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ミノウチ竜綺譚  作者: 葉色
第2章 ミノウチ竜たち
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11話 春華の庭

 

 イシア竜が帰城した頃には、既に夕暮れだった。

 勇幸は竜化を解くと、真っ直ぐに《炎伝の間》に向かった。


 《炎伝の間》の襖の前に立った勇幸は、見張りの隊士に向かって、

 ー月が出るまで眠らせてくれ。

 と言った。


 ーここに誰も入れるな。途中でウィズローやミハルシュクが帰ってきても報告するな。イサンが歩いて帰ってきても報告しなくていい・・・ボルシアの軍艦がミノウチ海から見えても、魔法使いが城下町に突然現れて、民衆をカエルに変え始めても、私には言わなくていい。

 ー分かりました。

 勇幸は広間の襖を閉めた。

 閉めると、勇幸は黒覆面を脱いだ。



 ほどなくして、ウィズロー竜とミハルシュク竜も、《春華の庭》に着陸した。


 二人は、帰城するまえに、落雷御殿に立ち寄り、現場を見たあと、隊士たちから状況を聞いてから帰ってきていた。


 城の歩哨が二人に駆け寄って、挨拶をした後、

 ーイシア様が日没後に、《狐春(こはる)の間》に来て欲しいと。

 ーイシアは今どこに?

 ー今は《炎伝の間》で休まれております。

 と伝えた。


 ーそうか。分かった。

 ー・・・それから、ウィズロー様。

 ー・・・。

 ー来客の方があちらに。

 ー?

 歩哨は色鮮やかな花が並ぶ、花壇の方向を見た。

 花々の影から、リフカが顔を出した。


 ー・・・。

 ー久しぶり、ウィズ。


 美春祝が雨泉浪の横に来た。彼女もリフカに気づいた。二人は目を合わせた。


 ーリフカちゃん。久しぶり。

 ーミハルちゃんも元気そうで良かった。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ー先に行ってるね。

 美春祝が雨泉浪に言った。彼女は城の中に下がった。


 残ったのは、リフカと雨泉浪だけになった。


 ーリフカ。久しぶり。

 ー・・・。

 ー良かったら庭を歩きながら話さないか?

 ーいい。すぐ終わるから。

 ー散歩したいんだ。付き合ってくれよ。心を落ち着かせたいんだ。

 ー・・・。

 二人は、絢爛な花や樹齢百年を超える木々が並ぶ、豪華な庭を並んで歩いた。


 ーさっき、イシアさんのミノウチ竜が、私の家がある方向・・・落雷御殿の方向へ、飛んでいくのを見た。

 ー・・・。

 ー何があったの。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーイサンが消えた。

 ー・・・。

 ー落雷御殿で山賊に襲われたんだ。

 ー・・・。

 ー御殿には・・・イサンを迎えに行った火焔隊士と、近くに住んでいる老人の遺体があった。

 ー・・・。

 ーそれから・・・。

 ー・・・。

 ー顔を炎で焼かれた、山賊の死体が。

 ーそんな・・・嘘だ。

 ー・・・。

 ーあの子は無事なの。

 ー分からない。


 《春華の庭》。

 花好きだった先々代の竜代の奥方の名前を取って名づけられたこの庭は、ミノウチ竜が竜化したまま、城内に着地出来るよう作られた、半径五十メートルほどの、広大な、やや楕円形に近い庭だった。


 庭には薔薇や菊などが植えられ、秋には白桃色のダリアの立派な花を咲かせた。

 ミノウチ竜の着陸スペースは土が埋めたてられているだけで味気なく、定期的に城の歩哨が、土ならしで見栄えを良くしていた。


 ー今朝、イサン君に会った。

 ー・・・。

 ー御殿に行く前に、家に寄ってくれて。朝ごはん作るの、手伝ってくれた。

 ー・・・。

 ーそのときに作ったおにぎり、まだ余ってるんだけど、食べる。




 美春祝は、城の第一層にある自分の寝室から、障子を開いて、雨泉浪とリフカの様子を覗き見ていた。

 それから美春祝は、無表情のまま自室へ戻り、着ている物を脱いだ。




 《炎伝の間》で仮眠を取るため、敷いた布団に横になっていた勇幸だったが、彼は興奮したまま、眠れずにいた。勇幸は苛立つように、寝返りをうった。




 雨泉浪はイサン竜の火焔で焼いたおにぎりをリフカから一つ受け取り、頬張った。

 食べながら、雨泉浪は、

 ーこれは確かに、立派なミノウチ竜の味だ。

 と呟いた。


 二人は庭に置いてある長い床几(しょうぎ)を椅子代わりに座り、おにぎりを食べていた。

 ー・・・クソ。

 ー・・・。

 ーあんだけ竜化すんなって。言っておいたのに。

 ー・・・。

 ー次に会ったら、ちゃんと褒めてやらないとな。人助けのために竜化したのか・・・偉いぞって。

 それから雨泉浪は、リフカの家で、勇参が勝手に火を吐いたことを詫びた。リフカは、気にしない、と言った。


 ーウィズ。

 ー・・・。

 ーこれからどうするの。

 ー・・・イサンを(さら)ったのが山賊の残党なら・・・奴らはまだそう遠くへは行ってないはずだ。だから、竜冥山を越えて・・・みんなでイサンを助けに行く。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ー私も探しに行く。イサン君を。

 ー・・・リフカ、それはダメだ。

 ー迷惑はかけない。それに竜冥山の向こう側に行くんでしょ・・・だったら尚更、あそこの地形に詳しい人間が必要・・・絶対行くから。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーいや、ダメだ。リフカ。それだけはさせない。

 ーウィズがダメでも知らない・・・イシアさんに直談判するから。

 ー・・・。

 雨泉浪は立ち上がった。話は終わり、立ち去ろうとしているみたいだった。


 ーとにかく、リフカが捜索隊に加わるなんて絶対ダメだからな。

 ー・・・。

 ー落雷御殿の近くは危険だ。しばらくは城で寝泊まりしてくれ。家の中に必要なものがあるなら、隊士と同伴してもらって行って・・・日中にだよ。いいね。

 ー・・・。

 ー・・・。

 ーなんでそんなこと言うの。

 ー・・・リフカには危険な目に遭って欲しくないから。

 ーなら、なんでずっと、私から離れようとしてるの。

 ー・・・。


 雨泉浪はそれには答えず、城の中に入って行った。

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