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1.俺の可愛い幼馴染み①

「騎士ってかっこいいよなぁ」

 村に魔物の討伐に来ていた父の元部下の騎士と父が戦う姿を見た俺がそう呟くと、三歳年下のルーカスが「エルは騎士が好きなの?」と聞いてきた。

 俺の名前はエルリオだが、両親が俺のことをエルと呼ぶのを真似てルーカスも同じように俺をエルと呼んでいる。

「騎士が嫌いな人なんていないだろ」

「ふーん」

 昔は『にーちぇ。にーちぇ』と俺の後ろをついて回って可愛かったルーカスは、あっという間に俺の鼻くらいまで身長に成長した。

(三歳差なのに身長が追いつかれそうで嫌だな)

 前に一緒に一つ離れた町に買い物に行った時も、買い忘れを買いに行くからそこで待ってろと言って噴水の前で待たせていたら女性たちに声をかけられていた。

「エル!」

 俺を見るなり座っていたルーカスが勢いよく立ち上がって俺に駆け寄ってくる。

「あの人たちはいいのか?」

 話しかけられていただろうと視線を女性たちに向けると、手を掴まれてグイっと引き寄せられてバランスを崩し前のめりに倒れてしまう。

「お前なー」

 ルーカスが転ばないように助けてくれたが、俺がバランスを崩す要因も目の前のこいつにあるので礼など絶対に言わない。

「知らない人に話しかけられて怖かった」

 ギュッとルーカスが俺に抱きつく。

(人見知りなところは昔から変わらないなぁ)

「遊びに行きましょうとかご飯を一緒に食べませんかっていうお誘いだろ? 何が怖いんだよ」

 なだめるようにポンポンと背中を二回叩く。

「知らない人に話かけられることが嫌だ」

(その容姿でそれは無理だろ。これからもっとモテるようになるのは目に見えてるのに中身がこれじゃ……)


 可愛かった俺の幼馴染みは、十二歳になった。小さい頃はルーカスは母親似なんだろうなと思っていたのに、最近ではその面影もなくなって可愛いではなくカッコイイと言われることが増えてとにかくモテている。

 俺たちが住んでいるところは田舎なので、外部から移住してくる人はほとんどいない。いたとしても少しだけ住んだら次の村へと移住してしまって定住はしないわけありの人ばかりらしい。

 移住してきた最初の頃は身分を隠していたらしくて、元騎士団長なだけあって腕っぷしが強くて強面な父さんと、お金を使い方も知らない世間知らずな隣国の元お姫様な母さんはかなり異質に思われていて、誰も近寄ったり話しかけたりしようとしなかったらしい。

 二人が村はずれの空き家を買い取って住み始めて半年した頃、周囲からの対応は劇的に変化した。

『妻が具合が悪くて吐いて倒れてしまった。どうしたらいいか教えて欲しい』

 気を失った母さんを背負って村へとやってきた父さんの顔色は、倒れた母さんよりも真っ青で今にも倒れてしまいそうだったと後々俺の両親を助けてくれた村の人から話を聞いた。

『今村にいる医者を呼んだから奥さんをここに寝かせてやりな。そして奥さんよりも顔色が危ないアンタはここに座りな』

 二人の様子を見た村の人は、自分の家へと二人を案内して寝室に寝かせたり椅子に座らせたりして倒れないようにしてから医者を呼んでくれた。

『つ、妻は、エリーシャはどこが悪いんですか!?』

 横たわる妻を見てから医者に必死な形相で詰め寄る元騎士団長に、医者が『ひいっ』と怯える。

『アンタ、先生を脅すんなら部屋から出てってもらうよ』

 二人を迎え入れてくれた村人が元騎士団長に負けない勢いでたしなめる。

『す、すまない…………』

『先生、大人しくなったみたいだから話してやっておくれ。私が聞かない方がいいなら部屋の外にいるけど、どうした方がいいんだい?』

 重病なら家族しか聞かない方がいいだろう? という優しさが含まれた言葉に、元騎士団長がグッと何かをこらえるように固く拳を握りしめる。

『いてもらって問題ありませんよ。おめでたいことですから』

『…………吐いて倒れたのにおめでたいだと?』

 小さく呟く声は医者と村人には届かない。

『あっ、そういうことかい。そりゃめでたいね』

『どういうことですか?』

 妻のことなのに蚊帳の外にされている夫が状況を理解できずに尋ねる。

『ご妊娠されています』

『五人新?』

 そんな言葉あっただろうか? 聞いたことがないと首をかしげる。

『なにすっとぼけたこと言ってるんだい。もうすぐアンタがパパになるってことさ』

『………………え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』

『そんなに驚くことじゃないだろうに。もしかしてアンタ、奥さんの周期も知らなかったんじゃないだろうね?』

『……………………』

 無言は肯定の証だ。

『はぁ~、そんなんで大丈夫かい? 料理と洗濯の仕方はわかるかい?』

『洗濯は見習い騎士の頃にやっていたのでできる。料理は切って焼くのなら野戦でやっていた』

『話になんないね。これからアンタの奥さんは子供の分まで栄養とって健康に過ごさなきゃいけないんだ。切って焼くだけの肉を食べるだけじゃ栄養が足りない。野菜も果物も必要だ。まずはアンタには料理を覚えてもらうよ。奥さんと自宅に帰るのはアンタが料理を十品は作れるようになってからだ』

 結論付けてそう言い切った村人は、のちに俺が大人になってからも家族ぐるみで付き合いがある大切な人になった。

『それまではどこで住めば……』

『ここに決まってるだろう? 料理もできないアンタと、世間知らずの身重な奥さんの二人でやっていけるとでも思ってるなら考えを改めな』

 そして俺の父に唯一反論する機会も与えず、ビシビシと的確に物事を進める器も人間もデカくてカッコイイこの村人はハルナという異世界転生者なのだが、俺がその事実を知るのはもっとずっと後の話だ。

 そんな親切な村人のハルナのおかげで、父さんは色々な料理を覚えて家に戻ることができて、それから数か月後に俺の兄となる人物が無事に生まれた。めでたしめでたしというわけだ。

 ちなみに俺の兄は父の影響を受けて騎士見習いとなって大きな町で働いているので、一年に数回しか会えない。俺が拾われたのはちょうど兄が町に戻る時の見送りの帰りだったらしい。後から考えると何とも運命を感じる出会いだった。

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