第10話 華金の秘密♡ ~バックヤードの熱い吐息と、お揃いのティント~
「――この赤、本当に私に似合うのかな……でも、スイ先輩の瞳が、こんなにも熱く私を見つめている……。華の金曜日、ちょっぴり大胆になっても、神様は許してくれるかしら……? それとも、これもまた、あの甘い香りのせい……?――」
金曜日の夜。「太夫」日本本店のバックヤード休憩室は、フロアの喧騒とは裏腹に、ほんの束の間の静寂と、そして微かに残る夢魔リリィの甘い香りに包まれていた。
サキは、自分のロッカーの前で、小さな紅色のティントを手に、鏡の中の自分と睨めっこをしている。それは、昨日の騒動の後、スイ先輩から「お守り」として渡されたもの。
華やかな喧騒、週末への高揚感、そして、胸の奥で静かに疼く、新たな感情の予感――。
乙女たちの秘密の時間が、今、始まろうとしていた。
会員制茶屋「太夫」日本本店・リュウカの私室 – その日の早朝
ミャウリ「(伸びをしながら、金の首輪の鈴をちりんと鳴らす)ふぁ~あ……。リュウカよ、今日の『太夫』は、朝からなんだかソワソワ、キラキラした空気が漂っておるニャ。週末前だからか、乙女たちの“恋力”みたいなものが、むくむくと湧き上がっておるのを感じるのじゃ!」
ミャウリ「(リュウカの書き物机に飛び乗り、羽根ペンをちょいちょいと前足でつつく)今日のサキとスイの運勢は……ニャンと!『華金・ドキドキ急接近度:星4つ☆☆☆☆』! そして、『秘密のお揃い成就確率:77%』だニャ! これは、何か甘酸っぱい展開が期待できそうだニャン♡」
ミャウリ「ただしニャ!『黒い蝶の囁き・要注意度:星3つ☆☆☆』も出てるからニャ! 甘い雰囲気の時ほど、心の隙間にスルスルと入り込んでくる邪な誘惑には、くれぐれも気をつけるよう、サキには伝えておくのじゃぞ? 今日の吾輩からのバフは、『誘惑ブロック&平常心キープ・ちょっぴり強化版ニャ!』だ!」
リュウカ「(ペンを置き、ミャウリの頭を優しく撫でる)まあ、サキさんとスイさんに、そんな素敵な運勢が出ているのですか。それは楽しみですわね。恋の試練は、時に二人をより強く結びつけるものですもの。黒い蝶……カスミの気配は、まだ『太夫』の周りを漂っているようですわね。わたくしも、結界の監視は怠りませんけれど……」
リュウカ「(窓の外に広がる銀座の街並みを見つめ、ふっと息を吐く。その瞳には、一瞬だけ、深い憂いと、そして何かを決意したような強い光が宿る)……乙女たちの純粋な想いが、邪なものを打ち破る盾となりますように」
会員制茶屋「太夫」日本本店・二階バックヤード休憩室 – 金曜日の営業終了間際
(フロアからは、華やかな音楽と、楽しげな話し声がまだ微かに聞こえてくる。メイドたちは、一日の仕事を終え、安堵の表情と週末への期待感を滲ませながら、三々五々休憩室に戻ってくる。サキも、少し疲れた顔をしながらも、どこか達成感に満ちた表情で自分のロッカーへ向かう)
ハナ「お疲れサキー! いやー、今日の華金、マジで戦場だったねー! でも、こんだけ頑張ったんだから、週末は思いっきり楽しんじゃうもんねー! あたし、明日は朝イチで新作コスメの限定セット買いに行くんだー♡」
ハナ「(スマホでコスメ情報をチェックしながら、キラキラした目でサキに話しかける。その声は、疲労感よりも期待感で弾んでいる)」
ユナ「サキさん、ハナ様、お疲れ様ですの。わたくしも、今日はたくさんのお客様とお話できて、とても勉強になりましたわ。明日は、カエデ様と、人間界の『映画館』という場所へ参りますの。どんな物語が待っているのか、今から胸が高鳴りますわ…♡」
ユナ「(頬をほんのり染め、どこか夢見るような表情で語る。彼女の猫耳が、嬉しそうにぴこぴこと動いている)」
サキ「ハナ先輩、ユナさん、お疲れ様です! 本当、今日はすごかったですね! 私も、お客様に『笑顔が素敵ね』って褒めてもらえちゃいました! ちょっとだけ、自信ついたかも…です!」
