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3.就職先が決まりました③

「今の生活の方がいいってこと?」

 一生懸命働いてくれている父さんには悪いけど、この村は物々交換で成り立っているような村で、貴族や王宮に住む高貴な人たちが喜ぶような宝石もなければおしゃれな店もない。

「今が一番幸せよ。クリスとこの村にやってきてから毎日幸せを更新し続けているわ」

 ふわふわとしていた姫様は今や二児の母になり、料理も洗濯も何でもテキパキとこなす主婦になった。

「俺もそうだよ」

 また始まってしまった。止めるのもめんどくさくなってきたので手紙を開けて内容を確認する。

「料理長が『ぜひ面接したいので騎士団にお越しください』って言ってるって、一体俺のことどんな説明したらそういうことになるわけ?」

 しかも手紙の最後には、荷物をまとめて出発する準備ができたら手紙に口付けしてルーカスと呟くことと書かれている。

「一体なんのイタズラだ?」

 そう思いながらも面接だけなら荷物はいらないかと最低限必要な身分証と財布を着替えを持って手紙に口付け、『ルーカス』と小さく呟く。

 すると手紙は大きな黒い鳥に変化して、俺は大きくて赤色の鳥かごのような檻の中にいた。

「えっ、なにこれっ。どういうこと!?」

「幻獣か。噂には聞いたことがあるが実物は初めて見たな」

 驚いていると父さんが大きな黒い鳥を見ながら感心したように呟く。檻の中に閉じ込められている身としては、関心するよりも心配してほしいところだ。

「凄いわ。幻獣なんて初めて見たわ。おとぎ話の世界だけの生き物じゃなかったのね」

 母さんがキラキラとした目で黒い鳥を見つめる。こっちも息子が檻の中にいることより珍しい鳥に夢中らしい。泣いていいだろうか。

「ちょっと、父さんも母さんも俺のこと心配じゃないのかよ。俺、檻の中に閉じ込められてるんだけど」

「幻獣は人を傷つけないから安心していいぞ」

「黒くて大きな幻獣と赤の鳥かごが良く似合ってるわ」

「だからげんじゅうっていうのは一体何なんだよ。俺はどうして閉じ込められているわけ?」

「誰かが幻獣を召還したんだろうな。幻獣は魔法文鳥より凄いぞ。鳥かごの中は快適で外からの干渉を一切受けないし、幻獣は最強の生物だから守り役にもピッタリだぞ」

 つまり誰かがそんな貴重な生物を召還しなきゃいけないほど騎士団の食糧事情は切羽詰ってるってことなのか?

「エル、準備はもう終わったの?」

「面接で受かるとは限らないから最低限の荷物は用意したけど……」

「じゃあ行ってらっしゃい。ルーカスによろしくね」

 母さんがバイバイと手を振ると大きな黒い鳥が俺が閉じ込められている赤い鳥かごの上の部分を口にくわえる。

「魔法文鳥でなくていいからたまには手紙で近況を知らせるんだぞ」

 父さんが俺の就職が決まって長期滞在するみたいな言い方をする。

「手紙出すってどうい……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 鳥かごをくわえた大きな鳥がそのままバサバサと壁の方へ勢いよく飛び立つ。

「す、すり抜けた!?」

 魔法文鳥や幻獣が壁をすり抜けられるのは魔法やファンタジー要素で仕組みはわからないけど理解はできる。でも俺は人間で壁抜けができる忍者でもないのにどうして?

「見えなくなっちゃったわ」

「幻獣の能力は凄いな」

 こちらから二人は見えるのに、二人からこちらは見えなくなったらしい。

「えっ、えっ、えっ、うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」

 まるで飛行機がノロノロと遅い乗り物に思えてしまうくらい大きな鳥が飛ぶスピードは尋常じゃなく速かった。見えなくなるような魔法がかけられていなくても、幻のネコバスのようにあっという間に見えなくなるような速さだ。

「鳥かごがなかったら確実に呼吸できてなかっただろうな」

 そうなっていたら騎士団に着くまでに死んでいただろう。鳥かごがいい仕事をしている。閉じ込められたとか文句言って申し訳なかった。

「あれが王都かな」

 ぐるりと四方を壁に囲まれた大都市が見えてきた。

「騎士団ってどこにあるんだろう?」

 俺がそう呟くと、大きな鳥が王宮の隣の建物を目指して急降下をし始める。

「おっ、落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」

 安全が保証されているとはいえ、安全ベルトで固定されていないままジェットコースターの急降下を体験しているようなもので、体がぎゅんと下へと落ちていく感覚が気持ち悪い。

「ぶつかる!」

 ぎゅっと目を閉じて衝撃に耐えようとしたのに、ふわりと地面に足がついていた。

「どういうこと? どういう仕組み? ここはどこ?」

 きょろきょろと辺りを見渡すと、二人の男が走ってこちらに向かってくる。

「エルリオ様、お待たせして申し訳ありません」

「ご案内させていただきます」

 こちらに向かって深々と頭を下げてお辞儀をしてから俺をどこかに連れて行ってくれるらしい。

「あのっ、確かに俺はエルリオですけど、厨房の面接に来ただけなんですが……」

 どう考えても二人の対応は平民に対してとられるものではなく、大切な来客に対する態度なのがおかしい。エルリオは同姓同名がいてもおかしくない平凡な名前なので自分が来た理由を明確に二人に伝えた。

「はい、お聞きしております」

「私たちは案内役でまいりました」

 厨房の面接に来て試験で落とされるかもしれない人物に対していきすぎた対応をされてしまい、どうしたものかと困り果てる。

「お荷物はそれだけでしょうか? よろしければお持ちいたします」

 俺が返事をするよりも前に手前の男が俺の荷物に手を伸ばす。

「…………っ!」

 俺に触れるか触れないかのところで、静電気にしては大きすぎるバチバチッと音と光が響き渡ったかと思うと俺に手を伸ばした男が数メートル後ろに吹き飛んでいた。

「え?」

 誓って俺は何もしていない。魔法も使えなければ魔道具も持っていないし、何なら相手に触れてすらいない。

「大丈夫ですか?」

 心配になってかけよろうとするともう一人の男に呼び止められる。

「自業自得ですのであいつのことはお気になさらず。ご案内させていただきます」

 幸いと言っていいのかはわからないが吹っ飛んだだけで意識はあるみたいで、ズボンの埃をポンポンと払いながら男が立ち上がって俺たちの後をついてきた。

「あのっ、さっきも言ったとおり、俺は厨房の面接にきただけなんですけど……」

 案内されるがままについてくと、デカイ正面減から建物の中に入って長い廊下を歩いた先にあるえらく広い部屋に案内された。

「こちらにお座りになって少しお待ちください」

 そう言うと俺だけを残して二人とも部屋を出て行ってしまった。

「おかしくないか? 普通面接って相手がいる部屋に面接される側が失礼しますって入って面接するものだろう? 異世界特有の面接方法なのか? だとしたら座ってお待ちくださいは言葉通りにそのまま座る図々しい奴かを見極める罠なのか?」

 考えすぎて椅子に座ることをためらった俺は、立ったまま誰かが部屋に来るのを待つことにした。

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