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ミノウチ竜綺譚  作者: 葉色
第3章 竜冥山の向こう側
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19話 竜冥山の向こう側


 御殿に残る隊士たちは、食糧や水、武器を御殿のなかに備蓄させた。そして、石段を降りて少し離れたところに、即席の本部を設置した。


 御殿組のほとんどは城の雑役や通信を担う、第六火焔隊士たちだった。


 火焔隊分隊長のマナベ・ミナトは城を出る前、隊士たちを集めると、


 ー捜索隊と御殿組のあいだに、連絡係として、隊士を一人置くこととした。

 ー・・・。

 ー連絡係の隊士は、捜索隊リーダーのイシア様と行動を共にしてもらう。

 ー・・・。

 ー誰かこの大役に、名乗り出る者はいるか。

 ー・・・。

 ーいないなら、隊長として私が指名させてもらう。

 

 ー・・・。

 ーマナベ隊長。

 ー・・・。

 ー私にやらせてください。

 声の先にはガレキが立っていた。


 ーガレキ??

 周囲にいた者がいっせいに驚きの声を上げた。


 ー俺が・・・俺が・・・。

 ー・・・。

 ー捜索隊の皆さんと一緒に・・・いや、捜索隊の一員として、《不可侵の森》へ行きます。

 

 


 雨泉浪(ウィズロー)美春祝(ミハルシュク)、火焔隊士達が、半日、捜索に手を尽くして分かったのは、勇参(イサン)と山賊が遠くへ逃げた形跡は無いということだった。


 ーイシア様。

 火焔隊隊長、サノ・シュウゴが勇幸(イシア)のまえに現れた。


 勇幸は竜冥山を下りて、《不可侵の森》が前方に臨める平地で、隊士から報告が上がってくるのを待っていた。


 ー竜冥山ならびに《不可侵の森》周辺の捜索が終了しました。

 ーどうだった。

 ー火焔隊を四手に分け、四手をさらに小分けし、周辺の民家や竜冥山を捜索しましたが・・・。

 ー・・・。

 ーやはり、イサン様と山賊たちの姿はありません。

 ーそっか。本当に抜かりはない?

 ーはい。ウィズロー様やミハルシュク様の力も借りて隈なく探しましたが、彼らがいた形跡はありません。

 ー・・・。


 二人の傍へ、ウィズロー竜が空から降り立った。彼は背中に乗った兵士達を先に降ろした。


 ー死ぬかと思った・・・。

 青ざめた顔でそう呟く兵士達は、まるで傷病兵のようにお互いの肩を持った。


 ウィズロー竜は竜化を解き、村澤雨泉浪に戻った。


 雨泉浪は勇幸に近づくと、

 ーイサンのいた形跡無し。

 ー・・・。

 ーていうのが収穫だ。

 と報告をした。


 ー断言していいだろう。イサンはこの森の中だ。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーシュウゴ。

 ーはい。

 ー隊士たちに食事をとらせて。

 ー・・・。

 ー森の中へ入る。




 『あちら側』と『こちら側』。

 《不可侵の森》とミノウチ城の関係性について、人々はこのように言い表した。


 

 確かに竜冥山を国境線として引いたとき、その北と南では全く異なる二つの世界が展開されていた。


 《不可侵の森》は、まだ竜王がこの国に住んでいた頃から()つ、背の高い広葉樹によって、森が覆われた、原始的な世界が広がっている。その実態は未だに解明されていない。円形の森で、全体の大きさがどれほどか、以前ウィズロー竜とイシア竜が上空から調査したところ、およそ半径二キロから三キロは優にあった。


 『こちら側』がミノウチ竜という竜化能力者が統治する、比較的文明化された領域であれば、『あちら側』は、森という独裁者が王として君臨し支配する、独裁国家ではあるものの、森を守る兵士たちが何なのかさえ、はっきりしていない。


 この森の広葉樹を伐採しようと、何人もの鉄鉱業者や山師が山に入り、試みたが、一度森の奥へ入り、戻ってきた者はいなかった。


 あるとき、人間たちが切り拓いた、森の入り口の前に、身元不詳の一人の人間の遺体が転がっていた。


 遺体は、胸を裂かれ、瞳は潰され、両膝は切断されて、ご丁寧に遺体のお腹の上に供えられていた。


 これを森からの警告と受け止めたミノウチ人は、この森を《不可侵の森》と呼び、以後、土地の中へ踏み入れようとしなかった。



 

 火焔隊士はミノウチトカゲに乗る隊士と歩行で森の中を進む隊士に分かれた。


 海鵜(ウミウ)との『同接』を行いながら進む美春祝は、その間、竜化することも剣を手にすることも出来ない。ミノウチトカゲに乗ることも危険だった。『同接』は、高い集中力を要した。


 なので、美春祝を囲むように森の中を歩いて進む、彼女を護衛する隊士が必要だった。


 不要となったミノウチトカゲは御殿の方へ、送り返した。


 

 ーミハル。やってくれ。

 勇幸が美春祝にお願いした。


 美春祝は目を(つむ)った。

 四十羽の海鵜は、再び東西南北に分かれて、森の中へ、入って行った。



 捜索隊は森のなかへ入った。進めば進むほど、森の外から中を照らす、陽の光は弱くなっていった。その度、捜索隊の心は不安になった。


 ー安心しろ。

 雨泉浪が近くの隊士に話しかけた。


 ー・・・。

 ーいざとなれば俺が竜化して、みんなをこの森の外へ連れ出してやるから。


 しかし、そうした雨泉浪の励ましの言葉さえ、何十メートルもある背の高い広葉樹の連なりによって、空が見えなくなればなるほど、隊士たちの不安をかき消すには至らなかった。


 美春祝は集中していた。誰とも一言も言葉を交わさず、四人の隊士に囲まれる、逆ハーレムの状態を維持したまま、森の中を歩き続けた。

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