第7話 友の尊厳を守りました! +500pt
この世界の食事は、ボソボソしたパンと野菜の切れっ端が浮いたスープ。
あとはひたすら豆だ。
うーん動物性タンパク……!
これじゃあ、立派な体格のマキナがお腹ペコペコになってしまうのも仕方ない。
今はフライドポテトを幸せそうにもりもり食べている。
たくさん食べてお腹いっぱいになってね。
そこへ、採集担当の移民希望者がやってきた。
彼ら、森からツノ女が出てこないから死んだんじゃないかって言ってた人たちだな。
「ツノ女が妙な服を着てるぞ!?」
「それに何食ってるんだ!? 俺達にもよこせよ!」
「いけません。これは私がミアンからもらったものです。全て私のものです。食べ物の恨みは深いですよ」
口調こそ丁寧だが、マキナの目は真剣というか、殺気すら感じる。
髪の間から伸びた二本のツノが、バチバチとイナヅマを帯びた。
うおーっ。
移民希望者の男たちはちょっと怖くなったらしく、距離を取った。
「き、聞いてるぞ。お前ら二人が異常な量の貢献ポイントを獲得したって! 何か不正をやったんだろ!」
「ツノ女め、その体を使って担当をたらしこみやがったな!? 俺たちの誘いは断ったくせによお!」
なんだかよく分からないが、とてもよろしくない事を言っている。
俺は彼女の友人として、きちんと言わねばなるまい。
「あのー、彼女は俺の友達なので、悪く言うのはやめてもらえると……」
「なんだあてめえ!」
「ヒョロっとした男がなんでツノ女と組んでるんだよ!?」
「お前が不正をやらかしやがったのか!」
こわあー!
だが、俺は知っている。
ポイントプログラムは、自らの意志で踏み出したものにポイントを与える。
ましてや、ここはマキナの尊厳が懸かっている場だ。
「俺は俺のできる限りの力を使って、薬草やキノコを集めた。マキナの服は俺が用意したものだ。彼女は何も不正なんかしていない。もちろん俺もだ。言いがかりはやめてくれ」
貢献ポイントを集めるために、UGWポイントを使ってはならないなどという決まりはないからな……!!
こっちだってポイント消費という代償を払っているのだ。
「ミアン……! 私のために言ってくれるなんて……」
「打算があってやってることだけど、でも友達を悪く言われるのは我慢できないからねえ」
移民希望者たちは怒り心頭という様子で、今にも襲いかかってきそうだ。
だが、そこにこの国の兵士みたいなのがワイワイやってきた。
「喧嘩が始まってるって話を聞いたぞ」
「やめろやめろー」
彼らが間に入り、この争いは終わった。
いやあ、怖かった!
なんていうか、目立つと目をつけてくる連中がいるんだなあ。
これはさっさと貢献ポイントを集めきって、壁の中に入ってしまいたい。
『ウグワーッ! 友の尊厳を守りました! 実績・友愛生まれるを解除! 500pt獲得!』
「また……また助けられてしまいました……! 私はミアンからもらってばかりです! 何か、何かお返しをしたい……。そうだミアン! 採集の一つ先にある貢献ポイント獲得方法である、狩猟をしませんか?」
「狩猟!?」
「はい。森には危険な生き物が多くいます。ですが、彼らはその毛皮や骨、爪に牙が道具の材料になりますし、肉は食用に使えるんです。ですから狩猟の需要もあるんですよ。今までの私では、空腹のあまり戦えませんでしたが……今ならいけます」
「なるほどー! それでポイント貯めを加速するのはいいかもしれないですね! 俺はそういう狩猟とかどうやれば分からないんですけど、マキナさん、何が必要かとか分かりますか?」
「刃物が必要です。それと……ミアン。そろそろ私に敬語を使うのはやめませんか? 私のこれは癖なのですけれど、ミアンは私に気を使っているのが分かって……。たくさんのものをあなたからもらっているのに、この上で気まで使われたら、私が差し出すものはもうこの体しか……」
あーっ、マキナがもじもじしている!!
