第3話 初めての人命救助をしました! +1000pt
本当に手ぶらなのは俺くらいのようだ。
採集を選んだ俺は、おっかなびっくり、薄暗い森の中を目指す。
「チャットボット。こういう山歩きで必要なものってなんだ?」
『とてもいい質問ですね! ご希望の道具は、照明、そして採取用の軍手、収納用の籠になります』
お買い物サービスに、該当の商品が提示される。
一番安いのは10pt、一番高いのは1000pt!?
うーむ、違いが分からない。
一番安いのは怖いから、それぞれ30ptくらいのものにしておこう。
俺の片手に松明が出現する。
両手のひらが軍手で覆われ、松明を持たない方の腕には籠がぶら下がっている。
「完璧。それじゃあ行こうか」
森の中に一歩踏み入れると……。
『ウグワーッ! 新たな一歩を踏み出しました!』
「うわーっ! この実績解除のフレーズ、状況によっては心臓に悪いな……」
『実績・冒険の第一歩を解除! 200pt獲得!』
おっと、嬉しいポイント量だ。
これで、さっき購入したぶんのアイテム代がチャラになってお釣りが来る。
ホクホクしながら、森の中を歩く俺だ。
幸い、先行している人たちの足跡がそこここにあり、迷うことは無い。
だがそれはつまり、既に誰かが通った道を歩くことになる。
採取の対象となるのは、食用、薬用になる草木とキノコ。
よく考えたら、俺はそういうのに詳しくないし、先行した人に全部取られてしまっているのではないか?
「こりゃあまずい。ポイントを使って何かいいのを買おう。例えば……貢献ポイントの対象になる草木やキノコが分かるアプリとか! そういうアプリはある?」
『とてもいい質問ですね! こちらの探索アプリを使えば、一定距離までの対象物を探せますよ!』
「AIみたいな返答してきたな? ピックアップ感謝! では、ダウンロードしてインストールして……ええっ!? 基本無料!? ありがたーい!」
ほくほく顔で探索アプリ……The・探索を起動する俺。
探索条件を打ち込む場所がある。
ええと、貢献ポイント対象、と。
『The・探索が探索対象を認識しました。半径10m以内の対象を表示します』
「よしよしよし、いいぞいいぞいいぞ」
『その前に、15秒間のCMをご覧いただくとこのサービスがご利用可能になります』
「な、なんだってー!?」
基本無料の落とし穴だ!!
カード会社からのヒロイックでうるさいCMが流れ始めた!!
俺はすぐさま、このアプリの使用権をランクアップする。
FREEから、PREMIUMへだ!
うおおお、虎の子のポイントが500pt消えた!
基本無料だけどCMが出ないようにするために、かなりポイント食うじゃないか!
『次回からCMなし、などの条件をご提示下さい!』
「次からは絶対そうするからな!」
このチャットボット、ポンコツかも知れない。
アプリの探索能力だけは確かだった。
ソナーのような画面が表示され、俺の周囲に点々と貢献ポイント対象の草木が表示される。
「種類までは分からないんだな」
『そちらはアプリ内課金で拡張するシステムになります』
「世知辛い……」
もっとポイントが増えたら拡張しよう。
今はこれで十分だ。
一見して、対象となる薬草とそっくりな草木がある。
だけど探索アプリが反応しないため、これは対象外だと分かる。
よく似た毒草だったりして。
探索アプリが示す対象物を採集しながら、俺は森の奥へと進んでいった。
おっと、ここには対象のキノコがある!
どれどれ……。
おや?
つま先にふにゃっとした柔らかな感触が。
アプリから目を離し、足元を見る……。
そこには、人が横たわっていた。
「…………。うわーっ!!」
そりゃあ驚くって。
アプリを見ながら歩いてはいけません!
今後、気をつけます!!
「死体か……?」
倒れている人の周りをウロウロする俺。
アプリは、この人の下敷きになっている場所を指し示している。
その人は、手にキノコを握りしめていた。
齧った跡があるな。
一見すると、採取対象のキノコそっくりだが……アプリは反応していない。
毒キノコじゃないか?
倒れている人をチェック。
金色の髪が、森に差し込む木漏れ日を受けて煌めいている。
髪の間から二本のツノが生えていた。
整った顔立ちは、眠っているかのように穏やかだ。
大きく膨らんだ胸が上下している。
生きているな。
眠ってるのだろうか?
「っていうか女の人じゃん」
いかんいかん、胸を凝視していたぞ。
彼女は長袖のシャツみたいなのを着ていて、下半身は短パンだった。
真横に太い、ヘビみたいなものが飛び出している。
……尻尾だ!
「ツノと尻尾がある美女だぞ! 人間じゃないってわけか! ……いやいや、この世界では人間かも知れない。おーい。女の人ー。寝てるんですかー」
声を掛けてみる。
反応はない。
顔をぺたぺた叩いてみた。
反応がない。
「これはまずいかも知れない。毒か? 毒じゃないか? チャットボット」
『The・探索のアプリ内課金をご利用下さい』
「くっそー! 人命には代えられないだろ! ポイント課金だ! 毒を判定してくれ!」
手持ちのポイントが一気に吸われる……と思ったら。
『ウグワーッ! 初めて誰かのためにポイントを消費しました! 実績・黄金の精神Lv1を解除! 1000pt獲得!』
「えーっ!? い、いや、そんなことより! アプリ起動!」
The・探索の毒物判定機能を使用する。
『コンスイタケ。素晴らしい香りと食味だが、口にしたものを永遠の眠りに誘い、一晩で殺す。その肉体を苗床にして繁栄する』
「最悪の毒キノコじゃん! どうやって毒を解除する!?」
『調理されたコンスイタケは体内で素早く分解、吸収されているために物理的な手段では解除不可能。解毒の魔法かポーションを使用すること。生のコンスイタケの場合はまだ胃の中で未消化な場合があるため、吐き出させることで解毒できる』
消化されてないのに毒の力を発揮するってわけか!?
まあいい、助かるならやってやろう!
酔っ払った人に吐かせる方法は、ネットで調べて知っているんだ。
俺はツノの生えた女性の口を開くと、喉の奥に指を突っ込んだ。
うおっ、生暖かくてぬらぬらしている。
まさか人生で初めて女性に深く接触するのが、毒キノコを吐かせるためだとは……。
ツノの生えた女性は、すぐに生理効果でオエッとなった。
全力を込めて彼女をうつ伏せに……おおーっ! 出てきた! 胃の中のものが出てきた!
その中には、かじりかけの生キノコが混じっている。
「おえーっ! おえええっ! げほっ、げほーっ! うげーっ!! ひ、ひどい、ひどい目覚めなんですけどーっ!!」
ツノの生えた女性がそんな事を言いながら、胃の中のものを吐ききったようだった。
よしよし、蘇生した!
『ウグワーッ! 初めての人命救助をしました! 実績・命の守り手Lv1を解除! 1000pt獲得!』
「えーっ!? な、なんか善行を積んだら、ポイントを使ってポイントが増えてしまったんだがーっ!? これはポイントの永久機関じゃないのかぁーっ!?」
◎現在のポイント:2010pt
貢献ポイント :0pt (指定の場所に納品しなければポイントになりません!)
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