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魔導鎧装

「むがっむごっ、むしゃむしゃごくんばくばくばく――」


 食事をしているジャンクを擬音化したらきっとこうなるだろう。

 行きつけの食堂である『みつばち亭』にジャンクを(文字通り)引っ張っていった後、注文した料理が運ばれてきてからずっと彼女はこんな感じである。

 パスタにパンに肉にサラダにと、とにかくジャンクは食いまくった。

 マナーもへったくれもあったものではないが、食べ散らかさずにちゃんと一皿一皿完食しているので不快には感じない。


 魔族の襲撃があったからと言って、店はいつも通り営業している。

 そもそもそれで店を休むようではこの学院都市で商売をやるなどどだい無理な話だ。

 両隣が焼け落ちようとも――いや、自分の店が焼け落ちても営業するタフさがこの街では求められるのだ。


「ねえ、いい加減話してくれない? あの魔導鎧装は何なの? て言うかあなた一体何者?」


 あの魔導鎧装は色々と規格外すぎる。そこら辺が知りたくてうずうずしているというのに、ジャンクはアイリの心境なんて知ったこっちゃないらしい。


「ちっちっち。そんな話は後だよアイリ。まずは目の前の食事を楽しまないとね! 店員さーん、チャーハンとペペロンチーノ追加で! あ、大盛りでね!」


 結局ケバブサンドはジャンクに食べられてしまったので、朝から何も食べていないが、ジャンクが食べているのを見るだけでお腹一杯だ。

 最早それを通り越して胸焼けしつつある始末である。


「……! ……!」


 ちなみにルルはむがむがとオムライスをかき込んでいる。咀嚼している所はまるでリスみたいだ。かわいい。

 その後ジャンクはあと二回追加注文をして、大量の食事を胃に収めた。


「いやー食べた食べた。これから一週間はなんとかなりそうだよ!」


 くえっぷと息を吐きながら、チューとアイスティーをストローで飲んでいるジャンクは、やがてとろんと目尻下げた。


「あー、食べたら眠くなっちゃった。オヤスミ」

「させるか」


 がくんと下がりそうになっていた頭を、アイリは指で支える。


「まったく、どれだけ三大欲求に素直なんだか」

「いやんエッチ」

「そっちについては言及してないでしょ」

「怒らない怒らない。カリカリしているのはカルシウムが足りない証拠だぜ? 牛乳を飲まないと」

「生憎と、毎日飲んでるから」

「でも寝ることは大切だよ。寝る子は育つって言うしね、ほらこの子みたいにさ」


 オムライスを平らげたルルは、満足そうにすやすやと寝ていた。

 こんなところで寝たら風邪引くというのに、と嘆息しながら制服をルルの上にかける。


「えーっと、魔導鎧装のことを聞きたいんだっけ? あれは『ジャンク・ザ・リッパー』……僕自慢の魔導鎧装だよ」

「名前、殆ど同じなの?」

「元々名前は付けてなかったんだよね。後でそれについて色々言われたから、まあ自分の分身みたいなもんだし、あんな感じでいいやーって決めたんだ」


 物々しい名前なのに、その由来は案外適当だった。

 ――分身、か。

 その感覚はアイリにも分かる。

 身に纏い共に戦場を駆ける魔導鎧装は、一心同体のパートナーと言っても過言ではない。

 魔導鎧装に心が有るのか、ということはさておくとして。


「ベースの魔導鎧装は何? マッシヴなデザインだけどランブルにしては細身だし、かといってムシャはあんなフォルムじゃないし……魔族の力を組み込める拡張性のある魔導鎧装なんて聞いたこともない。そもそもあの妙なガントレットで操作してるんでしょ。一体どういうこと?」


