第十話:揺れる二つの陣営
廃墟での会談から数日後、凌はレノスの存在が単なる一人の改変士ではないことを感じ始めていた。
ギルドと《アイアン・クロー》——二つの勢力の間に、彼を背後で操る第三の影がいる。
そして、その影がついにギルド側の戦線をも蝕み始める。
ギルド本部の会議室。
オルヴァの机には、数通の急報が重ねられていた。
「北防衛線の第二班が全滅しかけた。原因は……改変だ」
凌は息を呑む。
「俺は関わっていません」
「わかっている。だが、現場で確認されたカードには赤い線があった」
ミレイが険しい顔をする。
「……レノス」
「間違いない」凌は低く答えた。
報告書によれば、防衛線の部隊は短期間で異常な戦闘力を発揮したが、長期戦に耐えられず、逆に反動で動けなくなった。
これは西の《アイアン・クロー》での症状と酷似している。
オルヴァは机に肘をつき、鋭い視線を送った。
「凌、奴は単にお前の力を真似しているだけではない。背後に支援者がいる。
改変士を育てられる組織か……あるいは、この“語り”の力を根本から知る者だ」
凌は胸ポケットの白紙カードを撫でた。
「第三勢力、ってことか」
「そうだ。奴らはギルドと《アイアン・クロー》双方を揺さぶり、均衡を崩そうとしている」
ミレイが不安げに問う。
「じゃあ……私たち、両方から狙われる?」
「可能性は高い」凌は短く答えた。
「だから、こちらから先に動く」
その直後、会議室の扉が乱暴に開き、ギルド兵が飛び込んできた。
「南街区で暴動です! 参加者の一部が……赤い線のカードを持っていました!」
オルヴァの表情が固まる。
「……民間人にまで広げてきたか」
凌は立ち上がり、腰のポーチにカードを詰め込む。
「現場を押さえる。奴らのやり方を直接見て、何を狙っているのか掴む」
会議室を出ると、ミレイが並んで歩く。
「これ……ただの争いじゃなくなってきてるよね」
「そうだ。もう“人材の最適化”じゃ済まない。世界の仕組みそのものが揺らぎ始めてる」
南街区の通りから、怒号と悲鳴が響く。
そこには、凌がまだ見たことのない“赤い線の経歴”の応用が待ち受けていた——。