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第三話:経歴は武器になる

夕陽に染まる石畳の向こう、鎧姿の男たちがゆっくり近づいてくる。

 胸当ての紋章は赤い斜線の上に黒い拳。王都の管理を拒む**傭兵団アイアン・クロー**だ。

 先頭を歩くのは髭面の大男、ザグラス。片目は傷で潰れ、残った瞳は鋼色に光っている。


 「お前らか。“ジョブ改変”なんて妙な真似をしてるって噂の」

 声は低く、通り全体を震わせる。

 ミレイがわずかに身を引いたが、凌は一歩前へ出た。


 「その呼び方は心外ですね。私は単に、人の経歴を正しく整えているだけです」

 「屁理屈だ。魔紋をいじるのは禁忌だろうが」

 「いじってません。本人が本来持っている能力や経験を“正しく”表に出しているだけです」


 ザグラスの背後で部下たちがざわつく。

 凌はゆっくりポケットから白紙カードを取り出し、ミレイに向けて掲げた。

 その表面に、淡い光と共に新たな経歴が浮かび上がる。


氏名:ミレイ

ジョブ:衛生守サニタラ〈サブ:掃除人〉

実績:疫害種ネズミ駆除(ギルド依頼完了率100%)、街区B-12防衛、危険環境作業継続記録更新

特記事項:命令系統を無視せず、現場判断を迅速に実行可能


 凌はカードをひらひらさせ、わざとザグラスの目に入る角度で見せた。

 「こういう人材を“掃除人”と呼ぶのは、損だと思いませんか? 適材適所を見極めることは、戦力の最適化そのものです」


 ザグラスの眉がわずかに動く。

 彼は腕を組み、しばし黙り込んだ後、にやりと笑った。

 「……お前、口が回るな。だが俺は信じねぇ。証明してみせろ」

 「証明?」

 「うちの手下のジョブ、変えてみろよ。そいつは“盾兵シールドマン”だが、最近の戦いじゃ役に立たねぇ。三日以内に改善できたら——お前を見逃してやる」


 ミレイが小声で囁く。

 「やばいよ、あの団体はギルドとも揉めてる。断ったら……」

 「断らないさ」凌は笑った。「これは依頼だ。しかも、結果を見せればこっちの評判にもなる」


 ザグラスは部下の若い男を呼び寄せた。

 肩幅は広いが、表情は覇気がない。背負った盾は使い込まれ、縁は欠けている。

 「名前は?」

 「カイン……です」


 凌はうなずき、質問を始めた。

 ——戦闘でよくやる動きは?

 ——盾で弾く以外の経験は?

 ——過去に仲間を救ったことは?


 カインは最初、言葉少なだったが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

 自分は盾で守るだけでなく、敵の視線を集める動きが得意。

 かつて小隊が挟み撃ちにあった際、単身で前に出て相手を引き付け、全員を撤退させた。

 盾の扱いだけでなく、足運びや声掛けで敵の集中を操作する技術を持っている。


 ——なるほど、“盾兵”じゃなくて……。


 凌はカードに指を置き、経歴を“語り”として構築する。


氏名:カイン

ジョブ:挑発守プロヴォーグ・ガード〈サブ:盾兵〉

実績:小隊退路確保(挟撃回避成功)、敵集中的引き付け時間平均+35%、集団戦での被弾集中率トップ

強み:足運びによる位置取り/敵心理の操作/仲間防護意識


 カードが光り、カインの手首の魔紋が一瞬、赤く脈打った。

 カインは驚き、盾を構えてみる。

 「……重さの感覚が、変わった?」

 凌は頷く。

 「それは君の本来の役割に合わせて、魔紋が最適化されたからだ」


 ザグラスがにやりと笑う。

 「三日なんて言ったが……今ので十分だ。面白ぇ。お前、ギルドだけじゃなく、俺たちにも協力しろ」


 凌は軽く肩をすくめた。

 「私は顧問です。依頼と報酬次第で、誰とでも組みます」


 ミレイが小声で囁く。

 「これ、両方と関わるの……危なくない?」

 「危ない。でも、両方を知っていれば、もっと大きな地図が描ける」


 夕暮れの王都、二つの勢力の間で、凌の立場は静かに揺れ動き始めた。

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