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ミノウチ竜綺譚  作者: 葉色
第1章 竜代家三男の誘拐
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1話 継火


 ミノウチ城は、海を背に築城された巨大な城で、春華(ハルカ)の庭は、城の第二層に作られた、巨大な庭だった。


 銀色の翼竜は、務めを終えると朝帰りした。


 翼竜は春華の庭に着陸すると竜化を解いた。

 解くと、一人の青年が姿を現した。青年は顔を黒い覆面で覆っていた。城の歩哨が青年に駆け寄って、


 ーイシア様。お帰りなさい。


 と(ねぎら)いの声をかけた。青年は、右手を軽く上げて、それを返事代わりとした。それから青年は、重たい足どりで、ミノウチ城のなかへ消えて行った。




 継火(つぎひ)


 それがあの銀色の翼竜が、夜な夜な国中を飛び回っていた理由であり、果たしてきた務めだった。


 辺境のミノウチ人が暮らしで使う明かりは、いまだ太陽がくれる日光と、ミノウチ竜が営火場(えいかじょう)に吐いていく火焔を、松明に移した灯火が(おも)だった。


 竜王国には、国民がミノウチ竜の火焔を貰うため、国の至るところに営火場が作られてあった。


 火が絶えないよう、ミノウチ竜が定期的に営火場を巡回して、火焔を吐き足すことを継火と呼んだ。




 城の中へ入った青年と入れ替わるようにして、歩哨の目を盗んで庭の草木から草木へ、身を忍ばせながら移動していたのは、背の低い少年だった。


 少年は地上にまで通じている螺旋階段の扉を開けて、階段を降りて行った。


 螺旋階段を降りると、裏門に通ずる一本道があった。その中途の道脇には、全長約二メートルの爬虫類生物、ミノウチトカゲ達が、トカゲ小屋で眠りについていた。何匹かは少年の気配に気づき、顔を上げ、目を見開いて少年を警戒していたが、少年が自分達から離れて裏門の方へ歩いて行くのを見ると、警戒を解いて再び目を瞑った。


 城を抜け出すと、少年は走り出した。城下町には、すでに多少の人だかりがあった。日の出とともに活動を始め、日暮れ前までに用事を済ませてしまおうとする、ミノウチの人々の朝は、貴族から平民まで、総じて早かった。


 少年は村澤勇参(イサン)という名だった。

 

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