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ミノウチ竜綺譚  作者: 葉色
第2章 ミノウチ竜たち
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12話 ミノウチ竜たち


 評議会のメンバーは、成竜のミノウチ竜の他、海運業と鉄鉱業の有識者も含まれていて、評議会は、ミノウチ城の第四層にある、大陸風の大広間、《孤春(こはる)の間》で定期的に開かれていた。


 隊士の一人がミノウチ竜の火がついた松明を片手に持ち、《孤春の間》の壁に掛けられた別の松明に火を移して歩いていた。既に火は暮れ、月が上空から出て、地上を月明かりで照らしていた。


 今夜の会合に、勇幸が声を掛けたのは、美春祝(ミハルシュク)雨泉浪(ウィズロー)、二人のミノウチ竜だけだった。


 ー皆、揃ったね。

 勇幸が口を開いた。


 ー・・・。

 ー皆と言っても、私を入れて三人だけだけど。


 三人は、アレナド共和国の職人を呼び寄せてわざわざ作らせた長テーブルの前で、背もたれにミノウチ竜の絵が描かれた椅子に座っていた。


 ーそれじゃあ始めよう。

 ーイシア。なんで兄さんが来てないの。

 美春祝が勇幸に尋ねた。


 ーアルヒデには事情を砕いて説明した上で、製鉄所にいて欲しいと、海鵜(うみう)を使って伝えた。だから、来ない。

 ーミノウチ竜に召集をかけるなら、兄さんも呼ぶべきでしょ。

 ーアルヒデがこっちに来れば製鉄所に竜がいなくなる。

 ー・・・。

 ーそうすれば製鉄所の稼働を止めないといけなくなる。非常事態でないかぎり、製鉄所の稼働を止めたくないんだ。


 ー・・・製鉄所なんてさっさと止めちまえよ。

 雨泉浪が二人の会話に口を挟んだ。


 ー・・・。

 ーイシア。つまりアンタにとっては、弟が誘拐されたのに、それでも今は非常事態じゃないってこと。

 ー全員集まったところで、誰か一人は製鉄所にいないといけなくなる。イサンを捜索するにしたって、城や製鉄所を空っぽにするわけにはいかない。

 ー・・・。

 ーミハルシュク。私たちはな、竜不足なんだ。成竜は今、たったの四頭しかいないんだよ。父上には使いを出した。父上が戻ってこれたとしても五頭しかいない。

 ーミノウチ竜が少なくなったのは、アンタ達の先祖が私たちの先祖を手にかけたからでしょ。

 ー・・・今は過去の話をするべき(とき)じゃない。

 ー・・・。

 ー・・・まあ、とにかく。捜索するにしたって、隊士たち・・・人間たちを中心に捜索隊を作らなきゃいけないんだ。


 そのとき、

 ー失礼します!

 《孤春の間》に火焔隊士が一名、入ってきて、

 ー先ほど、アルヒデ様が《春華の庭》に着陸されました。今こちらに案内したところです。

 ー・・・。


 隊士が、失礼しました、と言って下がるのと入れ替わりに、長岐或秀が、《孤春の間》に入ってきた。


 ーアル。どうしてここにいる。製鉄所にいてくれって書いてなかったか。

 ーイシア。私に説教垂れる前にな、お前の弟を教育し直さないといけないんじゃないか。


 或秀は、《孤春の間》の長テーブルの椅子に座る、雨泉浪の胸ぐらを掴んだ。そのまま、雨泉浪を力任せに立たせ、部屋の支柱に雨泉浪を押しつけ、


 ー仕事のやる気がないなら辞めろ。

 と言った。


 ー・・・。

 ーどうして俺が出勤する一時間も前に、製鉄所からいなくなった。

 ーそれはな、お前と顔を合わせたくなかったからだよ。アルヒデ。

 ー貴様・・・。

 ー二人ともやめて。

 美春祝が言った。


 ー・・・。

 ー・・・。

 或秀と雨泉浪はしばらく睨み合っていたが、やがて或秀が雨泉浪の胸ぐらを離した。


 ー製鉄所はどうした。アルヒデ。

 ー・・・。

 ーウィズローが製鉄所をほっぽり出したから、お前も真似して、ほっぽり出してきたのか。

 ー製鉄所がどうかしたらな!その時はその時だ!

 或秀が勇幸を睨みつけながら言った。

 ー建前を使って、あんな山奥に私を縛りつけておこうとするんじゃない!