サキ「(少し照れくさそうに微笑む。彼女のイエベ春の肌に、ほんのり上気した血色が可愛らしい)」
(そこへ、フロアの最終確認を終えたスイが、ゆっくりとした足取りで休憩室に入ってくる。その表情は、いつものようにクールだが、どこかサキの姿を探しているような、そんな雰囲気があった)
スイ「……お疲れさん、サキちゃん。今日もよく頑張ったニャン♡」
スイ「(サキの隣に自然に立ち、その頭をポンポンと軽く撫でる。その仕草は、まるで妹を労う兄のようでもあり、あるいは…)」
サキ「ひゃっ! ス、スイ先輩! お疲れ様です! わ、私なんて、まだまだです…!」
サキ「(突然のスイのスキンシップに、心臓がドキリと跳ねる。スイ先輩の手の温もりが、頭から伝わってきて、顔が熱くなるのを感じる)」
ハナ「(ニヤニヤしながら二人を見つめる)おやおや~? スイ先輩、サキたんのこと、めちゃくちゃ可愛がってますわね~♡ まるで、手塩にかけた子猫ちゃんを愛でる、みたいな?♡」
ユナ「スイ様とサキさんの間には、本当に温かくて素敵な絆がおありですのね……。見ているこちらまで、心がぽかぽかしてまいりますわ」
ユナ「(優しい眼差しで二人を見守る)」
スイ「(ハナの言葉を軽く受け流し、サキの顔をじっと見つめる)……なぁ、サキちゃん。今日のリップ、いつもと違うニャン?」
スイ「(その声は、少しだけ低く、そして甘く響く。スイの瞳が、サキの唇に吸い寄せられるように注がれている)」
サキ「えっ!? あ、はい! 今日は、華金なので…その、ハナ先輩に教えてもらった、ちょっとだけキラキラするグロスを、いつものリップに重ねてみたんです……へ、変じゃないですか…?」
サキ「(スイの真剣な眼差しに、さらに顔を赤らめながら、自分の唇を気にするように指で触れる。昨日のスイ先輩の言葉や、ミャウリ様の鈴の音が呼び覚ました「純粋な愛の記憶」が、心の奥でざわめいている)」
スイ「変なわけないニャン♡ ……むしろ、すごく……そそる色だニャ♡」
スイ「(サキの顎にそっと手を添え、その顔を自分の方へ向かせる。二人の顔の距離が、一気に縮まる。バックヤードの少し薄暗い照明が、スイの瞳を妖しく光らせる)」
スイ「……サキちゃん、今日のリップ、いつもと違うニャン?……すごく、そそる色だニャ♡」
スイ「(バックヤードの片隅。スイがサキを壁際にそっと追い詰め、熱っぽい瞳で見つめている。サキは顔を真っ赤にしながらも、潤んだ瞳でスイを見上げている。二人の顔が、ゆっくりと、そして確実に近づいていく――)」
サキ「(うぅ……スイ先輩の瞳……吸い込まれそう……! 昨日の夢魔リリィさんの香りが、まだ残ってるのかな……? それとも、これは、本当に……私の気持ち……? でも、こんなに近いと、心臓の音が聞こえちゃいそう……!)」
サキ「(スイの熱い吐息が、自分の頬にかかるのを感じる。甘いような、でもどこかスパイシーな、スイ先輩だけの香りが、サキの理性を揺さぶる)」
スイ「……なぁ、サキちゃん。あたしが昨日あげた、あの赤いティント……使ってみる気になったかニャ?♡」
スイ「(その声は、囁くように優しく、そしてどこか切実な響きを帯びている。スイの指が、サキの唇の輪郭を、そっとなぞる)」
サキ「あ……あのティント……。も、持ってます……けど……」
サキ「(スイの指先の感触に、全身が痺れるような感覚を覚える。ポーチから、震える手で深紅のティントを取り出す)」
(サキがティントのキャップを開けようとした、その瞬間――。
バックヤードの隅に置いてあった、誰かの忘れ物であろう黒いレースの日傘から、ふわりと黒い羽根のようなものが数枚舞い上がり、それが二人の間にだけ見える、小さな「黒い蝶」の幻影となって、ひらひらと飛び交い始めた!)