 気付けば矢継ぎ早に質問を飛ばしていた。

 魔導鎧装のこととなるとついつい早口でまくし立ててしまうのはアイリの癖だ。


「ベースになった機体はないよ。何せジャンク・ザ・リッパーは、僕の僕による僕だけのオリジナル魔導鎧装だからね」

「魔導鎧装をゼロから作ったってこと?」

「うん。色んな魔導鎧装のジャンクパーツと魔族の体でちゃっちゃかちゃーってね」


 何気ない様子で言っているが、やっていることは決して容易ではない。

 そもそも魔導鎧装は魔族に対抗することを目的に作られた特殊な鎧だ。

 初期はジャミングを防ぎつつ、安全に魔法を行使するという設計思想だったが、徐々にパワーアシスト機能や魔導鎧装専用武器の開発が進められたことで、最近では武器がメインで魔法はオマケと言ったような機体が魔導鎧装の主流になっている。


 動力が装着者の魔力であるため、看板に偽りありとは辛うじてなっていない。

 尚、歴史を重んじる西国リュンヌでは、遠距離型の魔導鎧装が定番である。

 今は対魔族用だけでなく、土木工事用などの作業用魔導鎧装も開発されている。

 世代を重ね、ただの鎧から逸脱しすぎたことで、「魔導鎧装は鎧にあらず」と主張する者もいる。そのような者達は魔導鎧装を『パワードスーツ』と呼んでいる。


 このように、様々なバリエーションのある魔導鎧装だが、ゼロから製作するとなると困難を極める。

 がんばれば見た目はそれっぽい物をつくることも可能だが、魔族の前に出てもあっと言う間にスクラップにされて終わるのが関の山。


 しかしジャンクが作った魔導鎧装――ジャンク・ザ・リッパーの持つポテンシャルは凄まじい物だ。一撃で魔族を破壊することができる銃を開発できる人間は早々いないし、ジャンク本人が持つ戦闘センスも高い。

 あれだけの実力があれば、魔導学院でも一気に成績上位者になれるのではないだろうか。


「あなた、もしかして甲冑師なの……?」


 この職業も、今や魔導鎧装を作ることが出来る技師という意味となっている。

 今や騎士の花形である魔導鎧装を作るこの仕事に憧れ志望する者は多いが、実際に大成するのはごく僅かだ。


「ンー……まあそうとも言える、のかな? まあ、僕は甲冑師でーすって名乗ったことは一度もないけどね。作ったことがあるのはこのジャンク・ザ・リッパーだけだし」


 ひょいと、先程使っていたガントレットを見せる。

 魔導鎧装は起動状態でない場合は、武具や装飾品に収納されている。

 ジャンクの場合はこの奇妙なガントレットということらしい。


「これを、一人で……」


 ジャンクは間違い無く変人だ。しかし、持っている力は凄まじい。

 もしかしたらこの技術を使えばブラストリアも……と考えたところで、首を振ってその馬鹿げた妄想を追い出した。


「しっかし、この街に来た途端ぶっ倒れちゃうし、助かったと思ったらいきなり戦うことになるしさー。この短時間で妙なイベント起こりすぎだよ。まあ、こんな風にご馳走してくれるアイリに出会えたのはラッキーだけどね!」

「……私、別に奢るなんて一言も言ってないんだけど」

「……おおっと」


 こりゃ参った、とジャンクは頬をかく。


「もしかしなくても、お金無いの?」

「無いよ。すっからかんになっている財布すらねッ!」


 この風来坊、完全に文無しであった。尚、伝票の長さはとんでもないことになっている。というかこの女、ご馳走して貰うにしても遠慮というものが無さすぎる。


「君はおかしいと思わなかったのかい? 色々な食べ物屋さんがある中で、行き倒れているような奴がお金なんて持っているはずがないだろう!」

「……」


 財布の中を確認してみると、ギリギリ足りる。

 本当であれば一生皿洗いやってろと、見捨ててもいいのだが、助けて貰った恩もあるので払ってやることにしよう。

 できれば金輪際関わりたくないと言うのが正直なところだ。


「あー、あとついでにもう一つ頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「……あんた、図々しいってよく言われない?」

「どうして分かったの!?」

「図々しさが体から染み出てるからよまったく……それで、何?」

「道案内をしてもらいたいんだよ。場所はね――」


 今度はアイリがテーブルに突っ伏す番だった。

 その場所は魔導学園内にある寮で、部屋番号がアイリの部屋ときっかり同じだったのだ。


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