 ー・・・。

 ーそれに・・・ここに来る前に、ちゃんと火焔は新しいのを吐いてきた・・・緊急時にどうするかは責任者にしっかり伝えてある。

 ー・・・。

 ーイシア、私は君なんかよりも、父の形見であるあの製鉄所をどうするか、よっぽど真剣に考えているつもりだ。


 ー・・・。

 ー・・・。

 ー分かったよ。アル、機嫌を直せよ。座ってくれ。

 勇幸が静かにお願いした。

 或秀は渋々、椅子に座った。雨泉浪も自分の席に戻った。


 それから、勇幸は話し出した。

 ー皆も知っての通り、イサンが今日のお昼過ぎ、落雷御殿で山賊に襲われ、交戦状態になった。山賊や隊士含め10体以上の人間の遺体があったが、現場にイサンの姿が確認できなかったことから、連れ去られたと、今のところ思っている。

 ー・・・。

 ー山賊というのは一味をひっ捕えたと思っても、知らぬ間に、またタケノコのように生えてくるものだ・・・竜冥山と《不可侵の森》の間、この一帯は大昔から山賊たちの活動領域になっている・・・恐らくどこかから、落雷御殿でイサンがひとり、度々出向いて訓練していることを情報として仕入れたのだろう。

 ー・・・。

 ーイサンが落雷御殿にひとりで朝早く、城を抜け出して行っていることを、私はだいぶ前から知っていた。しかしそのことについてあの子とは話さなかった。今振り返れば、イサンにはもっと強く注意喚起しておくべきだったと、本当に後悔している。

 ー過保護に育てたところで、立派な竜になどなるものか。

 或秀がぼやいた。


 ー・・・ここからはこれから先のことを話したい。イサンが誘拐された可能性が高い以上、ここで黙って、指をくわえて見ているつもりはない。捜索隊を結成し、イサンの捜索ならびに救出に向かう。私が捜索隊の指揮官として、皆を率いるつもりでいる。


 勇幸は美春祝を見て、

 ーイサン捜索にはミハルシュク、君の力が必要だ。君は私と一緒に今回の捜索に参加してもらいたい。

 ー・・・。

 ー参加してもらえるか。

 ーイサンを助け出すためでしょ・・・やるに決まってるじゃない。

 ーよし。


 それから勇幸は全員を見て、

 ーウィズロー。お前は私に代わって、城を守れ。アル、君は引き続き製鉄所に滞在し、製鉄所の稼働、さらに城に何かが生じた際、第二の拠点として、製鉄所が機能するよう、責任を持て。

 ーイシア。何言ってんだ。

 雨泉浪が言った。

 ー俺が城で留守番だと・・・冗談じゃない。弟が(さら)われたんだ。こんなとこで黙っていられると思うか・・・俺も捜索隊に参加する。

 ー・・・いや、駄目だ。


 雨泉浪は、どうしてか、聞いた。勇幸は、


 ー今回のイサン捜索は私が指揮をとる。

 ー・・・。

 ーそして、私が城を空けている間は、同じ村澤家の人間が城を守っていなければならない。父上が帰ってこない以上、お前は一時的にこの城の城主だ。

 ーそんなふざけた話があるか。

 ー・・・。

 ー村澤だろうと長岐だろうと、どうせ同じミノウチ竜だ。外敵が目の前に迫っているならまだしも、今はアルヒデが城と製鉄所、どちらも見る・・・それで備えは十分だろう。

 ーいいや、駄目だ。

 勇幸は声を大きくした。それから或秀を見て、


 ーアル、気を悪くしないでくれ。

 ー・・・。

 ー長岐家の人間に城の留守を任せることはしない。

 と言った。

 

 或秀は微笑んで、

 ーそうか。かつてお前の先祖が私たちの先祖に対して働いた背反行為を、今度は私がお前達にすると思っているのだな。

 ー・・・私が君の立場なら、そういう考えが頭をよぎってもおかしくはないというだけだ・・・下手な出来心を起こしかねない状況は作りたくないんだよ。

 ー兄さんがそんな卑怯な真似、するわけないでしょ。馬鹿じゃないの。

 美春祝が勇幸を罵倒した。


 勇幸はテーブルに目を落としたまま、

 ー私も君を本物の兄のように慕っているからね。尊敬してるし、対立するようなことは避けたいんだ。

 と言った。




 かつて、狂竜ヨレハと恐れられた、長岐依刃(ヨレハ)というミノウチ竜が大陸への侵攻を開始したとき、城の護衛を任されたのが、村澤家のミノウチ竜、村澤荒帆(アレホ)だった。


