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決闘開始

「! なるほど。この魔導鎧装のモチーフを理解できるくらいの教養は持ち合わせているようですわね」


 東洋メルキュールに存在するという隠形。

 奇々怪々な術を使い、分身したり透明化したり、巨大なカエルの使い魔を召喚して戦うという、完全に荒唐無稽でフィクションの産物にしか思えないが、あのグリッターは紛れもなくその忍者をイメージして作られたのがこの魔導鎧装のようである。


 完全なオーダーメイドという訳では無く、サイバギルドの〈シャドウ〉にカスタマイズを施したのがあのグリッターと言ったところか。

 隠密性に優れたあの魔導鎧装をここまでド派手に改造するとは……こう言う鎧を見ることができただけでも、魔導学院に来た甲斐があったというものだ。

 ついに、決闘の始まりを告げる鐘の音が鳴る。


「それじゃ、いきなりだけどぶちかますよ!」


 ジャンクは迷うこと無くバレットシューターの使用に踏み切る。

 この武器は実弾を使う関係上おいそれと使いたくはないのだが……今回は手加減ができる相手ではない。

 マズルフラッシュと共に弾丸が射出されるが、ハイネは横方向へ回避し、ジャンク目掛けて駆ける。

 続けて撃つが、結果は変わらない。


「残念でしたわね。その攻撃はあまりにも直線的すぎますわ!」

「そりゃ銃だからね。曲がったり追ったりは魔法の領域でしょ……!」


 白刃が煌めき、ジャンクの首元に迫った。

 すんでのところで腕を割り込ませガード。

 決闘での決着はどちらかの降参か意識消失、さらに鎧に受けたダメージが一定量を超えることで判断される。


 術式の恩恵で死ぬことはないが、実践で致命傷と判断される場所に大きなダメージを受けるとその時点で敗北が確定する――そうアイリから説明を受けていた。

 いきなり首をやられて敗北なんて結末は御免だ。

 しかし一撃でハイネが攻撃を止めるはずもなく、次々と刀を振るい追撃を仕掛けてくる。


 ハイネの斬撃は速いだけでなく、ダメージを喰らえば即敗北に繋がるような急所を的確に突いてくる。

 拳と刃が次々と衝突し、文字通り火花の散る戦いだ。

 ハイネの腹に蹴りを叩き込み、自身もまた後方へ飛ぶ。

 そしてハイネ目掛けてバレットシューターを撃つが――


「甘いですわ!」


 ――弾丸はハイネの刀によって真っ二つになり、彼女に当たること無く明後日の方向へ跳んでいった。


「んな!?」

「弾丸が物体である以上、切れない道理はありませんわ!」


 確かにそうだが、理論上可能なことと実際に出来るかというのはまるで話が違う。

 再び距離を詰めたハイネが振り下ろした刀を、咄嗟にバレットシューターで受け止める。

 バレットシューターも鎧と同じくらい頑強に作っているため、そう簡単に切れはしないが――この状態ではジャンクは武器を一つ封じられている状態だ。


「さすがだねハイネ……銃弾を着るなんて無茶な芸当、やってのけたのは――君が七人目だ」

「半端!? 数がすごい半端ですわ! あとそれなりにいるではありませんの!」


 鍔迫り合い(と言って良いか微妙だが)状態だが、徐々に刃がジャンクの方へ向かっていく。


「やはり銃はダメですわね。こうなってしまっては手も足も出ないのだから」

「ハハハ、耳が痛いこと言ってくれるね」

「いっそのこと刀に宗旨替えするのは如何です? 私が稽古を付けてあげてもよくってよ?」

「そりゃ魅力的だけど……近接武器は間に合ってるんだよね!」


 一気に力を抜き、身体を横に移動させ刃を滑らせる。

 僅かにバランスを崩したハイネの腹部から、火花が散った。


「が!?」


 予想外のダメージだったのか、ハイネは腹部を押さえよろよろと交代する。