黒い蝶の声(サキにだけ聞こえる囁き):「……本当にそれでいいのかしら、可愛い子猫ちゃん? その唇を捧げる相手は、本当にその人でいいの? もっとあなたを輝かせる、素敵な王子様が、どこかにいるかもしれないのに……♡」
黒い蝶の声(スイにだけ聞こえる囁き):「……ふふ、焦らないで、黒猫さん。その娘は、まだ熟れていない果実のようなもの。無理強いはよくないわ。もっと手っ取り早く、あなたの渇きを癒やす、甘美な毒がここにあるのに……♡」
(二人は一瞬、その悪意に満ちた囁きに、心をかき乱されそうになる。サキの瞳には不安の色が浮かび、スイの表情には苦悩の影が差す)
スイ「(ギリッ……)……うるさいニャ……! 余計なことを囁くな、気色悪い蝶々め……!」
スイ「(黒い蝶を睨みつけ、サキを庇うように一歩前に出る。その背中は、いつもより大きく、頼もしく見えた)」
サキ「(スイ先輩……!)……私も……私も、信じません! スイ先輩のことは、私が一番……! あなたなんかに、私たちの気持ち、分かるもんですか!」
サキ「(震えながらも、スイの腕をギュッと掴み、黒い蝶に向かって叫ぶ。ミャウリ様の『誘惑ブロック&平常心キープ・ちょっぴり強化版ニャ!』バフが、心の奥で輝いているような気がした!)」
(サキとスイの強い想いが、黒い蝶の幻影に亀裂を入れる。蝶は苦しげに羽ばたき、そして、パリン、と音を立てて霧散した。同時に、レースの日傘も、まるで最初からそこになかったかのように消え失せていた)
スイ「……ったく、しつこいニャン、カスミの差し金か……。でも、サキちゃん、今のあんた……すごくカッコよかったニャンよ♡」
スイ「(少し息を切らせながらも、サキに向かって、悪戯っぽく微笑む。その瞳には、安堵と、そしてサキへの深い愛情が宿っている)」
サキ「いえ……私なんて……スイ先輩が守ってくれたから……」
サキ「(顔を赤らめながら、スイの腕を掴んだまま、俯いてしまう。でも、心の中は、今までにないほどの勇気と、そして温かい気持ちで満たされていた)」
スイ「(サキのそんな様子に、愛おしさが込み上げてくるのを感じる。そして、改めてサキの手の中にあるティントに目を向けた)」
スイ「……さて、邪魔者もいなくなったことだし……。サキちゃん、そのティント、やっぱり塗ってみるかニャ?♡ 今度は、あたしが塗ってあげるニャン♡」
スイ「(優しくサキの手からティントを受け取ると、そのキャップをゆっくりと開ける。甘く、そして少しだけスパイシーな、蠱惑的な香りがふわりと漂う)」
サキ「(こくり、と唾を飲み込む。もう、抵抗する気はなかった。スイ先輩に、全てを委ねたい……そんな気持ちが、心の奥から湧き上がってくるのを感じた)」
サキ「……はい……お願いします……スイ先輩……♡」
サキ「(潤んだ瞳で、スイを見つめる。その表情は、少しだけ不安げで、でも、それ以上に期待に満ち溢れていた)」
スイ「(満足そうに微笑むと、ティントのアプリケーターをサキの唇にそっと近づける。そして、まるで大切な宝物に触れるかのように、優しく、丁寧に、サキの唇を深紅に染め上げていく――)」
スイ「……うん、やっぱり……最高に似合うニャン……♡ 今日のサキちゃんは、あたしだけの……特別な色だニャ……♡」
スイ「(サキの唇からアプリケーターを離し、うっとりとした表情で、その美しい仕上がりを見つめる。そして、自分の唇にも、同じティントを薄く重ねた)」
スイ「……これで、あたしたち、本当の“お揃い”だニャ♡」
サキ「(鏡の中の自分を見る。そこには、いつもとは全く違う、少し大人びて、そしてどこか妖艶な雰囲気さえ漂わせる自分がいた。スイ先輩とお揃いの、深紅の唇。それは、まるで二人の秘密の契約の証のように、美しく輝いていた)」
サキ「……スイ先輩……すごく……綺麗です……♡」
サキ「(自分の唇に、そっと指で触れる。まだ残るティントの感触と、スイ先輩の熱い視線に、胸が甘く締め付けられるのを感じた)」
スイ「(サキのそんな初々しい反応に、たまらなく愛おしさが募る。そして、もう我慢できないとばかりに、サキの肩を掴み、その深紅の唇に、自分の唇をゆっくりと、しかし確実に重ね合わせようとする――)」
――その時、休憩室のドアが勢いよく開き、ハナとユナが飛び込んできた!
