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ミノウチ竜綺譚  作者: 葉色
第3章 竜冥山の向こう側
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18話 美春祝の能力


 村澤雨泉浪(ウィズロー)がミノウチトカゲから降りると、火焔隊隊長のサノ・シュウゴを呼び止めて、イサンを(さら)って行った奴らの逃亡範囲は分かっているか、尋ねた。シュウゴは、はい、と答えてから、


 ー西のオオセン村、北のヒノマツ村の常駐隊士には、現状を知らせた上で、何かあればすぐに海鵜(うみう)を飛ばすよう、伝えてあります。

 と言った。


 ーそれで海鵜は。

 ーまだ来ておりません。

 ーつまり、奴らはそっちには行っていないってことだな。

 ーええ。不意打ちに遭い、海鵜を飛ばす時間的猶予も無く、死んだりしていなければ。

 ー・・・。


 ー隊士たち。

 雨泉浪は周囲の隊士を見て呼びかけた。

 隊士は作業を中断して、雨泉浪に注目した。


 ー俺は今から竜化する。

 ー・・・。

 ー捜索場所が遠い奴らは全員、俺の背中に乗れ。早く捜索を始められるよう、近くまで運んで行ってやる。


 ーなっ!!!

 この突拍子もない発案には、サノ隊長含め、全員が驚いた顔をした。


 ー絶対に落ちるなよ。

 ー・・・しっ、しかし、ミノウチ竜様の背中に乗ることは禁じられているのでは。

 ーくだらない・・・俺が赦す。




 落雷御殿の石段を造ったとき、ミノウチ竜たちは石材の運搬を手伝ったことがある。


 採石場で竜化したミノウチ竜は、木で固定させられた石材を背中に乗せ、石工場や落雷御殿まで運搬した。石材を下ろすと、再び採石場へ戻り、運搬する、を繰り返した。


 しかし、七威からの指示で、職人など、人間を乗せることは禁じられていた。



 雨泉浪は少し離れたところで竜化した。

 そして隊士たちに近づくと、隊士たちが乗りやすいよう、体勢を低くし、あのエメラルド色の恐ろしい瞳で隊士たちを睨みつけた。


 隊士たちは、思わず気後れした。


 サノ隊長は隊士たちを見渡して、

 ー皆。さっきのウィズロー様の指令を聞いていただろう・・・指定された捜索場所まで、時間がかかる奴らはウィズロー様の背中に乗れ!!

 ーそんな・・・いきなり乗れなんて無茶な!

 ー絶対落ちます!絶対に落ちます!

 ーなーに弱気なこと言ってるんだ!

 ー・・・。

 ーさあ早く・・・ウィズロー様を信じて乗るんだ!!


 数分後、ウィズロー竜は飛翔した。ウィズロー竜の皮膚の突起した部分を必死に掴んで、青ざめ、怖くて叫ぶ隊士たち、数名を乗せて・・・。



  

 ーミハルシュク様。

 落雷御殿の庭で、目を瞑って立っている長岐美春祝(ミハルシュク)に、隊士が話しかけた。


 ーご指示通り、海鵜を四十羽、用意いたしました。

 ーありがとう。そこに置いといて。

 ーハッ。


 隊士は下がった。

 美春祝は振り返った。

 四十羽の海鵜が、竹で編まれた鳥籠に入れられたまま、美春祝のほうを見ていた。


 美春祝はしゃがんで、一番近くにあった鳥籠の中に入っている海鵜を見つめた。

 ー元気?

 

 美春祝は落ち込んだ声で尋ねた。

 それから美春祝は鳥の鳴き声を真似た。


 ーチュンチュン・・・チュンチュン・・・。

 美春祝は自分の唇を尖らせた。


 海鵜は目を瞬きするだけで、反応したり、しなかった。

 ーチュンチュン。

 ー・・・。


 美春祝は真剣な顔つきになった。

 ー・・・我は竜王様より力を貸し与えられ、この領土の防衛を任されし者。

 ー・・・。

 ー・・・敵を退け、この国が公共の安寧秩序を維持するよう、努める者。

 ー・・・。

 ーみんなの力を貸して。


 数分後。


 鳥籠から解き放たれて、海鵜は飛び立った。

 そして、四方に離散し、竜冥山の周辺を飛び回り始めた。


 美春祝は先ほどと同様、庭に仁王立ちして目を瞑っていた。


 彼女の視力は四十羽の海鵜の目と『同接』した。

 彼女は海鵜の視界を奪うことによって、勇参を連れた山賊の手がかりが無いか、捜索を始めた。


 美春祝の能力・・・それはミノウチ竜王国に棲む、鳥や海洋生物など、かつて竜王の寵愛を受けていた動物たちの五感を、一時的に自分のものとして、利用できることだった。


 彼女は鳥や獣たちと意思の疎通をすることが出来た。この能力は、ミノウチ竜たちのなかでも、美春祝だけが先天的に持っていたもので、彼女が自分のなかにそのような能力があることを知ったのは、彼女がまだ五歳のときだった。




 火焔隊士たちはミノウチトカゲに乗って、周囲の民家に聞き取りや捜索を行った。


 ー最近の山賊の動向調査をしています。


 ーここら辺で山賊達を見ませんでしたか。


 ー昨日の昼過ぎから夜にかけて少年を連れた山賊を見かけたりしなかった?


 ー捜索内容は言えないんだ。


 ー別に山賊に限らなくてもいい。ここ最近、この辺りをうろつく不審な人物はいないか?


 時間だけが虚しく過ぎて行った。

 山賊と勇参の目撃情報は無かった。


 火焔隊士とともに、勇幸の護衛であるマツザ・レンやリフカも辺りの捜索を手伝っていた。両者共に、ミノウチトカゲに乗っての捜索だった。


 二人は道中ですれ違った。


 黙って通り過ぎようとするリフカに、マツザ・レンが、待て、と呼び止めた。リフカは止まった。


 それからマツザ・レンがリフカに、

 ー良い斧を背負っているな。

 と話しかけた。


 ー・・・。

 ーそれは、お前の斧か。

 ーはい。

 ーラブリュスか。珍しいな。


 リフカの斧は、斧の刃が斧頭(おのがしら)の左右どちらにも付いている、いわゆる両刃斧(ラブリュス)で、斧頭の中心には、僅かではあるが円形の窪みがあった。


 ー誰から貰った。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ー父から譲り受けました。

 ー父親は今どこにいる。

 ー死にました。

 ー何で死んだ。

 ー病気です。

 ー母親は。

 ー父が亡くなる前に亡くなりました。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーそなた、ウィズローの知り合いだったな。

 ー・・・。

 ーどういう関係だ。

 ーウィズとは・・・ただの幼馴染です。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーそうか。

 ー・・・。

 ーイサンが(さら)われてずっと、ウィズローはいきりたっている・・・もし森のなかで拐った奴らと遭遇したら、何をしでかすか分からない。

 ー・・・。

 ー奴が無茶をしそうになったら止めてやれよ。

 言い終えると、マツザ・レンはリフカから離れた。

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