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第9話 Ⅱ号15cm自走重歩兵砲

「本車輛は前型に当たるⅠ号15cm自走重歩兵砲の高い評価を受けて開発しました。車体がⅠ号からⅡ号戦車へ移行したことで、全体的な性能向上はさることながら、新たな機構を取り入れています」


Ⅱ号15cm自走重歩兵砲。

フランスの戦いで投入されたⅠ号15cm自走重歩兵砲は、多くの問題を抱えつつも、歩兵たちから絶大な信頼を勝ち取った。

何より砲兵部隊から「15cm sIG33が格段に扱いやすくなった」との報告が寄せられていた。


勝流も現地派遣の中で、その事実を肌で実感していた。

この経験を受け、Ⅰ号戦車型の反省点と課題をもとに新たに開発されたのが、Ⅱ号戦車型である。


改造要領はⅠ号戦車型と同様である。

Ⅱ号戦車C型から砲塔と上部構造物を取り去り、そこに新たな戦闘室を設けた。


戦闘室は前面20mm、側面および後面15mmの装甲板で囲まれたオープントップ式。

側面と後面は内部容積を広げるため3枚で構成され、中央部が外側に張り出しているのが特徴的である。

前面装甲板左側には操縦手用のバイザーが設けられ、その後方の側面にも視認用バイザーが追加された。


外観は、史実で量産されたグリレH型に酷似している。


挿絵(By みてみん)


もっとも、勝流が意識してそうしたわけではなく、与えられた条件の中で合理性を突き詰めた結果だった。


そして勝流の判断によって、Ⅰ号戦車型との決定的な違いが生まれた。

それは、砲の分離運用を完全に捨て、車載運用に特化させたことである。


これにより、15cm sIG33は車載専用の設計に改められ、脚や車輪を省いたスマートな機構となった。

その結果、乗員の作業スペースが広がり、弾薬の搭載量も増加した。


挿絵(By みてみん)


この搭載機構は完全な新規設計であり、アルケット社の技術者から「難題だ」と渋い顔をされた。

だが勝流は、記憶に残っていた史実のグリレH型の構造を捻り出し、設計として形にしたのである。


挿絵(By みてみん)


戦闘室の装甲はⅠ号戦車型の10mmから増加し、前面20mm、側背面15mmとなった。

これでも戦場においては決して十分ではない。

しかし、重量との兼ね合いでこれ以上の増加は不可能だった。


Ⅰ号15cm自走重歩兵砲の反省を踏まえて、純粋な進化を遂げた車輛であった。


(結局、見た目はグリレH型に似てしまったな……意識したわけではないが)


Ⅰ号15cm自走重歩兵砲の時は、史実と同じ車輛を「再現」しただけだった。

だが今回は違う。勝流が自らの判断で設計し、この世に初めて生み出した新型である。


走行試験が始まった。

平地での最高速度は35km、悪路でも25kmを維持。


「悪くない。これなら前線部隊に追従できる」


レープ局長はまずまずの反応を示し、ハルダー参謀総長も無言で頷いた。


続いて砲撃試験。

新設計の搭載機構が問題なく機能するのか、視線はその一点に集中する。


「すまないが、戦闘室に入らせてもらえないか。直接、動きを見たい」


ハルダー参謀総長の要望に、勝流は即座に応じた。


「是非ともご確認ください!私も同乗させていただきます」


戦闘室に入り、各部を入念に観察するハルダー参謀総長。

その鋭い視線に、勝流は酷く冷や汗をかいた。


(頼むから何事も起きないでくれよ……!)


砲撃地点へと進むわずかな時間でさえ、勝流には長く感じられた。

社会人の頃の、胃が痛くなるような記憶が嫌でも蘇る。


そして、砲撃位置に到着した。


15cm sIG33が火を噴き、轟音とともに目標を粉砕する。


新設計の搭載機構は問題なく作動しており、砲撃の反動吸収や、車体の揺れ具合も許容範囲に感じる。

問題なのは戦闘室の作業スペースだが、見たところ、特に不自由は無さそうである。


気付いたら、ハルダー参謀総長が車長用に設けられた椅子に座っていた。


「如何でしょうか、ハルダー参謀総長」


「ふむ……確かに良い車輛だ」


ハルダー参謀総長は短く評した。しかし、その声の真意を測りかねて、勝流の緊張はまだ解けなかった。


全ての試験を終え、レープ局長が総評を下す。


「Ⅱ号弾薬補給車、並びにⅡ号15cm自走重歩兵砲は……採用決定とする。正式な依頼は後日通達する」


ハンス少尉と勝流、第4課の面々は胸をなで下ろす。

その後方で、クラウス課長は誰にも気付かれぬよう、小さくガッツポーズをしていた。


解散後、クラウス課長に呼び止められた勝流は、二人きりで話をした。


「まず、祝いの言葉を。アルデルト少尉、おめでとう!よくやった。第4課の課長としてこれほど嬉しいことはない」


「ありがとうございます!」


軽く今回の計画について話した後、クラウス課長が本題に触れた。


「これから話すことは最重要機密、他言無用だ」


「はっ!」


最重要機密ということで、勝流は意識を改めた。


「新型自走砲の計画を依頼する。使用する車輛は、以前君が提案したロレーヌ37Lだ。仕様はこの資料にある」


「……これが最重要機密ですか。至って普通の計画に感じられますが」


「そう思うか……さて、誰からの依頼だと思うかね?」


「クラウス課長か……あるいはレープ局長……でしょうか?」


「違う。もっと上だ」


クラウス課長の口から出た依頼主は、勝流を大きく驚かせるものだった。


「もっともっと、上からの命令だ……一番上からな」


こうして、Ⅱ号15cm自走重歩兵砲を完成させた勝流に、さらなる開発が待ち受けていた。

載せている写真は、すべてグリレH型のものです。

ただし砲の搭載機構については、正直なところ何とも言えません。

ネットの深海を潜り続けて、ようやく見つけた写真でして……汗

これをグリレH型に搭載された15cm sIG33のものと言い切れないのです。

出所は、当時のマニュアルと思しき図版からです。


しかしながら、これ以外に情報を見出せなかったので、苦渋の策ということで。

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