ハナ「お待たせー! って、あれれれれ!? な、なんか、めちゃくちゃいい雰囲気じゃないですかー!? まさか、今、まさに、禁断の!? うわー! 見ちゃった! 見ちゃったぞー! #華金の奇跡 #スイサキ尊い ってポストしなきゃ!」
ハナ「(目をキラキラさせながら、スマホを構える!)」
ユナ「まあ! スイ様とサキさんが、まるで運命に導かれるように……! なんて情熱的で、そして美しい光景なのでしょう……! わたくし、感動で涙が……!」
ユナ「(ハンカチで目頭を押さえながら、うっとりとした表情で二人を見つめる!)」
スイ「(チッ……! また邪魔が入ったニャ……! でも、まぁ、今日のところはこれくらいにしといてやるかニャ……♡)」
スイ「(サキからゆっくりと顔を離し、何事もなかったかのように、ハナとユナに向かってニッと笑う)おー、お疲れさん。ちょうど今、サキちゃんに新しいリップの色、試してあげてたとこだニャン♡ なかなか似合ってるだろ?」
サキ「(心臓が飛び出しそうになりながらも、スイ先輩の言葉に合わせて必死に平静を装う。でも、顔の赤みは全く引いていないし、唇はまだスイ先輩の熱を感じているようだ)」
サキ「あ、あはは……そ、そうなんです! スイ先輩に、ちょっと大人っぽい色を選んでもらっちゃいました……えへへ……」
ハナ「へー、そうなんだー(棒読み)。ま、とにかく! 明日から週末だし、私たちもパーッと遊ぼうよー! サキたんも、その新しいリップで、どこかお出かけするんでしょ? もしかして、スイ先輩と……?♡」
ハナ「(意味ありげにサキとスイを交互に見る)」
スイ「(ニヤリと笑い、サキの肩を抱き寄せる)……さて、どうだかニャ♡ それは、サキちゃん次第だニャン♡ ねぇ、サキちゃん、今度の週末、もしよかったら……二人で、この“お揃い”のリップをつけて、どこか……特別な場所へ行かないかニャ?♡」
スイ「(サキの耳元で、甘く囁く)」
サキ「(スイの言葉に、驚きと喜びで胸がいっぱいになる。そして、とびっきりの笑顔で、力強く頷いた)」
サキ「……はいっ! ぜひ……! スイ先輩と一緒なら、どこへでも……!♡」
(――華の金曜日。「太夫」のバックヤードでは、甘い残り香と、黒い蝶の囁き、そして乙女たちの熱い想いが交錯し、新たな絆と、週末への甘い約束が生まれた。深紅のティントは、二人の秘密の印。この小さな「お揃い」が、これからどんな物語を紡いでいくのか――それは、まだ誰も知らない、二人だけの秘密)
(休憩室のロッカーの上で、聖獣ミャウリが、満足げに喉を鳴らしながら、フサフサの尻尾を揺らしていた。「ふぅ、あの黒い蝶、なかなか厄介じゃったが、二人の愛の力と吾輩のバフで、なんとか撃退できたようじゃな! よし、この調子なら、週末はもっともっと甘々な展開が期待できそうじゃわい! 今日はサキもスイもよく頑張った! ご褒美は、もちろん最高級猫缶3種盛り合わせと、フカフカの新しいベッドじゃな!」と、しっかりと自分の取り分も計算しているのだった――)
え|д゜)チラッ