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3.就職先が決まりました⑤

(ルーカスが願うと雨を降らせられるのか? 雨乞いみたいな? それって自在に天候を操れるってこと? 農家にありがたがられる凄い能力だな)

 今度どうやるのか見せてもらおうと期待に満ちた目でルーカスを見つめる。

「まさか。俺はユニコーンに齧られて死にたくないんでね」

 俺たちに背を向けて降参と言うように手を上げて面接室の入り口へと歩き出す。

「あっ、エルリオさんは明後日の朝六時から仕事だから遅れないようにな」

 じゃあなと言いながら料理長が部屋を出て行った。

「母さんもユニコーンに齧られて死にたくないって言ってたんだけど、ユニコーンって幻の動物なんじゃないの? ユニコーンに齧られるともれなく死ぬのか?」

「俺も見たことはないけど探せばどこかにいるんじゃないかな? もしかしてエル、ユニコーンが見たいの? それなら探して来るけど」

 それなら探して来るけどの後に星マークがつきそうなほど、ルーカスのテンションは高い。

「齧られたら死ぬような動物なんて怖すぎて無理っ」

「ユニコーンって幻覚作用もあるみたいだから齧られても痛くないかもよ? まぁその前にエルに手を出そうとする奴は、俺がキッチリ排除するから問題ないけど」

 頼もしい。ルーカスがめちゃめちゃ頼もしい。

「頼りにしてるぞ」

「任せて」

 パチンとルーカスが左手を鳴らす。

「いい天気だなぁ」

 外が今までよりも明るくなって庭の木々がキラキラと輝いて見える。

「まだ休憩時間はたくさんあるから、部屋に案内した後は騎士団を案内するね」

 そう言われて部屋へと続く階段を何回か登った。階を増すごとに豪華な装飾が増えている気がする。

 もしかしなくてもルーカスは他の人よりいい部屋に住んでいるのではないだろうか?

 俺がそんな疑問を持ち始めた頃、廊下から一人の男がこちらに向かって会釈をした。

「ルーカス隊長、お疲れ様です。こちらのお方は?」

(隊長? ルーカス隊長って今言ったよな)

 手紙には記載されていなかった情報だ。そんな大切な事、一番初めに書かな

きゃダメじゃないか。

「俺の大切な人だ。明後日から厨房勤務をしてもらうことになっている」

「初めまして。俺はヘンドリックです。よろしくお願いします」

 挨拶のために手を差し出してきたけど、さっき騎士団の入り口で荷物を持ってくれようとして吹き飛んだ人のことを思い出して伸ばしかけた手を引っ込める。

「ごめんね。彼は人見知りなんだ」

 そんな俺の行動を擁護するようにルーカスが人見知りという言葉を使う。

「そうなのですね。失礼致しました」

 すっと相手が手を引っ込める。

(なるほど。人見知りって握手しなくても済むのか。断る時にそれで遠慮させてもらおう)

 思わぬところで一つ賢くなった俺だった。

「訓練所にいる全員に『俺が戻るまで自主練をしておくように』と伝えてもらってもいいかな」

「かしこまりました。伝えておきます」

 そのやりとりはどこどどう見ても上司と部下のやり取りにしか見えない。

「では失礼します」

 サッとヘンドリックと名乗った男が俺たちとは逆方向に走って行った。

「ルーって隊長なのか?」

「魔物倒してたらいつの間にか第二騎士団の隊長になってた」

「凄い大出世じゃないか! 俺なにも知らなくてプレゼントとか持ってきてないんだけど」

「プレゼントはもらったから大丈夫」

「え? 俺何かルーカスにしたか?」

「ここに来て俺の為に料理作ってくれるんでしょう? 最高のプレゼントだよ」

 ニコニコと嬉しそうに笑うルーカスに、料理を作るのがこれからの俺の仕事なのにそれがプレゼントってどういうことなんだろうという疑問が浮かび上がる。

「騎士団の厨房で仕事で料理作るだけなんだけど?」

「でもその前に材料さえあれば俺の好きな物作ろうとしてくれてるでしょ?」

 確信しているような口調で話しながらルーカスがニコニコと笑っている。

「何でわかったんだ?」

「目がさっきからキッチンをチラッ、チラッて見てたからわかるよ」

(目は口ほどに物を言うってのを無意識にやっちまってたんだな)

 なら話は早いと、早速本題を切り出す。

「何か材料はあるのか? なければこれから時間あるし、城下町まで散歩しながら買ってくるけど」

「冷蔵庫見てもらったら一目瞭然なんだけど、果物以外何も入ってないよ」

 キッチンつきの一人部屋なのに、そのまま食べられる果物しか入っていないということはそれだけ忙しい生活をしていることだと思う。

「ちょっと冷蔵庫の中とか、キッチンの調味料見てもいいか?」

「いいよ。何にもないけど呆れないでね」

 ルーカスが苦笑いを浮かべる。

「ルーの本業は料理人じゃなくて騎士団なんだから何もなくなって呆れたりしないって。むしろ俺の方こそ一人部屋なのに居候させてもらうことになってごめんな」

「何で謝るの? 俺の部屋は広くて使ってない部屋もあるし、キッチンも俺もエルが来てくれて喜んでるよ」

「じゃあそんなエルとキッチンにもっと喜んでもらえるように、今日のご飯はエルの好物の野菜炒めを作ろうかな」

「本当? エルの野菜炒め俺大好き!」

 でもよく考えてみたら、エルは休憩時間に抜けてきているんだから戻らないとマズいのでは? とエルの立場を思い出す。

「休憩時間はいつまでなんだ? もうそろそろ戻らないとさすがにマズいだろ?」

「うーん、もうそろそろ復活した頃だと思うから様子を見に行ってからエルと買い物に行こうかな」

「無理しなくていいぞ。道はその辺の人に聞けば一人でも買い物くらいできるし」

「久々に会えたのにエルはそんな冷たいこと言うの? 一緒に買い物に行こうよ。ちょっとだけ訓練所に寄ったら俺の用事はすぐ終わるからさ」

 案外隊長は俺が思っているよりも時間があるのだろうか? 有事に備えて待機とか?

「エルがそう言うなら一緒に行こう。知らないところで俺が迷子になっても困るしな」

「うん。エルが迷子になったら困るから俺も一緒に行くね」

 冗談めかしてそう言えば、ルーカスが嬉しそうに手を繋いで返事をしてくる。

「俺の方がルーより年上だからな」

「知ってるよ。料理、頼りにしてます」

 拝まれる勢いで頼りにしていると言われて悪い気はしない。

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