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4.遠征と休日①

 あれから更に二年半の月日が流れた。

 ルーカスは出世街道まっしぐらで『期待の新人』から『騎士団長に一番近い男』と言われるようになった。

 不思議なのが、エルが出世するたびに元よりも豪華な部屋に移動することになっても、俺の部屋が用意される気配が一向にないことだ。

 前に料理長に『俺の部屋の準備はどうなっていますか?』と聞いても『部屋が空いてなくてな』と返された。それなら仕方ないかとルーカスの部屋に居候させてもらっている間に、俺に後輩ができた。

 後輩は地方から住み込みできた俺より一つ年下の男だ。

「俺の部屋、自宅の俺の部屋より広いんっすよ」

 そう俺に教えてくれたので部屋を見せてもらうと、かなり狭かった。というか、先に部屋待ちしている俺には部屋が振り分けられなくて後輩はなぜ部屋が割り当てられるのかという疑問が浮かび上がる。

「料理長、なんで俺には部屋があたらないんですか? 俺の方がアイツよりずっと前から部屋を用意してもらえるの待ってるんですけど」

「今の部屋は嫌なのか?」

「嫌とか嫌じゃないって話じゃなくて、あれはルーカスの部屋であって俺の部屋じゃないです。いつまでも居候とか千人隊長のルーカスに申し訳ないです」

 最近は上位魔物ですらルーカスを見ると攻撃せず一目散で逃げていくと嘘か本当かわからない噂になるくらい、ルーカスの活躍は凄いらしい。

「ルーカスと喧嘩でもした?」

「喧嘩なんてしてません」

「どうしても厨房用の部屋に移りたいのか? 今いる部屋から見たら犬小屋より狭いんだぞ? それでも移りたいのか?」

 なんでそんなに何度も念押ししてくるんだろうか。快適な寝床の方がいいけれど、厨房配置の俺が本来使える部屋との差があり過ぎて申し訳なさに拍車がかかっている。

「後輩の部屋の隣が空き部屋だって聞いたんですけど」

「……あー、あの部屋は物置になってて住めるような部屋じゃないぞ」

「じゃあリジー先輩の隣の部屋はどうですか? 両隣誰も住んでないって言ってましたよ」

「…………あー、リジーの右隣は騎士団全体の掃除用具がしまってある部屋で、左隣は有事の際に備えて武器庫になってるから住めないぞ」

「そうなんですね」

「明日まではルーカスの部屋にいてもらっていいか? ルーカスも明日から長期遠征に行くみたいだし、そうなったら主が不在になるルーカスの部屋にお前がいるのはおかしいってことでお前はそれに合わせて長期休暇で実家に帰ることになってるから」

 俺のことなのに上司である料理長からも部屋の主のルーカスからも何も聞いていない。それが明日からの出来事? 俺も関係あることなんだから報連相はしっかりして欲しい。

「俺、明日実家に帰るんですか?」

「俺はそう聞いてるぞ。ルーカスから何も聞いてないのか?」

 知らない。初めて聞いた。

「聞いてないです」

「俺はてっきりルーカスが言ってるとばっかり……」

「………………相談もなしに勝手に決めやがって」

 部屋の主はルーカスだ。だからどうするかの決定権はルーカスにある。でも相談じゃなくて事後報告でもいいから同居人の俺には伝えるべきじゃないか? しかも明日とかどういうことだよ。

「今日はもう仕事あがっていいから、実家に帰宅する準備してきていいぞ」

「わかりました。ありがとうございます」

 部屋の主がそう決めたのだから決定は覆らないだろう。行きは幻獣ですぐだったけど帰りはそうはいかない。

「乗り合い馬車の時間も調べておかないとな」

 明日実家に帰るという事実を思ったよりあっさりと受け入れた俺は、仕事から戻ったルーカスに一言くらい文句を言ってやろうと心に決める。

 だがその日深夜になっても、朝日が昇って翌日になってもルーカスが部屋に戻ることはなかった。


     ***


 ルーカスが遠征に行っている間実家に戻ることになった俺は、のんびりと乗り合い馬車で帰宅しようとしていた。

「エル!」

 そんな俺を走ってきたルーカスが呼び止める。

「遠征に行くんじゃなかったのか? 隊長の出発の挨拶があるって、それルーがやるんだろ?」

 朝厨房に行って今日出発することを一緒に働いているメンバーに伝えたら『ルーカス隊長が挨拶するみたいですよ』となぜか俺よりも情報通の後輩から教えられた。

「そこまで知ってるなら俺の挨拶聞いてってよ。エルが聞いててくれるならやる気が出て遠征も上手くいく気がするんだ」

「聞きたいけど乗り合い馬車があとニ十分後に王都から出てしまうから無理だな。さすがに今でないと間に合わないから」

 残念だけどルーカスの挨拶がどうだったかは後日本人以外から話が聞けたらいいなと思っている。

「乗り合い馬車? エルは行きと同じで幻獣で帰るって通達してたんだけど」

「急いでもいないのに幻獣とか無駄使いすぎるだろ。幻獣はもっと必要な人のために使えよ」

「幻獣は主人だと認めた者の言うことしか聞かないよ。しかも主人が嫌々命令したことは幻獣も指示に従わないんだ。だからエルは安心して俺の挨拶聞いていって」

 俺が「それなら」とこたえようとした時、係の者がルーカスを呼びにやってきた。

「ルーカス隊長、お時間です」

「…………今行く」

 迫力があって重低音な声で返事をしたのは確かに目の前にいるルーカスなはずなのに、その低すぎて迫力のある声に驚いてしまう。

「あぁ、ごめん。もう行かなきゃいけないみたい」

 いつもの明るい声でルーカスが俺に語り掛けてくる。さっきのは聞き間違いだったようだ。

「俺は一人で会場で向かうから、俺の大切な人をあの場所まで案内するように」

「かしこまりました!」

「じゃあまた後でね」

 ビシッと敬礼をしている部下を無視して俺に笑いかけると、ルーカスが会場へと向かって行く。

「ご案内させていただきます」

 案内されるがままに後ろをついて行くと、階段を登って登って登って着いたのは見晴らしのいい部屋だった。

「こちらにお座り下さい」

 促されるままに座ると、ちょうど正面に挨拶する台が見えた。

「では失礼いたしました」

 パタンと扉が開いて俺一人だけが部屋に取り残される。

「ここ、あきらかに一般席じゃないだろ」

 前世に競馬のテレビ中継で見た、偉い人が眺めのいいところから競馬場を見渡せるビップルームと似ている気がする。

「それでは遠征式を始めます。まず最初にルーカス副騎士団長よりお言葉をいただきます。ルーカス副騎士団長、よろしくお願いします」

 父さんが騎士団長になったのは二十歳だったと聞いている。ルーカスはまだ未成年の十七歳だ。

(そんなルーカスが副騎士団長? 騎士団って実力主義って聞いてるけど出世早すぎないか?)

 先日『特級魔物に進化しようとしていた上級魔物の群れをルーカスがほぼ一人で討伐したらしい』と厨房で誰かが言っていたが『上級魔物の群れをルーカスとルーカスの部下で討伐した』の言い間違いだろうと思っていた。

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