 彼は村澤家の家主ですら無い、性格は控えめで大人しい、ミノウチ竜自体も体長が特に大きいわけでもない、目立った特徴の見つからない人物であったが、長岐依刃(ヨレハ)が魔術士に殺され、他のミノウチ竜たちも散り散りになったと聞き知るや、彼は態度を一変させた。


 荒帆(アレホ)は、逃げ帰ったミノウチ竜たちの帰城を許した。


 そして城が寝静まった後、自らの忠臣に寝込みを襲わせた。襲われたミノウチ竜は全員死んだ。


 そして荒帆は、彼ら全員の首を戦士の国ボルシアと魔導の国シハルの前に差し出した。


 三国は仮初(かりそめ)の和睦を結んだ。


 長岐家は衰退した。村澤家が竜王の代理・・・竜代として、ミノウチ竜王国を統治する時代が訪れた。




 ーイシアがそう思っているなら仕方ないね。

 美春祝は席を立って或秀の隣に移動した。

 ーじゃあ、私もイサンくん、探しには行けなーい!

 そう言うと美春祝は、自分の腕を兄貴の首に巻いた。


 ーやめろ、ミハル。

 或秀がうんざりした様子で嫌がった。


 ーごめんね、ウィズ。

 ー・・・。

 ーアンタの陰険な兄さんのせいで、イサンの救出に行けなくて。


 それから美春祝は、勇幸を見て、

 ーねえ、イシア・・・アンタさあ、会合の時ぐらい、その不気味な覆面取りなさいよ。いつもそんな格好してるから、アンタどんどん(ひね)くれて行くのよ。

 勇幸は公務の間はいつでも自分の顔を隠すために、黒覆面を被っていた。


 ー・・・。

 ーミハル、それ以上言うな。

 雨泉浪が美春祝に警告した。

 ーイシアを中傷していいのは俺だけだ。


 雨泉浪は立ち上がり、或秀を見た。

 ーアルヒデ。いつか、お前と本気で殴り合うときが来るとしても・・・それはイサンの誘拐騒動に乗じた今じゃない。そうだろ。

 ー・・・。

 ーお前、そこまでダサい奴じゃないだろ。

 雨泉浪が或秀に右手を差し出した。


 ー・・・。

 ー・・・。

 ー君らは何か、大きな勘違いをしているようだな。

 ー・・・。

 ーイシアは私を長岐家復権に燃える、復讐の男かなにかだと思っているようだが。まあ、私について、イシアがどう思っていようとそれは自由だ。

 ー・・・。

 ーだが、仮にそのようなことを考えていたとしても、過去の例にならうようなことはしない。それもよりによってアレホだと・・・あんな小心者のクズがやったことを模倣などするものか。

 ー・・・。

 ー私は、イシアが命じてくれるのなら、喜んで城と製鉄所、双方の防衛を引き受けよう。

 或秀は立ち上がり、雨泉浪と握手した。


 勇幸は黙ったままだった。

 ーだとよ、イシア。

 雨泉浪が、それみよがしに言った。

 

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーじゃあ、捜索隊にはミハルシュクの他にウィズローも加わってくれ。

 ーほう。

 雨泉浪が意外そうな様子で微笑んだ。


 ー捜索の手順だが・・・竜冥山まで行き、落雷御殿に隊士数名が残り、食糧と通信の拠点基地を張る。捜索隊は竜冥山ならびにその周辺の人里をくまなく捜索し、イサンの手がかりが見つからなかった場合、《不可侵の森》へ行く。

 ー・・・。

 ー《不可侵の森》は大きく、深い。竜化して空からイサンを見つけるのはほぼ不可能に近い。

 ー・・・。

 ー勿論、火焔を吐いて木々を焼きながら前進する、などと言うのは言語道断だ。

 ー山賊を殺すのに竜化なんてする必要はないさ。

 雨泉浪が粋がった。

 

 ー《不可侵の森》に入ったらミハルシュク、君の能力に頼ることになる。

 ーイシア。

 ーなに。

 ーその呼び方やめて。

 ー・・・ああ、すまない。とにかくミハルの能力無しで、《不可侵の森》での捜索は不可能だ。


 ほどなくして会合は終わった。

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