俺は身構えて待つ。


 俺は全く攻撃することもなく負けてしまうのか?

 たとえ勝利が目的で無かったとしても、こんな負け方は嫌だ。


 この男は強い。

 そう畏敬の念を持ちながらケイーロを見据えると、なにやら様子がおかしい。


 わなわなと震えながら俺にカードを見せる。


「逆位置……そんな、まさかあぁぁぁぁぁ!」


 バタン!


 そう言って倒れてしまった。


 何が起こった?


『世界のカードの逆位置は、不完全燃焼です』


 ラグから念話が入った。


「勝利者、バハムートおおおっ!」


 恐るべしケイーロ。俺は不完全燃焼で勝利してしまった。

 しかも勝手にカッコいい名前付けられてるし……


 ◆◆◆


「次の相手はタクミイ・フラン! 職業は調理師!」

「その神の如き一皿に、数多の者がひれ伏してきた。まさに絶品」

「その料理は、あまりにも美味、生涯忘れることが出来ない」


 にこやかな笑顔でエプロン姿のハーフリングっぽい男が出てきた。

 白い調理服にコックの帽子も被っている。いかにも温厚そうな見た目だ。

 闘技場の一角にはテーブルが設置されており、あらゆる調理器具や食材が積み上げられていた。


 ちょっと待て。何なんだこの職業は。

 そもそも戦闘職じゃないだろ。

 何か美味いものでも食わしてくれるんじゃないだろうな。


『食べずには居られない、究極の料理だそうです』


 ラグの念話が……いや、だから、食うだけでいいのか?


 タクミイは、穏やかな表情でテーブル前に立つ。

 そしてテーブルに置いてある、豪華な宝箱のようなケースを開く。

 そしてその中から、巨大な包丁を取り出した。


 ギラッ……


 そしてニヤリと笑って話す。


「どうやって料理しようかな」


 俺かよ! 俺を喰うのかよ!


 ダッ!


 突然、凄まじい勢いで突進してくる。

 そして眼の前で飛び上がり、首に向かって包丁を振るう。


 俺は思わず逃げてしまった。


「血抜きをしないと美味しく食べられないんだってば」


 笑顔と共に巨大包丁が俺を追い詰めてゆく。


 ザシュッ!


 ついに尻尾の先が切られてしまった。


 何なんだあの切れ味。あれ本当に包丁なのか?


『ミスリル製ですね。最高級なのでとっても高価です』


 出たよファンタジー金属。どうやって倒すんだよこれ。


 おいラグ! この世界の料理人はみんなこんななのか?


『食材を仕留めてこそ、一人前の料理人になれるんです』


 まじかよ。どんだけワイルドな職業なんだよ。


 逃げ回っていても埒が明かない。

 ここは一つ、とっておきを食らわしてやる!


 俺は足を止め、タクミイに向かってスライムを噴射する。


 ビシャァッ!


 スライムの粘液がタクミイに命中する。


「うっわ、なんでスライムが、うわあ気持ち悪い!」


 スライムに取りつかれたタクミイは、ジタバタと暴れている。

 そしてスライムが口の中に入った。


 すると目がカッと見開かれ、驚きの表情が現れる。

 動きが止まり、口だけが咀嚼を繰り返す。


「何だこれは! 甘くてフルーティ、爽やかでコシがある……」

「スライムってこんなに美味かったのか。こうしちゃ居られない!」

「すぐに帰って開発だ!」


 そう言ってタクミイは闘技場から出ていった。


 と思ったら帰ってきた。

 そして切り取った尻尾を拾い、また出ていった。


「勝利者、バハムートおおおっ!」


 まあいいか。

 でも俺の尻尾、食べて大丈夫なのか? 腹を壊すんじゃないのか?

 タクミイの事が少しだけ心配になった。


 ◆◆◆


 それからも次々と様々な職業が俺の前に現れた。


 勇者。冒険者。魔法使い。魔獣使い。僧侶。


 しかし、どの戦いも面白いものではなかった。

 中には手こずった相手も居たが、それでも脅威というわけではなかった。


 勝利する毎に観客は湧き、国王は満足げに笑う。


 今の俺は道化なのかも知れない。


 そしてついに――


 目的の対戦相手が現れた。


 ◆◆◆


「次の相手はタロス! 職業は錬金術師!」


 闘技場が静まり返る。


 ゲートの奥から、漆黒の影が現れた。


 ズ……ズ……ズ……


 重い足音が響く。

 それは今までの対戦相手とは明らかに異質な存在だった。


 漆黒のフードを被り、影の奥から瞳が赤く輝いている。

 禍々しい角。鋭い爪。黒い装甲。


 そして胸には赤いコア。


 見覚えのある形状だ。


 あれは……かつてリリアの中にあったものと同じ。

 ゴーレムのコアクリスタル。


 ラグ、探してくれ。ユリウスは居るか? 居場所は解るか?


『はい、居ます。見つけました……』


 よし、よくやった。何処にいる?


『眼の前です……』


 どういう意味だ?


 ……!


 まさか……


『眼の前にいるゴーレム、アカシックリーダーにユリウスと表示されています』


 俺の思考が凍りつく。


 ユリウス、自分自身をゴーレムに……?


「ようやく殺せる」


 ゴーレムが不気味に喋る。

 その声には、憎悪が滲んでいた。


「よくもリリアを……」


 俺は何かを見落としていたのか?


 ユリウス。どうしてそんな姿に……


 その戦いは――


 絶望と憎しみの出逢いとなってしまった。


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