「やられましたわ。まさかそんなものを隠し持っていたなんて……!」


 ジャンクの左腕からは、二本のかぎ爪状の刃が伸びていた。


「カッコいいでしょ? これが僕のメインアームその2――アームブレードさ!」


 続けざまにバレットシューターを撃ち、グリッターの装甲が激しい火花を散らした。


「くっ……」


 ハイネが膝を突いた隙に、ジャンクは空になったマガジンを交換する。


「弾が勿体ないけど、君は出し惜しみをしていい相手じゃなさそうだ……だから、全力全開(フルスロットル)でいくよ……!」

「上等ですわ……!」






 決闘が始まってから既に五分が経過していた。

 普通だったらこのあたりで決着が付くのも珍しくないが、ジャンクとハイネの戦いは未だに続いている。

 今の所、天秤がどちらに傾いてもおかしくはないが、辛うじて均衡を保っていると言ったところか。

 ジャンクは隠し持っていた腕のブレードとバレットシューターを駆使してハイネを攻め立てている。


 銃の弱点は山のようにあるが、その一つに近距離戦闘での脆さが挙げられる。

 だがジャンクはその脆さを補う術を持っていた。

 腕に仕込んだブレードで近接戦をこなすのもその一つだ。

 ブレードそのものは小ぶりだが、ハイネの刀と渡り合えるだけの威力を持っている。

 さらにジャンクのバレットシューターは腕に直接固定されていることで、従来の銃とは違う立ち回りが可能になっていた。


「はぁ!」


 ハイネに拳を叩き付けた瞬間――発砲。

 拳と弾丸の二重奏。これによって拳撃に銃撃の威力を上乗せできる。

 単純な足し算。だが威力は侮り難し。斬撃と拳撃、さらに弾丸。


 ジャンクを相手にする場合いかにそのコンボを凌いでいくかがポイントになるだろう。

 しかも距離を取ろうとすれば、銃撃に晒される。

 ハイネは食らいつけているが、並の鎧使いではすぐに敗北することは想像に難くない。

 近距離戦闘と遠距離戦闘をそつなくこなすオールラウンダー。


「これがジャンク・ザ・リッパー……」


 アイリはいつの間にか拳を握り締めていた。


「……んー?」


 アイリの隣で決闘を見ていたロッソが疑問の声を漏らした。


「どうしたの?」

「いや、ジャンクの腕から生えたブレードなんだけどよォー……アレ、ナノマシンっぽいぜ?」

「そうなの?」


 ナノマシンというのは、凄まじく小型の金属製ゴーレム……のようなものだ。

 随分と曖昧な表現だが、それが一番近しい例えなのだ。

 個ではなく郡が単位であり、自由自在に形を変えることが可能となる。別名は『生きた鉄』。

 ジャンクは昨日、右腕からワイヤアンカーを射出していたが、今はブレードになっている。


 アタッチメントとして換装した可能性もあるが、自由自在にその姿を変えるナノマシンであると仮定しても不自然ではない。

 ナノマシンは特に鎧使いにとってはありふれた存在だ。魔族の肉体を構成しているのが他ならぬナノマシンであり、さらにその技術の一部は魔導鎧装にも使われている。


「なるほどな。ナノマシン一つ一つを振動させて斬撃の威力を上げてやがる……ったくどうなってやがんだ? 確かめたくなっちまうぜ」


 ロッソの口元が徐々につり上がり、ゴーグル越しに覗く目は完全に獲物を見つけた野獣のそれだった。


「あんたも決闘ふっかけるつもり?」

「あ、その手もあったか」

「我ながら余計なコト言った気がする……」

「そう言うなって。やっぱ戦った方が手っ取り早いしな……けど今は、この決闘だろ。いくらビックリ機能だらけでも、ジャンクが勝てると決まったわけじゃねえ」

「それは、確かにね」


 ロッソの指摘は正しい。何せハイネは――まだ、本気を出していないのだから。


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