4.遠征と休日②
「はぁっ!? 副騎士団長!?」
聞いてない。さっき会ったときに言ってくれたら俺だっておめでとうくらい言えたのに。
「本日遠征部隊のまとめ役として抜擢された、昨日副騎士団長に任命されたばかりのルーカスです。若輩者ですので皆様のお力をお借りしながら討伐を成功させられたらと思います。ご理解、ご助言をよろしくお願いします」
パチパチと盛大な拍手が会場中に響きわたる。。
「大出世してるんだな」
昨日部屋に戻らなかったのも、今日の予行練習や副騎士団長任命式があったからかもしれないなと思う。
「きっとこれからルーは人に囲まれてしばらく身動きとれないんだろうな」
「そんなことないよ」
「え?」
遠くで挨拶をしていたエルが俺のすぐ後ろにいたことに驚いて立ち上がる。
「驚かせてごめんね」
「副騎士団就任おめでとう」
「ありがとう。でもそのせいで部屋を追い出されることになっちゃった。エルを巻き込んでごめんね」
「そんなこと気にすんなって。俺がルーの部屋に住まわせてもらってたんだから」
「なるべく早く終わらせて俺も村に帰るから、健康で元気に過ごすって俺と約束してくれる?」
「いいぞ。そのかわり、ルーも無茶しないって約束しろよ」
「わかった。約束する」
「じゃあ約束の指きりをしよう」
小指を出すとルーも小指を出してお互いの指を絡める。
「指きり約束。約束守れなかったら相手の言うこと何でも一つなんでも聞くこと。指きった」
指切りげんまんの異世界バージョンで俺が昔やった指きりをルーカスが気にいっていたので、今回もお互いが約束を守るようにと指きりをした。
「あー、遠征行きたくないっ」
先程までの威厳はどこに行ったのか、ぐしゃぐしゃと髪をかきむしりながらルーカスがしゃがみこむ。
「ふははっ、副騎士団長様の本音がダダ漏れだな」
「誰か変わってくれないかな」
「遠征部隊のまとめ役として抜擢された史上最年少の副騎士団長の代わりになれる人なんているわけないだろうが」
騎士団は完全実力主義だ。どんなに地位のある貴族の息子でも実力がなければ上にあがることはできない。
「エルにはカッコイイ俺を覚えてて欲しいから頑張るよ。俺、村に戻ったらエルに伝えたいことがあるからその時は笑わないで聞いてね」
「今じゃ駄目なのか?」
「今じゃ駄目。絶対駄目」
「お、おう。そうか」
言葉と表情の圧が凄かった。
「じゃあ名残惜しいけど、誰にも邪魔されたくないから」
部屋が一瞬歪んだかと思うと、目の前に黒くて赤い目の幻獣が現れた。
「お前、もしかして目に俺をここまで運んでくれた奴か?」
幻獣が言葉を理解したようにコクリと頷く。
「あの時はありがとな。そして今回もよろしくな」
今はまだ鳥かごの中ではないので手を伸ばせば届く距離まで近づいてお礼を言う。
「毛並みつやつやで綺麗だなぁ。黒に赤い目ってめちゃめちゃカッコイイな」
前はじっくり見る余裕もなかったが、今は落ち着いた環境で見ることができるのでマジマジと幻獣を見つめる。
「……っ、反則すぎるだろ」
手というか翼で顔を隠されて赤い目が見えなくなってしまった。あまりに露骨にジロジロ見すぎてしまったらしい。
「名前はあるのか?」
「………………リオ」
ルーカスにたずねると少しの沈黙の後で教えてくれた。
「よろしくな、リオ」
「じゃあリオ、エルをあの村までよろしく頼むぞ」
ルーカスがエルに語りかけると赤い鳥かごが現れて、俺は荷物と一緒に鳥かごの中にいた。
任せろと言わんばかりにリオが誇らしげに俺の入った鳥かごの先端を口に銜える。
「村で待ってるからな」
俺がルーカスに伝えるとリオが壁に向かって飛ぶ。ぶつからないとわかっていても壁の前で目をつぶってしまうのは仕方がないことだと思う。