「わ、分かりました! じゃない、分かったよ! 努力します……するよ」
女性とタメ口なんて初めてだぞ。
この世界、どうやっても俺をコミュ障から脱させるつもりだな?
今のやり取りだけですごいエネルギーを使った。
『ウグワーッ!! 心の壁を一つ取り去りました! 実績・開かれる心の扉解除! 500pt獲得!』
俺が内面で一歩踏み出すだけでポイントもらえるの!?
お得じゃん!
どこまでセーフなのかは、マキナに判定してもらいながらやっていこう……。
できて良かった、異世界の友達!
「それじゃあ、刃物を探すけど……。お買い物サービスで刃物ってあるの?」
『とてもいい質問ですね! カッターナイフの替刃から、天を切り裂き大地を割る邪聖剣ゼクロマンサーまで幅広いラインナップを取り揃えていますよ!』
「いきなり最下層から頂点まで開示しないで欲しいなあ!」
「またミアンが不思議な声を会話を始めました。私には何も見えないのですけれど……」
「あ、そうか。チャットボット、彼女にお買い物サービスの視覚を共有できないかな? マキナは有識者だから、お買い物に意見をくれると思うんだ」
『とてもいい提案ですね! アカウントの一部共有が可能です。これはあなたがお買い物サービスを使用している際、共有した方もその視覚情報を利用できるというものです。もちろん、お買い物はアカウント保持者であるあなたにしかできません』
「よし、それで! えーと、俺のアカウントのセキュリティ強化する必要あるの? 秘密の質問……。よし、母親の名前にしよう。よしえ、と……」
『アカウント一部共有サービスが使用可能になりました!』
「よし、視覚共有!」
『ウグワーッ! アカウント一部共有サービスを使用しました! 実績・運命共同体を解除! 500pt獲得!』
ついでにポイントまでもらえてしまった。
儲けた儲けた。
「う、う、うわーっ! 眼の前に不思議な光景が広がっています! なんですかこれは!? 目が回ってしまうほどたくさんの、モノ、モノ、モノ!! これが全て刃物なのですか!?」
「そうなんだ。俺じゃ判断がつかないから、マキナに選んでほしいなって思う」
「な、なるほど……。責任重大ですね。では……う、うわあ、竜殺しの魔剣がある……」
「ゲルムンク、66666ptだから手が届かないからね? 今後のことも考えて、2000から3500くらいのポイントで選んで欲しい」
「あ、なるほど。予算を決めてもらうと選びやすいです」
『ご予算について設定しました! ラインナップを更新します!』
並んだ商品群が入れ替わった。
商品の説明文は、俺には日本語に見えるんだけど……マキナの目には人竜族語に見えているようだ。
多言語対応なんだなあ。
「これがいいですね。これにしましょう!」
選択されたのは、一見すると短めの薙刀みたいな武器だ。
「肉食獣やこちらに攻撃を仕掛けてくる獣の類は至近距離でいいのですが、薬草を食い荒らす鹿は逃げるのです。ですが、この武器はどうやら……刃を飛ばすことができるようなのです! 見たことがない武器ですが、いいですね。私は人竜族の中でも飛び抜けてチャレンジャブルな娘と言われていましたから、あえてここでも新しい武器を選びますよ」
マキナ、ウキウキしてない?
値段は……3500pt!!
予算上限ピッタリか!
ショット薙刀という武器だ。
先端が空気圧で射出されるけれど、ケーブルで繋がっているのでこれを巻き戻すことができる。
刃物と飛び道具を兼ねた武器というわけだ。
お買い物してすぐに、ショット薙刀がプチプチで梱包されて眼の前に届いた。
これ、アイテム系も置き配で到着するから、きちんと周囲に意識を配っていないと誰かに持っていかれる危険があるな。
気をつけよう……。
ショット薙刀を手にしたマキナが、これをブンブン振り回している。
「ふむ、仕掛けがついている分、先端が重いですが……。人竜族の力があれば何の問題もありません。これで行きましょう!」
『ウグワーッ! 初めて武器を購入しました! 実績・バトルマスターの入口を解除! 500pt獲得!』
◎現在のポイント:2986pt(また貯めていかねば……!)
貢献ポイント :155ポイント
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