トーナメント開始
トーナメント当日。
コロシアムに、世界中から強者たちが集まってきた。
勇者、冒険者、魔法使い、魔獣使い、錬金術師、僧侶……。
あらゆる職業の猛者たちが、己の力を示すために集結している。
俺は闘技場の中央に立たされていた。
王族の紋章が描かれた鎧のような装飾を施され、まるで飾り物だ。
周囲には他の従属竜たちも整列している。
王国の権威の象徴。
完全に見世物扱いだった。
観客席には各国の貴族や要人たちが陣取り、国王は最上段から満足げに見下ろしている。
……このトーナメント、実は出来レースだ。
最後の相手は、この国の第一王子。
王子との戦闘中にマグヌスが呪いをかけると、俺は動けなくなる手筈になっている。
それがマグヌスの役目なのだが……。
視線を向けると、騎士団長はマグヌスに手筈を話している。
だが、心ここにあらずといった様子だ。
トーナメントで俺を手に入れることしか考えていないのだろう。
もうこの男に用はない。
だが、できれば全ての竜を自由にしてやりたかった。
また芝居の一つでもしてやるか。
◆◆◆
トーナメントのルールは単純だった。
同じ職業同士で予選を行い、勝ち上がった者が職業の代表となる。
その代表たちが、俺と勝利を賭けて戦うのだ。
勝利者が手にするのは賢者の石。これにどれほどの価値があるのか俺にはどうでも良い。
しかし、マグヌスの言葉がひっかかる。何かのいわく付きなのは間違いない。
最初は全ての対戦相手と戦うのかと思ってげんなりしていたが、本物の強者のみと対戦することになる。
それは少し安心した。
……いや、安心していいのか?
俺は神様お墨付きの最強のはずだが、どんな相手が来るかわからない。
正直言って、期待と不安が混じっている。
そもそも、こんなことをしていても信仰の強化には関係ないように思える。
困った時のラグ頼みでもしてみるか。
『なあラグ、どうだ? 物凄く強い奴っているか?』
「みんな雑魚でぇ~す」
ラグは俺の頭に付けられた兜のような装飾に座っている。
都合よく彫像が装飾されているのだ。ラグはそこで彫像のフリをしている。
リリアはその後ろに座っている。じっとしている姿は彫像そのものだった。
『そぉかぁ~……こんな事やっても契約と関係ないよな』
『もしも俺が契約を執行しなかったり、破りでもしたらどうなるんだ?』
「死の呪いが発動しちゃいますよ」
『でも俺、死んでるよな』
「……」
『なあ、ラグ』
「……」
『ラグ? おい大丈夫か?』
「だだだ、大丈夫じゃありません!」
『だよな、ネクロドラゴンでも肉体が滅びて死ぬのか……』
「神様が大変なことになっちゃいます!」
『おい、あんまり動くなよ。見つかっちまうぞ……えっ?』
「執行できない呪いは神様に反射しちゃうんです」
『神様なんだから大丈夫じゃないのか?』
「神様が死ぬんじゃなくて、信仰の力にダメージが入るんですよ」
『そりゃ大変だな』
「この世界は信仰の力で維持されてます。魔法の世界は信仰がないと滅びます!」
『そっ、そりゃ大変だあ!』
「エルドラ様が仕事しないと世界が滅びます!」
『おい! こんなことしている場合じゃないだろ』
ラグといっしょに俺もオロオロしてしまう。
「まだ大丈夫です。神様もヤワではありません。そう簡単に滅ぶわけではありません」
「天変地異が起こると、神様に祈るでしょう?」
『雨乞いとか聞いたことあるな』
「あれは信仰エネルギーを補給して、世界を安定させてるんです」
『へぇー、そうだったのかあ』
「納得しているだけでは駄目ですよっ!」
『ああ、ちゃんと覚えておくよ。ところで……』
ふと、視線が止まった。
『あそこにいる人は誰だ?』
大通りで、他国の人々に話しかけている人物がいる。
「この絵を見てください。何処かで見かけませんでしたか? 誰か知りませんか?」
「すみません、わたしの息子なんです。なんでもいいから教えてください」
ああ……おそらくリリアの両親だ。
娘を失っただけでなく、息子まで行方不明になってしまった。
その気持ち、痛いほど分かる。
胸が締め付けられる。
娘はここにいると言ってやりたい。
しかし、知っている娘はもう居ないのだ。
願わくば、兄だけでも見つけたい。
「あっ、あれはリリアさんのご両親ですよ」
ラグが言うやいなや、リリアが飛び出してしまう。
『あっ! 駄目だ!』
制止も効かずに走り出し、両親を抱きしめる。
リリアの両親はふたりとも驚いた顔をしていた。
だが――
両親の胸に顔を埋めるゴーレムの頭を、二人はそっと撫でた。
まるで、分かっているかのように。
そしてリリアは一言だけ伝えた。
「兄さんは必ず見つける」
そして俺の元へと戻ってきた。
母親が走り出そうとする所を、父親が制止した。
そして二人は俺に向かって一礼すると、そのまま立ち去った。
リリアは俺の尻尾に隠れて泣いていた。
『……家に帰りたいか?』
リリアは何も言わない。
分かっている。
帰りたいに決まっている。
だが親から貰った肉体は死んでしまった。
今の身体は魂の入れ物。化けて出た幽霊みたいなものだ。
合わせる顔がないのだろう。
それはきっと、兄にも同じ気持ち……。
両親の言葉、兄を探す声をずっと聞いていたんだろう。
必死で耐えながら。
しかしラグの一言で耐えきれなくなったんだ……。
両親は、娘の気持ちを察して姿を消した。
俺にはそれが分かってしまう……。
俺はそっと尻尾を丸めて、リリアを包んだ。
『ラグ、リリアの兄さんは、今どうしてるんだろうな……』
「……可能性の話をしてもいいですか?」
『ああ、頼む』
俺は何か話をしたかった。そんな気分だった。
内容は何でも良かった。だが兄の話を選んでいる……。
「言ってなかったのですが、ダンジョンにゴーレムのコアがありませんでした」
「もしもお兄さんが持ち去ったとしたら、彼は錬金術師です」
「胸騒ぎがします。考えすぎなら良いのですが……」
『雑魚ばかりではないということか。そんな形では会いたくないな』
その時――
トーナメント予選のファンファーレが鳴らされた。
高らかに響くラッパの音。
だが俺には、それは不吉な予兆と波乱の幕開け。
もしもいたずら好きの神がいたならば。
こんな声で笑っているのかもしれない。




