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3.就職先が決まりました②

「うわっ」

 俺がサインした紙が白い鳥へと変化して窓をすり抜けて外へと飛んで行った。

「今のなに? 紙が鳥になってしかも壁すり抜けて飛んでったんだけど」

「あら、魔法文鳥なんて久しぶりに見たわ」

「魔法文鳥?」

「普通の手紙だと相手に届く前に誰かに妨害されたりして届かないことがあるでしょう? 魔法文鳥は魔法がかけられた紙に手紙を書くと鳥の姿になって相手のところまで飛んでいくのよ」

「壁をすり抜けたのは?」

「手紙を出したいときにいつでも窓がある部屋にいるとは限らないじゃない? 魔法文鳥はどんなところからでも出せるように壁をすり抜けられて、相手に届くまで姿が見えなくなる隠蔽魔法も付与されているの」

 まるで窓のない部屋にいることもあるみたいな話し方に、お城の真ん中に行けば壁のない部屋もあるのかもしれないと想像を膨らませてみる。

「懐かしいな。いつもエリーシャからの魔法文鳥が届くのを楽しみにしていたよ」

「私もクリスからの魔法文鳥が届くのをいつも楽しみにしていたわ」

(なるほど。隣国のお姫様と他国の騎士団長が頻繁に会えない変わりに魔法文鳥でやり取りをしていたってことか。でもそれって職権乱用なんじゃ……)

 つっこんだら負けだ。つっこんだら父さんと母さんの強烈なノロケ話が始まってしまう。それだけは勘弁してほしい。

「じゃあ俺のサインした用紙はルーの所に飛んでったってこと?」

 細かいことというか過去のことを今更考えたって意味はないと割り切った俺は、両親の話をぶったぎって不思議でたまらなかったことを質問した。

「そういうことだ。サインした紙に応募要項が記載されていただろ。その用紙にサインした時点で魔法文鳥が効力を発揮したんだ」

「ちょっと待って。俺がサインした紙には何も書かれていなかったんだけど」

「じゃあその前の便箋に応募要項や詳細は載っているんだろ」

「載ってない。父さんも母さんも読んで構わないから確認してよ」

 ルーカスからきた分厚い手紙を二人に渡す。

「あらっ、これは随分と愛情のこもったお手紙ね」

「どれどれ」

 母さんの言葉に興味をそそられたのか父さんが読み終わった手紙を読み始める。

「年を重ねるごとに卒業すると思ってたんだがなぁ」

 苦笑いしながら父さんが読み終わった分の手紙を俺に返却してきた。

「この手紙は私たちがこれ以上見ちゃいけないわ。だってルーカスからエルへのとっても大切な手紙ですもの」

「確かに俺もこれ以上読むのは気が引けるな」

「えっ、どういうこと? 長々と近況報告しか書いてない手紙なんだけど」

 俺が読んだ手紙の内容と父さんたちが読んだ手紙は同じものなのに、まるで別の物を読んでいるような反応をされたことに驚く。

「もしかしてエルにはそう見えているの?」

「訓練を頑張って一人部屋になったとかそういう日常が書いてあっただけなんだけど」

「そうね。書いてあることはそれで間違いなかったわ」

「じゃあ父さんたちが全部読んでも問題ないじゃないか」

「私、ユニコーンに齧られて死にたくないわ」

(この会話の流れでなんでいきなりユニコーンに齧られるなんて話になるんだ? 見たことないけどこの世界にユニコーンって生息してるのか?)

「ユニコーンって伝説の生き物じゃない?」

「そうなったら俺が全力でエリーシャを守るさ」

「頼りにしてるわ。そういう訳で私もクリスもこれ以上は手紙を読まないって決めたから、エルはこれから王都に行く支度をした方がいいわよ」

 話の脈絡がわからない。ユニコーンが出てきたと思ったら採用も決まってないのに王都に行く支度をした方がいいとか一体母さんには何が見えているんだろうか。

「ほら、もう返事がきたわよ」

 白い鳥が壁をすり抜けてやってきて俺の手にとまるとスーッと手紙へと姿を変えた。

「さっきの逆だ。鳥が手紙になった。何これ凄すぎるんだけど。それにいくらなんでも早すぎない? サインしてからまだ三十分くらいしかたってないんだけど」

「優秀な魔法文鳥なのね。私のときは二時間くらいはかかってたのよ」

(そりゃあ国を跨いで隣の国まで行くんだから二時間はかかるでしょ。ってか、そんなに長距離なのに二時間とか早すぎない?)

「一日で五往復が限界だったな」

 残念そうに父さんが呟く。

(片道二時間で往復で四時間かかるのに一日五往復って二十時間って、お姫様は寝てないのか? 騎士団長は仕事してないのか?)

 私的利用で魔法文鳥が使えるということはお手軽な値段で使えるんだろうか。

「魔法文鳥って誰でも利用できるものなの?」

「魔法使いがそばにいるなら誰でも使えるな」

 魔法が使えるのは百人に一人いるかいないかでその数だけを見れば多いようにも思えるが、その『魔法が使える』というのも明確なレベルの差がはっきりしている。

 百人に一人いるレベルの魔法使いはかまどやランプに火をつけたり、水をグルグルと回転させることくらいしかできない。要するに前世で俺が使っていた洗濯機の洗濯の部分を魔法でできるレベルのものだ。

 そのくらいレベルの人は『魔法が使える』と言えたり『魔法を使える人』として周囲に認識されるが『魔法使い』と呼ばれる事はない。

 それに『魔法使い』という名称はBランクの魔物を魔法だけで倒せる人物のことを指す言葉だ。そんな貴重なレベルになると万人に一人いるかいないかの規模になるらしい。

「ルーのそばに魔法使いがいるってこと?」

「騎士団にいるんだし、そばに魔法使いくらいはいるだろうな」

「ってことは、騎士団で怪我をしても魔法使いが魔法でパッと怪我を治しちゃったりもできちゃうってこと?」

 それなら騎士団も安心して訓練したり討伐に行けるし、ルーカスも怪我の心配がなくて安心できる。

「魔法使いは治癒士や聖女ではないから怪我は治せない」

「治癒士はわかるけど聖女って?」

 俺が前世の知識で知っている聖女は異世界から召喚された女性で、こっちの世界でゾンビ系の魔物を消滅させる魔法が使えたり、瀕死の人を健康な状態に戻せる癒しの力を持っている人物という認識だ。

「世界に五人しかいない奇跡を起こせると言われている人物だ。俺が騎士を引退してからは聖女は四人になったと元部下たちが言っていた」

「それって亡くなったってこと?」

「詳細はわからないが、保護されていた王宮からいなくなったらしい」

「きっとお城に縛られるのが嫌になっちゃったのね。衣食住が保証されていてもお城にいたら自由がないもの」

 城にいるお姫様は豪華な食事と立派な衣装とたくさんの召使いや部下がいて、自分で何もしなくても悠々自適な毎日を過ごしているものだと思っていた。

 平民や当人以外からはそう思われているのに、そこで暮らしている本人は一人の時間も自由がなくて窮屈な生活だったのかもしれない。

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