第1話 ウグワーッ!異世界に転生しました!+1000pt
今俺は、自室でのたうち回っていた。
苦しい。
死ぬ……!
ちょっと体調不良を放っておいたこれである。
息も絶え絶えな中、スマホのアプリを起動する。
「きょ……今日のデイリーポイ活を消化……してない……」
UGWPAYを開き、そこに見慣れぬ表示があることに気づく。
『お誕生日おめでとうございます! プレゼントをご用意しました! この中から好きなプレゼントボックスを選んで下さい!』
「はぁ、はぁ……。そうか……今日は誕生日だった……。会社でも誰とも会話しないから、日にちの感覚が曖昧だった……。プレゼントポイント……得した……得した……」
息ができなくなっていく。
意識が朦朧とする。
待て、待ってくれ!
せめて……せめて、プレゼントポイントを獲得させてくれ!
人間関係も仕事も、どこにも居場所のない俺にとって、このポイ活が全てなんだ……!!
俺の指は、プレゼントボックスの一つを選んだ。
それは、トゲトゲの妙な形をした箱。
開くと光が漏れ出した。
『ウグワーッ!100pt獲得!』
「や……やった……!」
デイリーポイ活は、せいぜい2ptとか3pt。
これをちまちま貯めるものだ。
たまに大当たりで20ptくらい当たる。
それが100pt!?
大当たり5日分じゃないか。
瀕死の状態にあることを忘れ、俺は微笑んでいた。
そして薄れゆく意識の中、ポイントの横に付記された文章を流し読みする。
『お誕生日記念に、異世界転生サービスをご案内します!』
……なんだって?
俺の意識は、闇に飲み込まれた。
……と思ったら、ぱっと目覚める。
明るい。
家の中の明るさではない。
外だ。
「いつの間にか外にいる……!!」
『ウグワーッ! 異世界転生しました! 実績・異世界転生を解除しました。1000pt獲得!』
「うおーっ!! なんだーっ!?」
突然脳内で鳴り響いた声に、俺は驚いた。
何が……何が起こっているんだ!
それにこのウグワーッは、UGWPAYで会計した時に鳴り響く音ではないか。
謎の声は続ける。
『さあ、UGWPAY、ポイントブログラムに参加してみましょう! エキサイティングな日々を送り、ポイントを貯めましょう!』
俺の視界に、表示が出現した。
ゲームで言うステータス画面のような……。
アイテム、装備、スキル、ステータス、仲間、お買い物……。
この6つの表示があるが、どれにも触れることができない。
その前に一つのウインドウが開いているからだ。
『UGWPAYポイントプログラムに参加しますか? YES/NO』
「ポイント……ブログラム……!? ポイントと言われたら、参加したくなるのがポイ活趣味の性だよな」
躊躇することなくYESボタンを押した。
すると、脳内で『ウグワーッ!』という声が鳴り響く。
『ポイントプログラムへのご参加ありがとうございます! このプログラムは、あなたが行動することで様々な実績を解除し、実績に対応したポイントを付与するものです』
「ほうほう」
メッセージは、言葉だけではなく文章でも表示される。
分かりやすくて助かる。
俺は言語より、文章読み書きの方が得意だからな。
『なんでも行動をしてみましょう! そうすることで実績が解除され、ポイントを得ることができます! 貯めたポイントは、ポイントお買い物で使用することができます! アイテム、武器、防具、仲間、全てはポイント次第です!』
「ほうほう……仲間……? えっ!? 今、仲間っつった!?」
『まずは異世界転生したポイントで、装備を整えてみましょう! わからないことはヘルプボタンを押して下さい! UGWPAYチャットボットがお答えします!』
よし分かった。
なんだか怒涛のような流れで混乱しているが、とにかくよく分かった。
「俺は異世界転生した。つまり、現実の俺は死んだ」
指を一本立てる。
「俺は異世界においても、ポイ活できる」
二本めを立てる。
「何かするとポイントが貯まる」
三本目を立てる。
「ポイントでお買い物ができる」
四本目を立てる。
「そしてここは……」
ステータス画面が閉じ、俺の視界が一気に開けた。
そこは、入口だった。
ファンタジーっぽい世界の、街に入るための入口。
門番たちが検問を行っている。
俺の姿を認めた一人が手招いた。
ひい、第一異世界人!
ただでさえ人見知りをする俺は、他人と喋るのがとても苦手なのだ!
しかも異世界人だ。
言葉が通じるとも限らない……。
「$$¥&#$*@$%&」
「ほらあー!! こ、こういう時はチャットボット! 頼むーっ!!」
『ポイントを使ってみましょう! まずはポイントお買い物で、異世界語翻訳アプリをお求め下さい!』
「なるほどー。的確なアドバイスだ」
俺は兵士がまくし立ててくる言葉の中、震える指でステータス画面のお買い物ボタンを押す。
そして、検索欄に異世界語翻訳と書き込んだ。
出てきた!
なになに、100pt?
やすぅい!
購入決定!
『ウグワーッ! 初めてのお買い物をしました! 実績・初めてのお買い物を解除! 100pt獲得!』
買うと同時に、異世界語翻訳アプリが動き出した。
っていうか、100pt買って100pt獲得って、実質無料じゃん!?
うおおお、儲けた! 儲けた!!
アプリが起動すると、兵士の言葉が分かるようになった。
「おーい、聞こえてるか? 紹介状か移民許可証は持ってるかって言ってるんだ」
「あっあっ、すみません持ってません」
出した声は驚くほどカスッカスだった。
仕事の日以外は他人と会話しないからな。
喋り方すら忘れることがある。
怒られるかな? と思ったら、兵士は平然とした様子だった。
「あー、そうかー。移民希望者なんだな? よし、じゃあ向こうの城壁に設けられた建物あるだろ。あの人が並んでるやつ。あそこで貢献活動に参加してくれ。詳しくは向こうで説明してくれるから。貢献ポイント貯めれば、一時的に移民になれるからさ」
「ポイント!? 今、ポイントといいましたか!!」
ポイントの響きに、俺の脳が覚醒!
目が見開きギラギラ輝くのを自覚する。
「お、お、おう!? そうだぞ。ポイントを集めればいいからな……!」
「わかりました! なんだ、この異世界もポイ活できるんじゃないか! UGWPAYのポイントと、この世界のポイント……。これは楽しくなってきたぞう!!」
◎現在のポイント UGWポイント:1000
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